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試してみたけれど

 満月に近いほとんど丸い月。

 天窓から差し込む月明かりは今夜も明るい。


 夜になり、スファンも泊まりに来ているジョンハも寝入った夜中。3匹は天窓のある部屋に集合したのだが。


「何でよーーーーーっ!」

 丸っぽい月を見上げてミキが狼のごとく吠えた。

「やっぱり満月じゃないと効果ないのかしら」

 優花が冷静につぶやく。


「そりゃ、真ん丸じゃないけど、ほとんど丸いもんじゃないのよ。もうっ! ケチくさいんだから!」

 文句たらたらのミキも優花も、そして秋奈も、あいかわらず毛並みがふさふさの猫のまま。

「次の満月は1か月後よね」

 秋奈はため息をついた。


「1か月? さすがに長すぎよ! その間にスファンに彼女でもできたらどーするの!? 私、家出するわよ」

「そこ?」

 呆れ顔の優花だが「私も家出するかも」と小さく唸っている。


「ちょっとちょっと、ねえ、次の満月じゃなくても新月は? 見えなくても効果あるんじゃない? 駄目かなあ」

「それでも15日後よね」

 秋奈の説得にも優花は口を曲げ、ミキはちらりと視線を上げただけ。

 一体、どうしたら。ミキが言うようにさすがに30日もこのままは。

 秋奈は意を決したように顔を2人に向けた。


「ねえ、スファンたちに、あの場所の地図を見せて連れて行ってもらおうよ」

「えっ? あそこの地図?」

 ミキが首を傾げた。

 その横で優花は「あれね」とつぶやくと、ミキを探すために地図検索したことを話した。


「そうなんだ、2人ともありがとうね」

 ぺこりと頭を下げたミキは「だけど」と言った。

「スファンに通じるかな」

 秋奈と優花は、

「ミキが連れていかれた山にも連れて行ってもらえたのよ」

「なんとかわかってもらえたもんね」

 うんうんとうなづきあう。


「必死に頼めば、きっとわかってもらえるよ」

 意気込んで言う秋奈にミキが期待を込めた目で見てくる。

「で、その場所に行って」

「うん」

「何ともならなかったら、その時は」

「その時は?」

 ミキの強い視線に身体が後退する。

「うっ、その時は」


 こっちを見ていた優花が目を細めて言った。

「その時はまた考えるってことね」

「あい、そーです」

「何だあ、何かあるのかと思ったのにー」

 ミキがぱたんとベッドの上に伸びるように横になる。


「ごめん」

 謝る私に苦笑したミキはそのまま天窓を見上げた。

「いいよ、私も何も浮かんでないもん。あーでも、今更だけど、早く戻りたいなあ。スファンの腕の中は居心地良いけど、人間として目の前に立ちたいな」

 優花も天窓を見上げため息をついた。

「そうね。せめて、私たちが人間だってわかってほしい」


「うん、せめて言葉が通じたらね」

 秋奈がそう答えたと同時に、

「人間?」

 と言う声が聞こえ、3匹の尻尾は跳ね上がった。


 3匹して恐る恐る振り返ると、少しだけ開いたドアからスファンがこちらを見ていた。その後ろからはジョンハが驚いた表情を浮かべている。

「人間、なんだね」

 口をあわあわさせている私たちとは対照的にスファンは落ち着いたふうでこちらに近づいてくると、3匹の側に座った。


「あの、どうして?」

 秋奈はそれぐらいしか言葉が出てこなかった。

 よく考えなくても、スファンもジョンハも私たちが人間だと認識している。一体、どうして?

 身体を寄せ合う3匹にスファンはくすりと笑った。

「人間の言葉しゃべってるから」


 え?

 人間の言葉?

 3匹で顔を見合した。


「私たちの話してる言葉、猫じゃなくなってるの?」

 ミキが信じられないというようにスファンを見上げる。

「そうだよ。目が覚めたら、いないし、キッチンに行ったら、話声が聞こえたんだ」

「ヒョンに起こされて、ここから覗いたら3匹で話をしてるから驚いたよ。まさか妖怪とかじゃないよね?」


 妖怪って。

 ジョンハの言葉に思わず優花やミキと一緒に吹き出していた。


「妖怪、じゃないの。本当に人間で。韓国には観光で来たんだけど」

 優花が説明を始め、それにミキと秋奈で補足していった。


「そうか、そんなことに。ごめん」

 いきなりスファンが頭を下げた。

「え? 何で? 何で謝るの?」

 ミキが焦って、スファンの足の上に丸っこい手を置いた。

 一瞬、ミキの頭に手をやろうとしたスファンの手が遠慮がちに戻る。


「うん、その場所から俺が家に連れてきて遠ざけてしまったし。それに変な飼い主を捜してしまって怖い目にあわせたし」

「そんな、拾ってもらえてご飯も寝るとこももらえて本当に助かったんだよ。もしあのままだったらどうなってたか」

 ミキの言葉に秋奈も優花も大きくうなづいた。

「本当にありがとう。大切に飼ってもらえて助かりました」

「だけど、これからもどうなるかわからないけど」

 ぺこりと頭を下げたが、2匹してそのまま肩を落とした。


「ねえ、さっき言ってた場所? そこに行けば戻れるんじゃないの?」

 ジョンハがいきなり声を上げる。

「3匹、じゃなくて3人が猫になっちゃった路地? そこに怪しい店があったんでしょ? とにかくそこに行ってみようよ。もとに戻れるかもしれないでしょ」

「それはわからないけど」

 がっくりしたように返す優花を抱え上げたジョンハは、ハッとすると「あっ、ごめん」とまたベッドの上に優花を戻した。

 何だか妙に恥ずかしそうだ。


 それを見て苦笑したスファンだが、ベッドから立ち上がると、

「その場所に行ってみるよ」

 と言った。

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