表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/29

それからの日々

 あれから。

 慌しく日々は過ぎて行った。


 会社に辞表を出してきたと言っていた優花は、今はOL時代の先輩が始めた雑貨店で働いている。

 前々から雑貨屋さんを覗くのが好きだし、海外の雑貨にも興味があるようだったけど、まさか雑貨関係の仕事がしたいと思っていたとは知らなかった。

 給料はがくんと減ったし、前より大変と言ってるけど、ずっと楽しそうだ。


 楽しそうと言えば、田舎に帰って結婚すると言っていたミキ。

 今は。


「もう、疲れるわあ」

 約束したカフェ、奥のテーブルに座っていた秋奈と優花のそばにふらふらしながらやってきた。

「どう? 一流のバリスタになれそう?」

「そんなの、まだ尻尾の先さえ見えてないわよ」

 丸いテーブルに突っ伏すと「私もコーヒーと、チーズケーキお願いします」と近寄ってきたウェイターさんに声をかけた。


「ここのウェイター、イケメンぞろいだね」

「それで選んだんじゃないんだけどねえ。女性に人気ってそういうことだったのかな。あっ、thank you」

 これまたイケメンな外国人ウェイターさんが優花と秋奈にコーヒーとケーキを運んできた。優花がにこりとすると、外国人のイケメンも素敵スマイルを浮かべた。


「うーん、やっぱり発音が違うわね」

 ミキが感心して唸っている。

「英語はずいぶん前から習ってるもんね」

 秋奈もうらやましそうに続けた。

 優花は雑貨関係の仕事、特にバイヤーにも興味があったようだ。今は働きながら語学もいろいろと勉強してるらしい。


 ミキはというと、会社は辞めたものの、田舎には帰らず、コーヒー専門店で働きながら週何回かは夜に専門学校で勉強している。

 田舎に帰らず働くことにご両親は猛反対でどうやって説得したのやら。だけど、優花と同じで楽しそうだ。

「いいよねえ、2人とも仕事も勉強も楽しそうで」

 コーヒーに息を吹きかける秋奈は2人から「なに言ってんの」と突っ込まれた。


「だって、今も連絡取り合ってるんでしょ?」

「そんなこと」

「あるけどね~」

 優花はぶんぶんと首を横に振ったがミキはにやにやしている。

 2人とも、韓国から帰ってからも連絡を取り合っているみたい。

 スファンもジョンハも忙しいからなかなか頻繁に会えないみたいだけど、時間を作ってお忍びでやってきている。


「ジョンハもこの前、店にまで来たんでしょ」

 優花に言うと、コーヒーに口をつけたまま小さくうなづいた。

「そうそう、聞いたわよ。閉店時間に来て、山ほど雑貨買って行ったんだって」

 ミキがにやにや顔のまま付け加える。

「そんなこと言って、ミキだってスファンがわざわざコーヒー飲みに来てるんでしょ」

 優花が言うと、ミキは「コーヒー飲みに来たって言うんだもん。仕方ないでしょ」と口を突き出したが、にやけた顔は戻りそうにないみたい。


 2人とも、いい感じみたいでよかったな。

 秋奈は美味しそうなケーキをぱくりと口にいれた。


 ミキが運ばれてきたコーヒーに口をつけると「うーん、50点かなあ」と唸っている。優花が「辛口ねえ」と言いつつ、秋奈に聞いてきた。

「秋奈、絵できたんでしょ? 明日からの展示に間に合ったんだね」

「うん。何とかね。小さい号数だけどね」

 秋奈はにこりとして答えた。


 2人は自分の新たな道を進み始めた。私は韓国で2人の話を聞いてから、ずっと悩んでいた。

 それは、OL生活中も心に引っかかったままだったこと。

 絵の仕事。


 今は、OL生活をやめて、学生時代の先輩が開いている絵画教室を手伝いながら、絵を描き始めたばかり。

 もちろんそれだけじゃあ、食べていくのは大変で、画廊でもバイト中の身だけど。

 先輩のつてや優花を頼ってポストカードなんかも雑貨店に置いてもらえることになった。


「秋奈の絵、いいのよね。OLさんが買ってくのよ。小さな額に入れて飾るのもいいみたいよ。次は小さいカレンダーなんかもいいかもね」

 優花がすっかり営業の顔だ。

「カレンダーかあ、いいかも。ねえ、猫3匹がモデルのを描いてよ」

 ミキがうれしそうに口を挟む。


 あれから、もう何ヶ月になるだろう。

 こうして3人でいると、猫になっていたなんて嘘みたいだ。


「あっ、ごめん」

 ミキが鳴り出したスマホをカバンから引っ張り出す。

「もしもし、ああ、うん、そうよ。わかってる。うんうん」

 秋奈がちらりと視線を優花に向けると、口だけで「スファンでしょ」と言っている。

 そんな優花もスマホの着メロが鳴り、あわててバッグから出している。

 かちゃかちゃと操作してるからメールみたいだけど、顔が幸せそうでジョンハからだと丸わかりなんですけど。


 こういう状況は、猫になって飼われていたことは事実だったんだなあって思わされる。

 ハンウのことは、スファンやジョンハの話をミキや優花が聞いてきて、そのまた聞きで聞くことがほとんど。

 ネットを見れば情報なんてごろごろしてるけど、見るのはちょっと。仕事が忙しいのも本当で、それを言い訳にしてるとこもあるけどネットを見ることはほとんどない。


 あのあと、ドラマも成功し、視聴率もよくて、何かしらの賞をもらったとか。映画でもかなりいい評価を得て、次のドラマもすぐ決まってこれもかなりのヒットだとか。

 よかったなあ、と、ついネットを見てしまったら。

 新しい噂の彼女がいるとか、あのときの彼女がいるはずなのに、そんな記事タイトルを見てしまい、すぐにパソコンを閉じてしまった。


「ねえ、秋奈」

「ん? 何?」

 ジョンハにメールし終わったのか、優花がこちらを見ていた。

「今日はこれからまだ仕事に戻るの?」

「そういう話だったよね」

 電話もすんだのか、ミキもこちらを見ていた。


「明日は受付しないといけないから用意の最終チェックとか。掃除ももう一度、確認作業だけどね」

 2人は「そっかあ」と答えると、じゃあ、と立ち上がった。

「え? もういくの?」

 顔を上げる秋奈に2人はうなづいた。


「夜は学校がね」

 ミキが言う。

「学校って、今日だった?」

 秋奈が首をかしげると、優花が「日にちが変わったんだって。私も戻って、今日届いた雑貨の値段付けしとかないといけないから」

「そうなんだ。2人も忙しいんだね」

「ああ~まあねえ」とうなづいたミキを優花は「展覧会、見に行くからね」と引っ張るようにして店から出て行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ