第95話 謁見
エルマ精霊国の王都は城塞都市ではない。高い壁に囲われている訳ではないのだ。その防御はエルフと共生する森が担う。
精霊の住まう木々に守られてエルマ精霊国の王都は繁栄していた。繁栄しているとは言っても他国の都市とはその趣が違った。
「森の中に街が飲み込まれたみたい…」
感慨深げに呟いたアリシアさんの言葉が端的にこの王都を表現していた。建物が、いやエルフ達の存在そのものが森に調和しているのだ。
「何だか森の生命力に圧倒されちゃいますね…。」
私の感想に何だかとっても自慢気なユーリ。
「そうでしょそうでしょ!ララーシャの作った街はすごいでしょ!」
隣でうんうんと頷くハンナさん。とってもすごいとは思うけど、ユーリの顔が微妙にうざい…。
私達は特に身分の誰何を受ける事もなく、王城へとたどり着いた。
王城といっても周辺諸国のような堅城ではない。ちょっとした生垣に囲まれた屋敷だ。ラーシャやララーシャ女王の身辺は安全なのかしら…?
「精霊によって祝福された木々に守られた屋敷です。どんな石垣よりも安全ですよ。」
私の心を見抜いたようにハンナさんが答えてくれた。そうなんだ。何だかすごいな。
「ああ、ここに来るのは久しぶりだな。」
感慨深気にユーリが呟いた。そうなのだ。ユーリはエルマ精霊国の英雄なのだ。この屋敷にも何度か来た事があるのだろう。
「待て!」
屋敷の中に通じる門の前で2人のエルフの戦士に阻まれた。
「ミミ、ミキ。こちらは…」
ムライさんの言葉を最後まで聞かず、ミミ、ミキと呼ばれた戦士が礼をして門を開けた。
「ユーリさん!ナルミさん!」
門の中から飛び出して来たのはラーシャだった。
「ラーシャ!」
「お待ちしてました!アリシア様。」
私達に飛び込んで来たいのだがアリシアさんの手前、我慢しているであろうラーシャがかわいくて思わず微笑んでしまった。
「ラーシャ様、アリシア・サバドです。以後、お見知りおきを。」
ラーシャはアリシアさんの手を握ると皆を見渡した。
「ゆっくりお話しいたしましょう。ララーシャ女王がお待ちです。」
私達はラーシャへ屋敷の中へと案内された。
◇
屋敷の中には靴を脱いで上がった。お、これは気持ち良いなあ。私は板張りの廊下を進みながら思っていた。
「ラーシャ、まだお風呂はあるの?」
ユーリの言葉にラーシャは大きく頷いた。
「はい、露天風呂もありますよ。」
「へへへ、ナルミ。後で入らせてもらおうよ。広くて気持ち良いよ。疲れが取れるんだ。」
ユーリは先ほどからとても楽しそうだ。ニコニコしている。
それにしても王国の城とは全然趣が違う。基本的に木造で、柱や梁がむき出しの造りになってる。太い木の柱が屋根を支えている。黒光りした梁が天井を組み、木の温もりが感じられる。壁には漆喰が使われ、白く滑らかだ。各部屋に通じる入口は引き戸になっていた。
「へえ、ユーリ。このような作りのお家は初めて見ました。」
廊下には花が生けてあり、とても雅やかだった。
「後でお庭も見せてもらいなよ。とってもきれいだから。」
「私も良ければ見せて欲しいです。」
アリシアさんも目をキラキラさせていた。
「ふふふ、では後ほど私が案内いたしますね。」
ハンナさん!よろしくお願いします。
「皆さま、こちらです。」
ラーシャは一つの部屋の前で膝をついた。
「ララーシャ様。アリシア様をお連れしました。」
中から入室を即す声が聞こえた。ラーシャが部屋に通じる引き戸を開けた。中には、エルマ精霊国の部族の長が居並び、周りを護衛の騎士が取り囲んでいた。
床は植物の茎を編み込んだマットが敷かれてとても清々しい香りを放っていた。後で聞いたら『畳』と言うらしい。
そして、中央には艶やかな甲冑を着込んだララーシャ様が黒檀の椅子に座っていた。ユーリは何も言わずにアリシアさんの脇に立った。
「アリシア殿。遠路、ご苦労様。話はバール国王から聞き及んでいる。朕としては歓迎する意向だ。詳細はマルゴ宰相と詰めてほしい。マルゴ、良いな。」
ララーシャ様の脇に控えていた初老(うーん、いったい何歳なんだろう?)の男性のエルフに声をかけた。
「は、御意。」
「ララーシャ様、この度は快く申し出に応えていただき、ありがとうございます。両国にとって最善の方策となるよう努力いたします。しばらくの滞在になるかと思いますが良しなにお願いします。」
アリシアさんはきれいな礼をした。ララーシャ様はそれに応えると立ち上がり、別室へと下がっていった。部族の長がそれに続く。ふう、ララーシャ様ってあのような場では迫力があるんだよな。
アリシアさんは立ち上がると部屋を出て行こうとしたのだが。
「ユーリ様!!」
その場に居たエルフ達にユーリは囲まれていた。
「ユーリ様!おかえりなさい!」
「ユーリさん、戻ってきていただいて感無量です!」
「うん、皆んな!ただいま!」
エルフ達から大きな歓声が上がった。ああ、何だか自分の事みたいでうれしいなあ。皆にもみくちゃにされているユーリを私はアリシアさんと一緒に眺めていた。
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