2匹の計画
「えーっ!!!! 飼い主が見つかったの?」
仕事終わりにるんるんとやってきたジョンハは、部屋の中で棒立ち状態。
ソファに沈み込むように座っていたスファンが「ああ」とだけ答えた。
「嘘でしょ?」
「嘘じゃない」
がっかりとしているのは私たちにも一目瞭然だ。むっつりと黙ってしまったスファンの側に、ジョンハは静かに座った。
「飼い主がいるだろうって、知り合いやお姉さんたちに聞いてもらうようにしてたって言ってたけど」
そうだったの?
優花と顔を見合わせた。
汚れてないし、飼い猫だろうって話をしてたけど。飼い主を探していてくれたんだ。
それが普通の行動だとわかっていても、今の事態は非常にまずい。
「でも、本当の飼い主が見つかったんだからよかったじゃない」
そういいつつも声のトーンが低いジョンハに、スファンは顔も上げず「だよな」と答えただけ。
ジョンハがはげますように話し込んでいるのを横目で見つつ、私と優花は他の部屋へと移動した。
「どうしたら」
優花が部屋のドアから外をうかがう様にして言った。
さすがにあの2人に伝えても無理だってわかっているのだろう。
秋奈もため息をつくとドアから視線を戻した。
話が通じてるみたいだって、ジョンハもスファンもかわいがってくれてはいるけど。私たちが話している言葉がわかるわけではないし。ミキを連れて行ったのは偽者だって、言っても言っても通じなかった。
「当たり前だけど、仕方ないよね。2人で何とかしないと」
「でもどうやって?」
しかめっ面の秋奈に返した優花が声をひそめた。
「あの女、スファン目当てよね」
「そうとしか思えないよ。これできっかけができるって思ったんじゃないの?」
あの様子からして、ミキをダシにしてスファンと繋がりを持ちたいのはみえみえだ。
「連絡が来るのを待つ?」
「でも、ミキのあの様子から考えておとなしくしてるとは思えないし」
「部屋中暴れまわるかも」
「高そうなブランドの服なんて引き裂いちゃうかも」
2匹で思わず顔を見合わせた。
「そんなことしたら、あの女黙ってるとは思えないわよ」
優花が言うようにどんな行動に出るかわからない。
「何とかしないと」
「ねえ、やっぱり人間に戻らないと」
秋奈の言葉に唸っていた優花が目をぱちくりとさせる。
「どうやって?」
「あの場所に行ってみようよ。それがダメなら、猫のままでもいいから、あの女のとこに乗り込むのよ!」
ますます目を丸くした優花がぷっと吹き出した。
「優花?」
「ううん、そうね、3匹で大暴れしてやりましょ」
「うん」
優花と2人、これからの行動の計画を立てていた。
スファンが寝入ってから、スファンのパソコンを操作したり、女が残していったメモ用紙を探したりと大忙しだ。
「今晩はジョンハが帰ってくれてよかったわね。いたら、優花を放してくれないもんなあ」
秋奈が口の端を上げると、優花が「う・る・さ・い」と小声で返してきた。
手はがちゃがちゃとキーボード上を動いているが、
「扱いにくい」
と口を尖らせている。
「こういうときは猫でよかったわよね。パスワードも簡単に見れてたし」
「そこはね。ねえ、あの路地ってここらへんかなあ」
2人して相談した結果。やっぱり人間に戻れるなら、それが一番話が早いってことになった。
人間なら簡単にミキを取り返せるし、ミキを人間に戻して逃げ出すことだって簡単だ。
あの路地、路地にあったあやしそうな店に原因があるのかも。
今はそれぐらいしか考えつかない。
そこの場所を調べて、そこに行く。それでダメなら、女のとこに乗り込む。
3匹で暴れたら、逃げ出すすきぐらい出来るだろう。
夜中に、メモ用紙を探し出し、路地の場所と、女の住所から住んでるとこを地図で検索することにした。
「ねえ、あのメモ用紙みつかった?」
「それが」
地図検索をした結果をプリントアウトしていた優花に秋奈は困った顔を向けた。
「ないのよー」
「ないって、スファンがもらって、どうしてたっけ?」
「キッチンかこのあたりかのどこかに置いたと思うんだけど」
キッチンに振り返るが、テーブルの上や、カウンターの上なんていう、わかりやすいところにはなかった。
「引き出しかなあ」
「かもねえ」
2匹して、キッチンの捜索を始めようとした瞬間、どこかのドアがかちゃりと音を立てて開いた。
あわてた優花が即座にパソコンの電源を切った。
「なんだ、2匹ともここにいたのか」
スファンが手を伸ばすとテーブル下に移動して素知らぬ顔を装っていた優花の頭をなでた。
「お前たちもさびしいよな」
パソコンが置かれたテーブルの椅子に座ると、積み上げられたCDケースを開け、1枚の紙を引っ張り出した。
あっ、あれ、メモ。
あんなところにあったんだ。
優花も秋奈も目を丸くしてお互いを見やったが、スファンが、
「明日にでも会いに行こうかな」
なんて言うもんだからもっと目が丸くなった。
驚いている私たちをよそに、スファンは「お前たちも一緒に行こうな」とにこりとすると、優花をひょいと抱えあげた。
抱えあげられた優花が目を白黒。
立ち上がったスファンは驚いて固まっている秋奈も抱え上げた。
「ほら、2匹とも寝よう」
スファンの腕の中、2匹して驚いた顔を見合わせたまま、連れて行かれた。




