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家に帰って

「どこまで行けばいいのかなあ」

 ジョンハが運転しつつ首を捻った。


「登山口の途中までは車で行けるだろ。そのあたりまで行ってみたら?」

「だなあ。なあ、どこまで行ったらいいんだ?」

 ハンウが答える横でスファンが秋奈たちに問いかける。


 ミキからの電話は車の中からだった。

 山に向かっているらしいのは確かで。

 まさか、あの女の人が登山してまで自分の労力を浪費するとは思えない。行けるとこまでは車でいくはずだ。


 2匹して答えるように「にゃあ」と車が進む方向に顔を向ける。

 それを見ていたハンウが「まっすぐ進めってことかな」と言うと、

「行けるとこまでみたいだね」

 ジョンハがハンドルを切った。


 木々が茂る間を続く坂道を車が進む。ここに来るまでは車も何台か見かけたが、平日のせいか、山に入ってからは途端に少なくなった。


「坂道に入るまでにコンビニや小さな商店を通り過ぎたけど、そのどこかから電話したのかしら」

 優花が不安そうにまた車窓から外を見つめている。

「たぶん。どこの店かはわからないけど。反対車線の車の運転手を気にして見てたつもりだけど、あの女いなかったよね」

 もう山に行って、ミキを放り出して車で戻ってきてるかも、と、反対車線を気にしてはいたが。また電話がかかってきてくれたらいいのに。スファンのスマホは黙ったままだ。


「もし、ミキを置いて帰ったとしても、ミキは私たちが来るって信じてるよね」

 優花が窓から外を見つめたまま、不安を取り消そうとするように喋っている。

 秋奈は優花の背中に向かって大きくうなずいた。

「きっと駐車場で待ってるよ」


 車は坂道を登り、広い場所へと入って行った。

 駐車場の看板が見える。

 車は何台かが停まっている。


 あの女は? ミキは?

 ドアが開くのももどかしくて飛び出して行きそうになるのを、大きな手で止められた。

 顔を上げると、ハンウが秋奈と優花を腕に抱くようにして外に出てくれた。運転席から降りてきたジョンハに優花を手渡したハンウの腕の中で、駐車場に目を凝らす。


 車の種類を聞いとけばよかった。

 駐車場に置かれた白いワゴン、ベージュの軽、黒いミニバン、黄色いスポーツカータイプ。

 あんな人ならかっこいい系かも。と、首を伸ばすと、黄色い車の後ろから、髪の長い女がバスケットをゆらゆらと揺らして出てきた。


「あっ、あれ!」

 優花が叫んだ。秋奈も「ミキ!」と叫ぶとハンウの腕から飛び出した。

 2匹で女が出てきた茂みに向かって走った。


 こっちに気づいた女が驚いた顔で私たちを見、その後ろにいるハンウやジョンハを見た。

 まずい、というように顔が歪んだが、すぐさま笑顔を浮かべて、こちらに寄ってきた。その足元を通り過ぎた私たちの耳にミキの声が聞こえた。


「ミキ!」

「秋奈? 優花?」

 茂みからミキの靴下を履いたような白い足先が見えた。

 瞬間、秋奈と優花の横を大きな足が駆け寄り、通り越して行く。

 立ち止まった私たちは、よかったと息をついた。

 私たちの目の前で、スファンがミキを抱きかかえていた。




 全員でスファンのマンションで大きく息をついた。


「まさか、捨てに行くなんて」

 ジョンハが怒ったような、いや、本気で怒っているようだ、むっとした顔でソファに座っている。

「まあ、よかったよ、こうして無事に連れ戻せて」

 私たちのご飯を用意してくれたスファンが床にご飯ののった皿を置いた。

 一番ぱくついているミキの背中を愛おしそうになでている。


「ご飯もあげてなかったのかな」

 ハンウが信じられないというように肩をすくめてこちらに視線を向けている。

 ご飯は一応出してくれたようだ。だが、最初だけで、ミキが部屋を荒らしまくってからは水すらもらえなかったらしい。


 優花と2人「ひどい!!」とミキに同情して、女の行動に腹を立てたが。ミキが「部屋にあった、ブランドの服もバッグも引っ掻いてやった」と鼻を鳴らしたのを聞いて、少しばかり女に同情してしまった。


「あの女の人、ヒョンと仲良くなりたかったんだよね」

 ジョンハが呆れ顔を浮かべるがハンウは「そういうのもあるよなあ」と妙に納得している。

「残念だったね、美人だけど、ああいううタイプじゃねえ」

「勘弁してくれよ。綺麗でも心が綺麗じゃないと最悪だよ」

 スファンがため息をついて立ち上がるとソファに移動した。


「今日も泊まってくの?」

 ジョンハの肩をぽんっと叩く。

「そのつもりだけど。ハンウは帰るんでしょ?」

 振られたハンウは「うーん、そうだねえ」と返事にならない返事を返していたが。

「あそこで寝ていい?」

 と、部屋のドアを指差した。


「あ? 楽器部屋? いいけど、あそこ、狭いだろ」

 返したスファンは、ハンウの隣に座ると、ぐいっと顔を近づけた。

「いいの~? 帰らなくて? 待ってんじゃないの?」

 ジョンハも「だよねえ」と身体を乗り出しにやにやした顔を向けている。

 身体をのけぞらせたハンウは、「うるさいよ」と立ち上がった。

「あの部屋で眠るの好きなんだよ。天窓から夜空が見えていい感じで。なんだか天井裏みたいでさ」

 秋奈は自分とまったく同じことを言ってるハンウに驚いて、思わず振り返って見てしまった。


「泊まるのは構わないけどさあ、あそこはうちの三毛さんのお気に入りの場所になってんだよ」

 キッチンの隅でご飯を食べている秋奈にハンウがへえ~という顔を向けた。

 口角がきゅっと上がる。

「そうなんだ。じゃあ、今夜は側で寝かせてもらおうかな」

 目が合って、その目が丸くなってしまい、あわててご飯に顔を戻

 すと、横で優花とミキがにやにやした顔でこちらを見ていた。



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