第94話 予感
「ふわはははは!見つけたぞ!ユーリ!」
「もーう、しつこいなぁー。」
ふう。私はクロスガンに込めた魔力を解除した。髪の色が黒色に戻る。
「ちょいちょい、ナルミさん?」
「うん、まあ、がんばってください。」
アルファジオの魔力は魔獣みたいなんだな…。確かに見た目からして魔獣っぽいもんな…。そんな事を考えていたら。
「ユーリ様!」
アルファジオと一緒にいたエルフがユーリに声をかけた。怪我をしている。生傷が痛々しい。
反応したのはムライさん達。
「バン!お前、その身体は?」
「ああ、ムライ殿。この御仁、アルファジオ殿に助けられた。」
あれ?そうなんだ。
「バン!何があった?」
バグが走り寄って来てバンへ聞いていた。
「死の商人だ!アルファジオ殿に教えてもらった。ユーリ様、エルマ精霊国をお救いいただきたい!」
ガバっと頭を下げたバンにユーリは当惑していた。死の商人?エルマ精霊国を救う?どういう事?
「バンと言ったね。どういうことか?説明してくれるかな?」
「ふあははは!ユーリよ。俺が説明しよう!」
アルファジオがグイっとユーリに迫って来た。
「ひっ、ひーー」
ユーリが悲鳴をあげて後退りしていた。はあ、しょうがないな。
「アルファジオと言いましたね。私が話を聞きます。」
アルファジオは胡散臭げに私を見ていたが、
「お前!サバド領都の門を吹き飛ばしたやつだな!ふはははは!相手にとって不足無し!」
大型の盾を構えて剣を抜き、私に襲いかかって来た。
「ひっ、ひーー」
ユーリの気持ちがわかった。あいつは本能的に相容れない。すかさずピー子が私に魔力を送り込んで来る。私の髪が銀色になる。このピー子の魔力!す、すごい!私は魔刀を抜くとアルファジオの剣を弾きとばした。
「な、何と!この斬撃を弾くか!!」
アルファジオが絶叫した。ひーー、この声を聞くとゾワゾワする…。
「アルファジオ!やめろ!」
ユーリが嫌そうにアルファジオへ声をかけた。
「おおお、ユーリ!その女に嫉妬しているのか!!??」
「ち、違うから!!」
だが基本的にアルファジオは人の話を聞いていない。
「なんて愛いやつ!」
そしていきなりユーリに抱きつこうと間合いを詰めて来た。
「ひ、ひっひえーー。」
ユーリは悲鳴をあげると金の刀に膨大な魔力を込めてアルファジオの胴へと撃ち込んだ。
「ぐっうえーー」
アルファジオは奇妙な声を上げると文字通り地面へと叩き伏せられていた。あ、あれは死んだんじゃないかな…。私はそおっとアルファジオの顔を覗きこんだ。
「し、白目だけど気を失っているだけだ…。信じられないタフさ…。」
私は念のためクロスガンで泥弾をアルファジオへと撃ち込み、動きを封じた。
「あ、あの…」
バンが恐る恐る私達に声をかけて来た。
「ああん?何だ!!」
ゆ、ユーリ。気が立っているのはわかりますが、柄が悪いですから…。ほら、バンが怯えている…。
「ひっ、あ、あの、ユーリ様はアルファジオ殿の許嫁なのではないのですか?」
ブワっ。ユーリから魔力が陽炎のように湧き立った。こ、この魔力は…凄まじい。皆、冷や汗をかいて震えていた。
「あ、あ、あの…」
バンはその場に腰を抜かして尻もちをついていた。
「ああん、誰が許嫁だって??」
ゆ、ユーリ。怖いですから!
「ちょっとちょっとユーリ!圧!圧がすごいから!」
私の言葉にユーリはハッとした顔をした。魔力がユーリから引いていく。ホッ、良かった。
「ごめんぴょん。えへへ、失敗しちゃった。」
ユーリはいつもの気持ち悪い笑顔をするとニカッと笑った。ユーリ、逆に気持ち悪いですからね!
「ふははは。ユーリ!何と何と愛くるしい笑顔だ!」
何ーー!気を失っていたはずのアルファジオは私の泥弾による拘束を力づくで引きちぎるとゆらっと立ち上がった。
「う、うそ…」
だがアルファジオのタフさもここまでだったようだ。立ち上がったところで力尽き、後ろへぶっ倒れた。
「…ま、まあ、こいつは放っておこう。」
ユーリの言葉に皆、頷く。
「まあ、とにかく王都へ向かおう。話は歩きながら聞くよ。バン、よいね?」
「はい、ユーリ様。」
皆、アルファジオを放って次の集落へ向かって歩き出した。
よ、良いのか?アルファジオはこのままで良いのか?と思ったが…。まあ、あいつは死ななさそうだし、まあ良いか。と思い直し、私もユーリの後を追った。
◇
「なるほど、死の商人はワープホールを狙っているからね。アリシアを殺害してエルマ精霊国と王国の間に諍いを起こしたいのかな…?そのバーキン族の長がエルマ精霊国の王になれば、死の商人にとっても利がある。まあ、ララーシャの身辺も心配だね。」
「はい、ラーシャ様の事も心配です。早く戻ってお側にいて差し上げないと…」
ハンナさんが心配そうに呟いた。
「うん、早く王都に行こう。」
そんなユーリにバンさんが恐る恐る声をかけた。
「アルファジオが言うには…」
アルファジオという言葉にユーリの眉がピクンと跳ねた。
「あ、あの…」
「ユーリ、落ち着いてくださいね。」
「ナルミ…、うん。」
「あ、あの。ラムダは死の商人の"店主"ニュークロップの右腕との事なんです。精神操作系の魔法が得意な魔法士です。」
ユーリは腕を組んで考え始めた。
「ラムダ…?」
「ユーリ。冒険者ギルドの件の時の魔法ネットワーク。建国祭の時に孤児院にいた魔獣の件。カガリさんが巧みに精神操作魔法を使う奴の仕業だと言ってました。」
ユーリはジッと虚空を睨んでいたが。
「ラムダ。思い出した。あいつだ。リビングコープスをはじめとした子供の兵士化を研究していたやつだ!心の無い嫌なやつだ!」
ユーリは昔の事を思い出したのか?握った拳がブルブルと震えていた。私はそっとユーリの拳を握った。
「あ、ナルミ。」
「ユーリ…」
「ありがとう。もう大丈夫。」
ユーリはホウっと息をついた。
「とにかく王都へ急ごう。ララーシャに早く会わないと。アリシア、まだ一波乱あるかもしれない。覚悟しておこう。」
「はい、ユーリさん。」
アリシアさんは何かを決意したように気丈に返事をしていた。
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