ハンウのゴシップネタ
夕食がすんで、スファンが皿洗いをしていた。
いつもは側にいるミキもジョンハとギュボムのゲーム再試合を優香と一緒に楽しんでるようだった。
ホソブにまたもや抱っこされた私は、そのままキッチンに連れて行かれた。
「スファン、ちょっといい?」
「どうした?」
ホソブが居間のほうを気にしつつ声をひそめた。
「あのさあ、今日、ハンウ来てなかったよね」
「ああ、ドラマと映画の話もきてて、忙しいみたいでさあ」
スファンがちらりとこちらに顔だけ振り返る。
「何かあった?」
「う、うん」
困ったように眉を下げたホソブは「彼女とはうまくいってるのかな」と言いにくそうに口をもごもごさせる。
タオルで手を拭きながら身体ごと振り返ったスファンは、
「何か聞いたの?」
「いや、それが」
スファンに近づいたホソブはますます声を低くする。
「俺の友達がさあ、バーに行ってて、ハンウと彼女を見かけたらしいんだけど」
個室から出てきた女性。つい目で追ってしまうほどキレイな人。その彼女が怒ったような顔で店を出て行こうとしていた。そのあとを、個室から出て追いかけていた男。
「それがハンウだったのか」
「そうみたい。友達はハンウとも俺と一緒に会ったことあるし、間違いないと思うって。俺にだけ教えてくれたんだ。何にしても気をつけないと、ゴシップネタにもなりかねないしって」
「まあなあ」
シンクにもたれかかるスファンにホソブは八の字眉のままだ。
「ゴシップやそういうことはある程度仕方ないし、それより、ハンウのことが気になって。あいつ、大丈夫なの? 無理してない? ここのところ個人仕事が多いだろ、俺も撮影が続いてたから全然会えてなくて」
心配そうなホソブにスファンは小さく息をつく。
「何かあれば向こうから話してくれると思うんだ。だから今は様子を見てたんだけどね」
「そうか、そうだよね」
ホソブはそっと抱えたままの秋奈の背中をなでる。
「お互い、もういい大人だもんね」
「まあ、そういうこと」
答えたスファンだが「最近、楽しそうな顔見てないから、ちょっと心配はしてたんだ。ホソブも忙しいのに心配かけてごめんな」
「何言ってんの。スファンも無理するなよ」
「お互いにね」
笑顔で見合う2人にキュンとする。ミキじゃないけど、私も正統派だったわ。
秋奈は抱っこされたまま2人を見ていたが、ハンウのことが気になっていた。
それは会ってからずっと気になっていたこと。
ここに来てから、笑顔を見てないってこと。
夜も更けて、ホソブとギュボムは帰宅。ジョンハは泊まりたがっていたが、着替えもいるので帰宅。
ミキはスファンの眠る寝室にそそくさと移動するし、優花は寂しかったのか、昨晩、ジョンハが泊まった客間のベッドに移動した。
秋奈は1人、居間にいたが、お気に入りの場所に移動しようとしていた。
スファンの住むマンションは、急なお客さまも泊められるように寝室代わりに使える部屋や布団が存在する。
ジョンハが勝手知ったる様子で泊まる部屋は完全な客間だし、楽器類が置いてある部屋にも簡単なベッドがある。
狭い簡易ベッドだが、1人が休むぐらいは余裕だ。
そのベッドの上には天井に小さな天窓がついている。
マンションの最上階で、その部屋の天井は少しだけ斜めになっていて、ちょうどベッドが置いてある上に天窓があって、ちょっとした屋根裏部屋みたいでかっこいいなあ、って。
スファンがいなくて、3匹で留守番しているときに探索して見つけたのだ。
夜、そこに横になると天窓から星空が見える。
そこで寝よう、そう思って廊下を横切ろうとしたとき、ドアからガチャガチャと音がした。
びくりとして立ち止まる。
ジョンハ? 仕事に早く出るスファンのあとから仕事に行ったジョンハは合鍵でドアを閉めていた。
合鍵持ってるんだ~、と、3人で顔を見合わせて笑ってしまったが。それを使って戻ってきた?
夜も遅い、というより夜中に近い時間帯。
まさかね。あっ、それか、スファンのお姉さんか、親戚か。
お母さん?
頭の中でぐるぐる考えていると、ドアノブがゆっくりと回り、すっと開いた。
「あ、あれ、起きてたの?」
顔を覗かせたのはハンウだった。