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妖怪でしょうか

「よかったね。スファンやジョンハに通じて」

 秋奈がホッとしたように言うと、ミキが「まさか言葉だけ人間に戻るなんてねえ」と天窓を見上げた。


 窓からは見える空はまだ夜のものだ。

 満月に近い光を浴びたせいなのか、それとも他の理由なのかはわからないが、なぜか言葉だけが人間に戻っていた。

 姿が戻らず言葉だけ人の言葉をしゃべってるんだから、ジョンハが「妖怪?」と言ったのは無理もないかも。


「スファンは何となく違和感を感じてたのかな」

 秋奈が言うと、ミキが「例の地図を見つけたって言ってたよね」と返した。

 ミキを助けるためにプリントアウトした地図を見つけたスファンは、不思議に思ったようだ。

「それにミキの場所に秋奈と優花が誘導したのも不思議に感じてたんじゃない?」

「そうねえ。確かにどういうこと? って思うもんなあ」

 だから、秋奈たちが人間だとわかって、逆に腑に落ちたらしかった。 

 そのスファンは明日には行動を起こしてくれると約束してくれた。


「明日、あの場所に行ってくれるって言ってたよね。少しは寝ないといけないんだけど、ここじゃあなあ」

 ミキが勝手なことをいい、ベッドにだらんと寝そべった。

「さすがにスファンの側で寝れないでしょ」

 と言う秋奈にミキは、

「まあねえ、スファンも妙に遠慮してたし、ジョンハもねえ」

 ちらりと優花を見ている。

 丸くなっていた優花が小さくため息をついた。


「大丈夫?」

 顔を覗き込む秋奈に優花は口を突き出した。

「何だか、遠慮というか、突き放された感じしちゃって」

 ジョンハが抱え上げた優花をあわてておろしたことらしい。

「あれは、ねえ」

 ちょっと可笑しくなって、ミキを見ると「ねえ」と同じように返してきた。


「あれは、さすがに恥ずかしくなったのよ。今まで、散々べたべたしてた相手が女で、しかも年齢も近い女性だってわかっちゃったんだもん」

「ジョンハったら、赤くなってなかった?」

「なってた、なってた」

 2匹で盛り上がっている横で、優花はますます大きなため息をついた。

「何? 意識してるんだからいいじゃない」

 ミキがそういうものの、優花はすっくと座りなおすと口をへの字に曲げた。


「もし、戻れなかったら?」

「え? えーっと、それは」

「戻れなかったら、猫のままよ。スファンは優しいから飼ってくれるかもしんないけど。私たちの正体がばれてて、今までみたいに側に近寄るのも難しくなっちゃってるのよ」

 口をあけたままミキは固まった。

「やだ、それ」

「でしょ?」

 優花はまた丸くなった。


「でもさあ、言葉は通じる、けど」

 と言いかけたミキは天を見上げた。

「それじゃあ、妖怪と一緒じゃん!」


 これは何とかしても戻らないと。お互いの姿を見て大きく息を吐き出した私たちは背中を向けて丸くなった。


 朝、目覚めると、スファンとジョンハの姿は消えていた。


「こんな早くから仕事だったっけ?」

 秋奈がそう聞くと、優花が不安そうに部屋を見回した。

「私たち、人間の言葉を喋る猫だから、気持ち悪くなって逃げちゃったとか」

「まさか」

 と、返しつつもはっきりと否定はできない。可愛がってた飼い猫がいきなり人間語を話しだしたら、気味悪いかも。

「妖怪認定されたのよー! そうよ、だから姿を消したんだわ!」

 いきなり叫んだミキがぐるぐると部屋を回ると、ソファにダウンした。


「妖怪、みたいよね」

「ちょっと、2人とも」

 猫背の肩を落とす優花とソファで伸びているミキを交互に見やった秋奈は、ふと違和感を感じた。

「ねえ、私、人の言葉喋ってるのかな?」

「え?」

 優花が不思議そうに顔を上げ、ミキがソファから身体を起こした。


「昨晩は人間の言葉を話してたみたいだけど」

「私たちはお互いに言葉が通じる生き物になってるんだもん。はたから聞いて、人間語か猫語かなんてわかんないよ」

 口を尖らせたミキだが「あっ、そうだ」と言うと、スファンの寝室に走って行った。

 首を傾げた優花と2匹で後を追う。


「ミキ?」

 見ると、ベッドの側に置かれたローチェストに飛び乗ったミキが丸っこい手をせわしなく動かしている。

 2匹で飛び乗ると、ミキの手元には1台のスマホ。


「え? これスファンの?」

「忘れ物?」


 操作をし終わったのか、首を横に振ったミキは「数台持ってるのよ」と、スマホの画面に視線を戻した。

 どこかに電話をしてるみたいだけど、もしかして。

 画面が着信画面に変わる。


「もしもし?」

 スマホの向うからはスファンの声が。

 こちらを見たミキは息を吐き出すと、

「スファン?」

 と言った。


 少しだけ沈黙した画面の奥からスファンが、

「ああ、やっぱり戻っちゃったのかあ」

「え? 戻ってる?」

 どういうこと? と3匹で顔を見合っていると、奥からスファンを呼ぶスタッフさんらしき声。

「ごめん、仕事がすんだらすぐ帰るから。はい、すぐ行きます」

 返事もそこそこに電話は切れていた。


「逃げられたわけじゃないみたいね。だけど」

 優花はこちらをちらりと見ると「また戻ってるって。ニャーニャー言ってるってことよね」と小さく息をつく。

「みたいね。昨日の夜だけだったんだ」

 妖怪認定は免れたものの、状態に変化はないみたい。

 と、開けっ放しのドアから、

「あー、言葉戻ってるじゃん」

 よく響くジョンハの声がこだまして。

 ミキはがくりとしたまま、優花と秋奈は苦笑顔をジョンハに向けた。


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