第93話 精神操作魔法
国境を越えてから3日。もうすぐで王都に着く。夜はエルフの集落で休む事が出来たので私達は非常に快適な旅をしていた。
相も変らずエルマ精霊国の森はとても心地よい。ピー子は私の頭から離れて空を飛んでいた。アリシアさんが微笑ましげにピー子の様子を眺めていた。
「竜を手懐けるなんて。ナルミさんはすごいですね。」
「いやいや、どうして懐かれているかもわかりません。偶然ですよ。」
私も空を飛び回るピー子を見ながら答えた。
「そうでしょそうでしょ!ナルミはすごいでしょ!さすがは私の相棒だよね!えへん!」
なぜにユーリが自慢げなの??
「ピーピピー」
「え?そうなんですか??」
「何何?ピー子はなんて言ってるの?」
「いや、あの、その…」
「何だよー。もったいぶってー。」
私はそーっとユーリを上目遣いに見て言った。
「怒らない?」
「うっ…。お、怒らない…」
「ユーリからは粗暴な魔力を感じて居心地が悪いらしいです。私は魔力が制御されているから居心地が良いと…」
「な、キサマ!!」
ピー子を捕まえようとするユーリ。ユーリを噛もうとするピー子。はあ、怒らないって言ったのに…。そんなユーリとピー子を眺めていると、
「ナルミさん。囲まれているようです。」
ハンナさんが警告して来た。すぐにメラニンさんと騎士達がアリシアさんを囲み、メイドさん達が魔法障壁を構築した。
「ユーリ!」
ピー子を捕まえて頬をつねっていたユーリが私にピー子を渡して来る。
「この間のエルフだね。」
「そのようですね。」
私はクロスガンを構えながら答えた。野郎共Aチームも剣を抜き、周りを警戒する。
「お前達!この方達を女王陛下への王国からの使節団と知っての狼藉か!!」
ムライさんが私達を囲んでいる者達に向かって一喝した。
「ムライ殿か!この者達が古代の魔道装置を使って、ここエルマ精霊国へ軍隊を送り我々の森を焼こうとしている事を知っている!!その行為は絶対に許せない行為だ!」
ユーリが鋭い視線を辺りに放っていたが…。
「ハンナ!エルフ達が精神操作されている可能性は?」
ハンナさんがすぐに答えて来た。
「魔力の流れが不自然です!ユーリさんの言う通り、精神操作系の魔法が使われている可能性があります。」
「皆んな、アリシアを守って。そして出来るだけ殺さないで。でも危ない時は躊躇しないで!」
ユーリは素早く指示を出すと銀色の粒子を辺りに充満させた。
「ナルミ、魔力を同調させて!粒子に触れながら動いたやつの位置がわかるから!」
お、ユーリ!いつのまにこんな技を開発したんだろう。私は泥弾をクロスガンに生成した。魔力をユーリに同調させる。
「そこ!!」
私は泥弾を銀の粒子から伝わってくる気配に向けて撃った。
「げふ!」
この前は当てられなかったが、今日は気配が完全にわかる!私は4人のエルフに泥弾を当てた。泥弾はエルフに当たってその身体に張り付くと瞬時に硬化して、エルフを拘束した。
その間にユーリが3人を無力化していた。ムライさんも1人を取り押さえている。あと1人か…。あれはこの間、バグと呼ばれていたエルフだな。
「投降しろ!」
ムライさんからの警告をバグは完全に無視していた。
「お前達にエルフの森は燃やさせない!」
バグはアリシアさんを睨みつけた。風の魔法を練るとアリシアさんに叩き込んだ。しかし、バグの魔法はミカさん達メイドさんに散らされてアリシアさんには届かない。
「きえーー。」
バグは短刀を抜き、すごい速さでアリシアさんに迫った。
「歯を食いしばって!」
いつのまにかユーリがバグの側に寄って金の刀で胸を突いた。
「ぐふ。」
バグは胸の息を吐き出すと地面に這いつくばり動かなくなった。
「モンシア、エルフ達を縛りあげてくれる?」
ユーリの指示に野郎共Aチームが素早く反応する。エルフ達を縛りあげた。
「ハンナ、ミカ。エルフに精神操作魔法がかかっていたら解呪出来ないかな?」
ハンナさんとメイドさん達がエルフの様子を見て回るが…。
「ユーリさん、これは…。私達では無理ですね…」
かなり強力な魔法らしい。
「そうか…」
ユーリが難しい顔をしてエルフを見下ろしていた。そんなユーリを見ていたピー子が私に話しかけて来た。
「ピーピピピピ」
「ユーリ、ピー子が精神操作魔法を解呪できると言っています。やらせてみましょうか?」
「うん、ピー子は"銀灰の竜"だ。さすがだね。ナルミ、お願い。」
ユーリの言葉にピー子は翼を広げて答えた。ピー子から魔力が立ち昇る。す、すごい…。これが竜の魔力か…。
ピー子から立ち昇った魔力は銀の粒子へと変換されてエルフ達にまとわりつく。
「ナルミさん、こ、怖い…」
メイドさん達が私の後ろにしがみついて来た。確かにこの魔力量なら怖く感じるだろう。私はユーリで慣れてしまったが…
「お、俺達は…何をしている?ここはどこだ。」
うまくエルフ達の精神操作魔法を解呪できたらしい。
「バン、俺がわかるか?」
「む、ムライ殿!」
バンは慌てて立ち上がるとムライに恭順の意を示した。他のエルフもバンに倣う。
「ムライって偉いの?」
ユーリがコソッとハンナさんに聞いていた。
「はい、10部族の長に準じる地位です。」
げ、ムライさんって偉かったんだ!知らなかった…。
「ふーん、そうなんだ。」
ユーリはそっけない態度。まあ、ユーリはララーシャ女王様の盟友だからな。
「ムライ殿。俺達は…、バーキン族長にラムダという男に従えと言われ…。そこの娘を襲撃した。その後、バンがラムダと揉めて…。ダメだ。その後の事が思い出せない…」
「バグ。そのラムダという男の素性はわかるか?」
バグは力なく首を振った。
「そうか…。アリシア殿。申し訳ありません。エルマ精霊国の騎士としてお詫びさせていただきたい。」
ムライさんが深々と頭を下げた。横のハンナさんも同様に頭を下げる。
「いえ、背後に何かあるのはわかりました。操られていたようなので…」
アリシアさんが答えていたが…
「アリシア殿、温情に感謝いたします。ただこの者達の処分は法に則り厳正に行います。」
アリシアさんは戸惑っていたようだが、表情を崩さずに頷いていた。
「まあ、ムライ。私達の事は良いよ。それよりも背後をきちんと調査してほしい。これが私達からの要望だよ。ね?ナルミ。」
「はい、私達はアリシアさんの安全を計りたいので。今後の事を考えても危険の芽は摘んでおきたいのです。」
ムライさんはユーリと私を見やった。
「かしこまりました。バグ、お前達は次の集落で待っていてもらう。判断は女王陛下に委ねるがよいな!」
「はい、ムライ殿。あの…、ユーリ様は"竜殺し"の…」
「そうだ。女王陛下の盟友、ユーリ・ミコシバ様だ。」
バグは何も答えなかった。ただ、深く深くユーリに頭を下げていた。その時だった。
「ユーリさん、ナルミさん!何者かが近いて来ています!強い魔力です!こ、これは魔獣なのか…?」
ハンナさんから警告された。
「ハンナ、数は?」
「1匹、人が1人!」
「ナルミ!」
「はい!アリシアさんを守りながら皆さん、下がってください!」
「ピーー」
ピー子が私の頭に乗っかって来た。あ!ピー子から魔力が私に委譲されている。
「ピー子!ありがとう!」
私は魔力をクロスガンへと込める。私の髪が銀色へと変化した。ユーリの髪も銀色だ。
「来るよ!」
私は気配の方へクロスガンを向けた。弾丸はミスリルだ。
「あれ?あれ…は?」
確かに魔獣のような魔力をしている。何と言うか、獣みたいなやつなのだ。
「あーー、アルファジオ!!」
ユーリの絶叫が辺りに響いた。
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