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このままで

 4人はそれぞれデートに出かけた。

 よかった。明日には帰国だし、ぎりぎり間に合ったかな。

 秋奈はいつもの天窓がある部屋に移動した。

 ベッドの上に飛び乗る。

 明日までには戻るかな。


 スファンやジョンハはハンウに説明しようとしてくれたけど、何とか阻止できた。

 優花やミキはわかってくれたのかも。

 ハンウにはお礼は言いたかったけど。今は余計なことでわずらわせたくない気持ちのほうが大きくて。

 仕事もいい感じらしいし、ドラマも佳境に入ったのか、ここに来る余裕もないようだ。

 スファンやジョンハの話から、仕事も彼女とのこともうまくいってるんだってわかったから。


 だからこのまま。

 猫の記憶のままでいいや、って思ってる。

 彼女がいるんだから。

 このままでいいって。

 思ってるのになあ。

 天窓から見える空を眺めて、秋奈はくるりと身体を丸めた。


 ガチャガチャ

 ん? 鍵?

 足音が聞こえる。

 誰? もうデートから帰ってきたの?


「あれ? みんなは?」

 びっくりして顔をあげた。

「1匹で留守番?」

 手を伸ばしたハンウが秋奈の頭をなでていた。


 ベッドに座り込んだハンウはスマホを操作すると電話をかける。

 たぶん、スファンにかけてるに違いない。

 来てみたら猫1匹だけで誰もいないんだもんね。

 もう2匹もいないんだもの。


「あ、もしもし、うん、俺。仕事? 何だ違うの? で、今どこ? 三毛さん1匹で留守番させて」

 電話の向こうからスファンの焦る声がかすかに聞こえる。

「うん、スファンのとこだよ。仕事帰りに寄ったんだ。え? 帰れ? 何でよ、冷たいなあ」

 ハンウの眉根が寄る。

「三毛さんと留守番してるよ。泊まってっていいでしょ?」

「ダメ!」

 さっきまで聞こえなかったスファンの声が響いて聞こえた。

「何で? ひどくない? 何かあるわけ?」

 そんなふうに返したハンウが私の頭に手をやって、ねえ? と顔を覗き込む。


 秋奈はすとんとベッドから降りた。すーっとドアから出て行く。

「あれ? どこ行くの?」

 後ろから声をかけられたが無視して居間に移動した。


 今はスファンの言うこと聞いて。

 このまま一緒にいたら、いつ人間に戻ってしまうかわからない。

 スマホで話しながらハンウもドアから出てくると秋奈がいるソファに座った。

 同時に秋奈はソファから降りると、キッチンを通り抜け、スファンの部屋の奥、以前も逃げ込んだクローゼットに走っていった。

 後ろから「あっ」と言う声と「嫌われたかな」とつぶやくような小さな声が聞こえた。


 ドアの音も鍵をかける音もしない。

 ハンウはまだ居間にいるのかな。


 あれから、どれだけ時間がたったのかわからなかった。数分か、数十分か。

 私はまだ猫のまま。三毛柄模様の手を見ながら、ハンウが帰ってくれることを祈ってた。


 今まで何も聞こえなかった居間から足音が聞こえた。

 その足音が、廊下を進む。

 玄関じゃなくてこちらに近づいてる?

 クローゼットの前で、足音が止まる。


「ここかな?」

 クローゼットになった部屋。服がたくさん吊られてる下、積み上げられた箱の陰で秋奈は丸くなった。

「あー、えーっと、もう帰るね。スファンも帰れってうるさいし」

 それだけ言ったハンウはまだ部屋の前にいるみたい。移動する足音がしないから。


 本当は声をかけたかった。通じなくていいから、そばに行きたかった。

 だけど、黙ったまま、箱の奥で小さくなっていた。どうぞ、ハンウが帰るまで元には戻らないで。


「また、来るね」

 足音が部屋の前から移動して行く。

 玄関に向かうのが気配でわかる。

 ドアが開き、また閉じた。

 鍵が外側からかけられる。


 秋奈はクローゼットから抜け出すと廊下に走っていた。

 もう会うことなんてない。

 閉まってしまった玄関ドアを見ながら、自分の身体が変化していくことに気がついた。




「秋奈?」

 ミキの声。

「秋奈、どこ?」

 優花の声も。


 居間のソファにいた秋奈は立ち上がって2人を見つめた。

「戻ったのね」

「よかった、秋奈」

 2人がうれしそうに駆け寄ってくる。

 その後ろから、スファンとジョンハもホッとした表情を浮かべている。


「戻ったよ」

 それだけ答えた私は、笑顔でおかえりと言うつもりだった。

 デートはどうだった? と冷やかすつもりだったのに。

 ミキと優花にぎゅっとされて、涙があとからあとから出てきて何も言うことができなかった。


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