理由は何?
「秋奈~」
顔はニヤニヤしっぱなしだ。
「何」
「ハンウさあ、秋奈を引き取りたいんだって」
「はい?」
身体をのけぞらせる私に、優花はそばで「でしょうねえ」と納得している。
興奮状態のままのミキは、
「ハンウね、不思議だけどいい夢を見たって言ってたわよ」
「え!?」
「ジョンハやスファンが突っ込んで聞こうとするんだけど、それ以上は何も言わないのよ。でもね、なんだかニヤニヤしちゃって」
「待って待って、ということは秋奈とハンウは同じ夢を見たってこと?」
優花が口を挟む。
ミキは「うーん」と唸ると、秋奈に顔を寄せた。
「ねえ、秋奈、昨晩、何か変わったことはなかったの?」
「変わったこと?」
「そう、ほら、私たちが眠ったあと、違うものを口にしたとか」
ミキが言うと、優花も「それがきっかけで人間に戻ったってことね」と口をへの字にしている。
「そうとしか思えないわよ。2人してまったく同じ夢を見たんじゃなくて、本当にあったことなんじゃないかと思うのよ」
と真剣に言ったミキだが、こちらに視線を向けると、
「2人してやらしいんだから~」
すぐさまにやけた顔になる。
「そ、それは、夢かもしんないでしょ」
焦る秋奈だが、あまりにリアルな夢で、今でも思い出すと火が出そうになってしまう。
だけど、あれがもし本当のことだとすると、一時的とはいえ、どうして人間に戻ったんだろう。
「何か薬を飲んだわけでもないしねえ。変なものは口にしてないでしょ?」
悩みつつ言う優花に秋奈はこくりとうなずいた。
「2人と同じものしか食べてないし、水ぐらいしか飲んでないし」
「あの部屋で寝たのよね?」
「天窓のある部屋でしょ」
2人に顔を向けた秋奈は「気づいたら、ハンウが運んでくれてたみたいで。で、ふと気がついたら、戻ってて」と返した。
「うーん、ハンウが運んだときは猫だったはずだし、あの部屋に何かあるのかしら」
優花が言うと、ミキが、
「もうみんな仕事に行っちゃったから、部屋に行ってみる? 営みの部屋に行くのは恥ずかしいけどぉ~」
と余計なことを付け加えた。
「ミキ!」
「あはっ、ごめん、嘘よ、って嘘じゃないけど~」
ドアの隙間からすたたっと逃げ出すミキの後を、吹き出している優花を引っ張って追って行った。
天窓のある部屋はいつもどおりで。
窓からは雲ひとつない青空が見えるだけ。
「何もないわよね。当たり前だけど」
ミキがぐるりと部屋を見回した。
キーボードやギター、パソコンも音楽用に使うのかデスクトップが置いてあり、チューニングするような機器まである。
「ねえ、楽器を触ったとか、何かいつもと違うことなかった?」
ミキがキーボードに触れつつ聞いてきた。
「ない。なかったと思う」
秋奈は夕べのことを思い出そうとしたが、思い出すということは同時に恥かしくなるということで。
ため息をついて、天窓から青空を見上げた。
「いい天気」
「そうね。夜にはきれいな星空が見えるんでしょ」
横で優花も青空に顔を上げた。
「うん、昨日は月明かりがきれいだったよ。まん丸な月で」
「まん丸!?」
ミキが叫んだ。
「満月だったの?」
たたたっと部屋の中央にいた秋奈たちに駆け寄ってくる。
「そ、そーだけど。満月がどうし……、え? まさか」
秋奈がまさかと口をゆがめると、隣にいた優花は満月のように目をまん丸にしている。
「満月で姿が戻るなんて、そんな古典的な」
「だって、狼男も満月で狼になるのよ。昨夜なんて、2人して狼に」
「ミキ!」
目を三角にする秋奈にミキはへへへとにやついている。
「まあまあ、2人とも。でも満月は意外にあってるかもよ。他に思い当たることないんでしょ?」
優花が笑いをこらえながらも、きっぱりと言った。
「そうだけど」
「そうよ、きっと! 満月がきっかけだったのよ!」
ミキは鼻の穴を膨らませているが、もしそれが本当だとしても。
「朝には元に戻ってたってことよ」
秋奈が言うと2人は顔を見合わせた。
「それでもいいんじゃない?」
先にそういったのは優花だ。
「一晩でも人間に戻れたら、あの場所に行ってこれるし、ジョンハやスファンに説明できるし」
「そうよ! そうしよう!」
ミキはおおいに乗り気だが。
「でも、今日はもう満月じゃないよね」
秋奈が思っていたことを優花が口に出す。
「えーっ、じゃあ、1ヶ月だっけ? 待つってこと?」
ミキが冗談じゃない!と憤慨したが、
「満月に近いんだからなんとかなるかもよ」
と適当なことを言い出した。
「ここに来てから月明かりを浴びるなんてこと、私はなかったし、してみて駄目なら駄目でまた考えたらいいし、とりあえずやってみようよ」
「毎晩、スファンのそばに入り浸ってたもんねえ」
秋奈はお返しのように言ってやったが、
「でもやってみようよ、何か効果があったらラッキーだし」
「そうね。あの場所に行ってみるのはそれからでも遅くないよね」
優花も賛成し、今夜、作戦を決行することになった。




