山に行く
顔を見合わせて、静かになった画面を見つめていた。
どうしたらいい?
すぐに助けに行かなきゃ! 山になんて捨てられたら、人間に戻るどころか、死んでしまう。
2匹して何も考えつかないまま、玄関に向かってダッシュしていた。
猫のドアから飛び出していこうとした途端、玄関ドアが開いた。顔を上げると、ジョンハとハンウが頭上から私たちを見下ろしていた。
「どこ行くの?」
ジョンハが手を伸ばすと、優花はその腕をつかんだ。こっちに来いと言うように、後ろ足で後退しつつ引きずっていく。
「え? 何? どこか行きたいの?」
不思議そうなジョンハが困ったようにハンウに顔を向ける。
ハンウの視線がこちらに落ちた。
秋奈はハンウのジーンズの裾をくわえて引っ張り、すぐさま離すと、居間に駆け戻った。
ローテーブルに飛び乗ると、さっきまでミキの声が聞こえていたスマホの画面を扱いにくい手で操作する。
そこに優花も駆け寄ってくると、2人して画像画面を目を皿のようにして見つめた。
「あった!」
ホソブとその友達らしい数人が山の上で写っている画像。
何事かと側までやってきたとジョンハとハンウに画像を見せて、にゃあにゃあと訴えた。
「え? 何、ホソブ?」
と、そこにシャワーを終えたスファンが服を着替えて居間に来た。
「あれ? いつ来たの? つか、何してんの?」
不思議そうに2人と2匹を見ている。
「あ、ヒョン。いや、この子たちが」
説明に困っているジョンハに優花が「だから、ここに行かないと!」とニャアニャア言い、テーブルから降りた秋奈はまたハンウのジーンズの裾を引っ張っていた。
「いったい、どうしたんだよ」
スファンはスマホを手にすると、画面を見て頭を捻っていたが、「あれ?」と画面をジョンハとハンウに向けた。
「なあ、電話出た?」
「電話? いや、来てからは鳴ってないよ。2匹がこの調子だし、ねえ」
顔を向けられたハンウは、秋奈に視線を落とすと、
「ねえ、さっきの山に行きたいんじゃない?」
と言った。
「そうよ! 早く行かないといけないのよ!!」
優花と2匹声を合わせると、タタタッと玄関に走った。
「何かそんな感じだね」
ジョンハも腑に落ちたのか、車のキーをポケットから出して、玄関に向かってきてくれた。
優花がうれしそうにニャーと鳴く。
「とにかく、行こうよ。何かあるみたいだし」
ドアを引っかいている秋奈を抱きかかえたハンウがスファンに振り返った。
ジョンハの運転する車は市外を抜けていく。窓から見える景色も緑が多くなってきた。
あれから、ホソブに連絡したジョンハ。ちょうどドラマ撮影の休憩中らしかった。
「山? 仁韓山だけど。それがどうかしたの?」
「今から行くんだ」
「今から!?」
スマホの奥から聞き覚えのある声がする。
「ギュボム?! 何で?」
「ヒョンのドラマにゲスト出演するんですよ。言ったでしょ。今から山行って何するんです? BBQですか?」
食いしん坊のギュボムの声が響く。
「ほら、ギュボム、代わって」
ホソブがスマホを取り上げたのか、
「仕事じゃなきゃあ案内するんだけど。気を付けて」
困ったような顔したホソブの顔が浮かぶ。
「ありがと。結果は今度話す」
スファンが横から叫ぶ。さすがに正統派のふたりは説明が少なくても何とはなしに通じるとこがあるみたい。
つい、優花と顔を見合わせていた。
「さあ、行くよ」
ジョンハはカーナビを操作すると、すぐに車を発進させた。
後部シートに乗っているスファンはスマホの画面に目を落としつついまだ悩んでいるようだ
「さっきの電話って誰からだったの?」
その様子を見ていたハンウが声をかけると、スファンは「あの子の飼い主」と画面をこちらに向けた。
側にいた秋菜も優花もちらりとスマホ画面をみて首をすくめた。
つい、あの女からだと思った瞬間、スマホ画面にタッチして通話状態にしてしまった。だが、そのおかげで、ミキの状態がわかったのだが。
いったい、今、どのあたりにいるんだろう。
電話をくれたときは車の中らしかった。既に山についているんじゃないか。置き去りにされてるんじゃないか。
気になって気になって、車窓から見える外にばかり目がいってしまう。
「電話はしてみたの?」
こちらをちらりと見たハンウはスファンに聞いている。
「かけてない」
スファンは答えると、スマホを膝の上に置いた。
「今日、あの女性のとこに行こうと思ってたんだ」
そう言って、立ち上がって窓にくっつくようにして外を見ていた私たちの背中をなでた。
「この子らも連れてね」
「ああ、それで僕も呼んだんでしょ」
運転しながらジョンハが言った。
「まあね。いきなり行こうと思って」
「いきなり? じゃあ、連絡してないの? 飼い主の人に」
ハンウの問いにスファンはこくりとうなずいた。
「言ってない。いきなり行ったほうがいいと思って」
それって。
振り返って、スファンの様子を見つめた優花と秋奈は視線を合わせた。
「怪しい人なのか」
「え? 怪しいの?」
言い切るハンウにジョンハがでかい声をあげる。
「なんとなくね」
言いにくそうに返したスファンは手の中のスマホを触っている。
「飼い主って言うわりに、どう見ても違う気がしてさあ。でも、かわいがってくれるなら、それでもいいのかも、とも思ってたんだ。仕事が忙しいと、なかなか世話もできなくなるしね」
スマホの画面にはいつ撮ったのか、眠っているミキの姿が写っている。
「それはわかるけど」
ジョンハがハンドルを切ると、長いのぼり道に入っていく。
「本当の飼い主なら仕方ないんだけどさ」
スマホに視線を落としたままのスファンの肩をハンウがぽんぽんっと軽くたたく。
「もう山に入るよ」
窓から見ると、入り口の大きな看板が後方に過ぎていった。




