5人が集まる
焦って弁解していた優花が、ふとこちらに顔をむけてきた。
小さく首をかしげると不思議そうにこちらを見てくる。
「秋奈は落ち着いてるわよね」
すかさず、ミキが反応した。
「そうよ! せっかくのこんなチャンスなのに。まあ姿は猫だけどさあ。猫だから逆に大胆に行動できるし、優花みたいに寝顔を拝見しに忍んでいくことも簡単にできるのに」
「ちょっと、ミキ。それはお互い様でしょ」
優花が顔をしかめた。
「秋奈ってオルペンだったよね。でも……」
「だけどさあ、自分から側にいくことも少ないなんて」
優花とミキがまくしたて始めたと同時に携帯の着信音が流れた。
もうすっかり、あっという間に朝ごはんを食べ終えたらしいジョンハが、スマホを操作し始めた。
「もしもし? あっ、何だ、ギュボム?」
瞬間、口を閉ざしたミキと優花、私は顔を見合わせた。
今、ギュボムって言った?????
「ああ、うん、そうだよ。今、スファヒョンのとこ。え? 朝飯? もう食ったし。何だよ、いいだろ。え? 今日? うん、俺も今日はバラエティの撮影だけど。それならこっちに帰るよ。ヒョンには言ってあるんだろ?」
今日?
いったい何があるの?
って言うか、ギュボムって一番年下のヤン・ギュボムだよね?
顔を見合わせたまま、ジョンハの話声を聞きつつ、目で語り合う私たち。立てた耳に更にこんな言葉が飛び込んできた。
「今日はみんなで食べるんでしょ? え? ホソブヒョンそこにいるの? 代わってよ。えーっ、仕事って、もう!」
スマホを耳から離したジョンハは不満そうに口を尖らせた。
どうやら言うだけ言って切られたみたい。
それも、らしくて、思わず3匹で笑ってしまっていた。
「ねえ、今の話」
「ここに5人が、ギュボムやホソブが来るってことよね」
5人のグループだから、歌って踊っての活動はもちろんだけど、人気が出るにつれ、ひとりひとりの仕事も増えた。ドラマやバラエティに出たり、一人で歌うこともある。
歌番組やコンサート以外は個々の活動が忙しくなっている。そんな5人のプライベートを見ることができるなんて。
秋奈も胸がドキドキし始めていた。
そわそわするうちに、夕方近くなり、スファンがでかい荷物を両手いっぱいに下げて帰ってきた。
キッチンのテーブルに肉やら魚やら野菜やら、どかどかと大量に山を作る。
「食べる人がいるもんねえ」
優花がこっそりと言った。
妙にかわいいエプロンをしたスファンがいそいそと料理を作りはじめた。
「あれって彼女のかなあ」
「やだ、今はいないって言ってたじゃん!」
優花がかわいらしいエプロンを見つつ言うとミキは盛大に頬を膨らませる。
と、ドアフォンが鳴り、スファンがぱたぱたと玄関に走る。ドアを開けると、ホソブとギュボムが顔を覗かせた。
「ホソブ~」
「スファン、今日はごめんね。何か手伝おうか」
上がり込むやいなや、ホソブがお土産らしいビールをテーブルに運ぶ。
「あ、でもこのカップルなら許す」
ミキはこれまた嬉しそうにスファンとホソブの姿を目で追っている。
「ミキって正統派だったわ」
2人してクスクス笑っていると、はるか頭上から声が降ってきた。
「ヒョン、いつの間にまた猫を飼いだしたんですか? しかも3匹も」
見上げると、ギュボムが渋い顔でこちらを見ている。
背が高い分迫力が半端ないんですけど。
びびって後ずさると、優花がひょいと抱き上げられた。
いつの間に帰ってきたのか、ジョンハが「間に合った?」とにこにこしている。
「間に合ったも何も、まだご飯できてませんよ」
「食べに来たくせに威張んなよ」
キッチンからスファンが叫んでいる。
「ギュボム、暇ならゲーム付きあってよ」
言うが早いか、ジョンハとギュボムは仲良く並んでテレビ前のソファを陣取った。
テレビ前には四角いローテーブルがあり、ソファがテーブルを囲むように置かれている。
優花は? と見れば、ジョンハの横に座らせられている。秋奈は、その様子を空いているソファの近くで眺めていた。
「すっかり懐いてるね」
スファンの側にいるミキを見ながら移動してきたホソブがジョンハたちの近くのソファに座った。
足元近くにいた秋奈に視線を落とす。
「みんなおとなしいけど、この子は特におとなしいね」
「ハンウが犬みたいな猫だって」
ゲームのコントローラーを操作しながら、目はテレビ画面を見たままのジョンハが答えている。
「へえ、ホント、きちんと座って。お座りしてるみたい」
面白そうにこちらを見ていたホソブの大きな手がにゅっと伸びた。 すいっと抱き上げられると、秋奈はホソブの膝の上に乗せれていた。