朝早くからの行動
ジョンハが「ヒョンに頼まれたから」と3つの皿にご飯を盛ると、鰹節をかけて、私たちの前に置いてくれた。
3匹で食べている側、床にぺたりと座り込んだジョンハは、
「仕事あるんだけど、もう少し時間あるから、話してくね」
と前置きした。
朝早くから姿を消していたスファンとジョンハ。朝早くから仕事もあったのだが、その前に例の路地に行ってくれたらしい。
まさかそんなに早くから行動してくれているとは思わなかった。3匹で頭を下げる。
猫のお辞儀に苦笑したジョンハだったが「でね」と話をつづけた。
「あの路地は区画整理って言うか、でかい商業施設ができるとかで、立ち退き要請が出てるんだ。ほとんどの家が出ていってるんだけど、あの漢方薬局と、数軒の家だけは残ってるんだって」
道理で人通りがないなあ、と思ったはずだ。
「元は商店街みたいで、小さなお店がいくつかあったらしいけどね」
スファンとジョンハはいきなりお店に乗り込むのも、とも思ったが、店は早くから開いており、中には主人らしい男性が丸椅子に腰掛けていた。
どう切り出したものか、と悩んでいると、主人が店の奥から「これは3人のお嬢さんのものではないですか?」と3つのバッグを持ってきた。
「ごめん、中を見ちゃったんだけど、スマホは電源が切れてたんだ。だけど、手帳に聞いてた名前が書いてあったし、スファンのカフェや、何ていうの? 聖地巡礼って言うんでしょ? 僕らに関連のある店の場所が書いてあったから」
そういって、持ってきた大きな袋から3つ、バッグを取り出して床に置いた。
「あーっ、これ!」
即座にミキが反応してバッグを手で触る。
「よかった、あの店の人、取っておいてくれたんだ。って、ということはそこの人が犯人?」
「犯人って。あー、でもそうか」
顔をしかめる優花に秋奈は思わず突っ込んだが、そういうことだよね。あの店の奥、薬箱の前にいた人影は見間違えではなかったみたい。
3匹の様子に「やっぱり君らのなんだね」と納得したジョンハは話を続けた。
「でね、そこの主人が僕らが話す前にあのお嬢さんたちはどうしましたか? って聞いてきたんだ」
顔を見合わしたスファンとジョンハ。
こんなファンタジ-な話をいきなりしていいものか。頭がおかしいと思われるだけなんじゃないか。
悩んだ2人は、
「うちにいます、というか保護しました」
と言った。
「保護」
と返した店の主人は、瞬間、顔色を変え、
「やっぱり」
と視線を落とした。
眉を下げ、申し訳なさそうな顔をあげた主人は、
「本当に悪いことをしました。あなたがたにも迷惑をかけて」
と頭を下げたらしい。
「このあたりは立ち退き要請が出てましてね。だけど、私はここを離れたくないんです。もともとの実家でもあるし妻との思い出の地でもあるです」
薄暗い店に中を主人はぐるりと視線を這わす。
「え? ああ、妻はもう先に亡くなりましてね」
ちょっと笑った主人は「妻は日本人だったんです」と言った。
「だから、あのお嬢さんたちが、猫になりたいとか、飼われたいとか話してるのを聞こえていたんです。ファンなんですねぇ。なんだか微笑ましくて、お茶でも、と、表に出たらバッグだけが落ちていたんです」
主人は、首を傾げつつ店内に戻った。もちろんバッグは預かっておこうと思った。
そして、地下室に入ろうとして、ハッとした。
まさか。
口を押さえて、店の裏手を覗くと、家の排気口から湯気のようなものが少しだけ出ていた。
「まさか、これを吸った?」
すぐに大きな表通りに飛び出したが、そこはいつも通り観光や買い物、仕事で行きかう人たちの姿しか見て取れなかった。




