月明かりに照らされて
「じゃあ、泊まるんだな。明日は仕事は?」
スファンが確認を取り始めるのを横目で見つつ、ミキがにやにやしたまま。
「よかったわねえ~秋奈ぁ~」
といやらしく語尾を伸ばしている。
「ねえ~、ハンウの側かあ、ちょっとうらやましいかも」
「ちょっと、優花、ジョンハが聞いたら怒るわよ」
ぺろりと舌を出した優花は「基本、オルペンですから」とこちらをこれまたにやりとした顔で見てくる。
「もうっ、いい加減にしなさいよ。2人とも、いっつもスファンかジョンハの側から離れないくせに」
秋奈はむっとした顔をすると「それに」と続けた。
「私は、今夜は居間のソファで寝ますから!」
「えーっ、いいじゃない、ハンウの側で寝たら」
「そうよー、そんな怒んなくても」
2人して言い募ったが、秋奈は「怒ってません」と返すと、すたすたとソファに進んだ。
「怒ってるじゃん、ねえ」
ミキが口を尖らせてそう言っているが、怒ってるのかな。
いや、怒ってるわけじゃなくて、どうしていいかわからなくなってるだけなのかも。
今、自分は猫で、猫なんだから、別に何も気にすることもないのに。
側で眠れたら。
一緒にあの天窓から星空を見れたら、月夜を眺められたら。
猫の自分は何も気にしなくていいのに。
だけど、どこかで、割り切れない自分もいて。
「じゃあ、おやすみ」
と、スファンが寝室に行き、そのあとをミキもついていった。
「おやすみ」
と、片手を上げて、ジョンハは優花をひょいと抱え上げて客間に入っていく。
ハンウも2人におやすみと言うと、こちらに視線を向けた。
「お前はそこで寝るの?」
ソファに飛び乗り丸くなった私に声をかける。
「にゃあ」とだけ小さく返事を返した。
「俺が場所取っちゃったかな」
頭に手をやったハンウは、
「いつでも来ていいから」
と、大きな手で背中をそっとなでてくれた。
もっと小さな聞こえるか聞こえないかわからないような声で「にゃあ」と答えて目をつぶった。
背中の毛並みは、丸くなった小さな身体は、どこから見ても猫で。
猫だから、大事にしてもらえてるのに。
彼女とはうまくいってるんだよね。
よかったねって思うのに。
上手に甘えられない。
猫なのに。
彼女のことなんて考えなくていいのに。
猫だから、何も気にしなくていいのに。
……猫じゃなかったらよかったのに。
ぐるぐるした考えが頭の中にうずまいて眠れないかと思ったが。
昼間の疲れはかなりきていたみたいで。
ふと、気がついて、目を開くと、目の前にハンウの顔があった。
あのままソファで眠っていたはずだけど。
途中でこっちに運んでくれたのかな。
全然気づかなかった。
見上げると、天窓から星が見える。
真っ暗な部屋の中。
窓からの月明かりがベッドを照らす。
今夜は満月だったんだ。
真丸い月を見上げ、ベッドに視線を戻すと、ハンウがタオルケットを纏うように丸くなって眠ってる。
横顔がキレイだな、なんて不謹慎なことを思いつつ、白い頬に触れてみたくて、無意識にそっと手を伸ばしていた。
手に指に肌の感触が伝わる。
肌に触れる肌の感触。
肌?
私の手は、絵筆を持てる手で……
手?
5本の指がある手?
びっくりして自分の両手を見つめ、身体に視線を移動させる。
それは猫の身体じゃなくて。
戻ってるの?
それとも全部夢?
驚いたまま見つめていた私の手を、綺麗な長い指が触る。
目を開けたハンウが不思議そうにこちらを見つめていた。
「……夢?」
夢うつつのようなハンウの声。
その指が、手が伸び、私の頬に触れる。
「夢、だよ」
そう答えた私の頬に触れたまま、ハンウは身体をそっと起こした。
そのまま、ゆっくりとハンウの顔が近づいてきて……
そのまま……
天窓から差し込む明かりだけが2人を照らしていた。




