第89話 アルファジオ??
3日後の昼過ぎだった。私達は街道をエルマ精霊国へ向かっていた。日差しが暖かく心地よい。だが。
「ナルミ、気づいてる?」
「はい、あれはバルムンドラ帝国の副官ですね。名前は…」
「アルベイシア?」
「そんな感じかと思います。ユーリを狙ってるのかな?」
私達は少し前からあの男につけられていた。
「うーん、あいつは苦手なんだよね。顔を見るとゾワゾワする…」
確かにあの男の気配は一種独特だった。粘りつくというか、まとわりつくというか…。粘着質なのだ。
「しょうがない…。アリシア、ちょっと用事ができた。この先のダンボ村で待ち合わせしよう。」
「ユーリさん、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。」
「わかりました。お気をつけて。」
ユーリと私は踵を返すとアルベドバド?に対峙した。
「しつこいね。せっかく見逃してあげたのに…」
ユーリの挑発にアガバレバド?はフッと笑みをこぼした。
「ユーリ…」
「な、何よ…」
「ユーリ!好きだ!大好きだーー!」
アルバンベガ?は剣を抜き、盾を構えるとユーリに走り寄った。
「ひ、ひー!」
ユーリは聞いた事のない声で悲鳴をあげると金の刀に魔力を込めてアガブベンナ?の胴に鋭い一撃を入れた。アルベドブド?はすごい勢いで地面に叩きつけられていた。あ、あれは死んだな…。
と思ったのだが…。アリバナヅト?は高笑いしながらムクっと起き上がった。何てタフな奴!
「は、は、は!ユーリ!それでこそ、アルファジオ・ファビオの妻となる女性だ!!」
あ!全然名前が違った。アルファジオか…。
「ひーー、や、やめてよ!鳥肌が立ったじゃないか!」
ユーリは腕をさすって嫌がっていた。
「ユーリさん!」
野郎共Aチームが剣を抜いて集まって来た。激昂している。うーん、これは…
「死にたくなかったら、手を出しては行けませんよ。」
「し、しかし…」
「ユーリなら大丈夫でしょう。」
私はそう言うと魔刀を鞘に納めた。
「ユーリ、先に行ってますね。」
「え?え?私を置いて行くの?」
「早めに合流してくださいね。」
まあ、あれだ。アルファジオには殺気がない。戯れている感じだ。それに、
「ユーリはアルファジオと相性が良いじゃないですか。」
私の言葉に反応したのはアルファジオだった。
「そうか!そうだ!その通りだ!ユーリと俺は相性が良いのだ!ワハハハハ!」
「ち、違う!そうじゃない!」
まあ、ユーリには悪いが痴情のもつれに私は口出ししないのだ。
「ほら!皆さん、戻りますよ。」
私は野郎共Aチームを急かしてアリシアさんの後を追う。
「ナルミの薄情者!」
ユーリの魔力が爆発した。アルファジオが再び吹き飛ばされたのがチラリと見えた。私はユーリよりもアルファジオが生き残れるか?の方が心配だった。
◇
「ちょっとひどくないですかね…」
「だって危険はないと思ったんです。ユーリはちゃんと帰って来たでしょ?」
「そうだけど、そうなんだけど!」
ユーリがダンボ村で私達と合流したのはもう日が沈みそうな時間だった。
「ユーリさん、お疲れ様でした。」
アリシアさんが暖かいお茶をユーリに出していた。
「アリシア、ありがとう…。はあ、あいつ。私の事を付け狙うつもりだよ…。どうしよう…。」
「モテモテですね…。」
「それどころじゃないよ、ナルミ。」
そんな私達をアリシアさんは困惑して見ていた。
「バルムンドラ帝国の兵士なんですよね。本当に危険はないんですか?」
ユーリはテーブルに突っ伏しながら答えた。
「うん、聞いたら素直に白状したよ。バルムンドラ帝国の兵士だったって!」
「だった?」
私はピー子の頭を撫でながら聞き返した。
「そう。バルムンドラ帝国は見限ったらしいよ。私と添い遂げたいんだって…」
「ユーリさん…モテモテですね…」
「アリシアまで…。そういう事じゃないんだよ…」
話に野郎共Aチームも加わって来た。
「ユーリさんに手を出そうなんて身の程を知らない野郎だ!ぶちのめしてやる!」
リーダー格のモンシアがいきり立っていたが…。
「あんたらの元上司じゃないの?」
「いえ、俺らは王国の冒険者ギルドで雇われましたから。バルムンドラ帝国なんて関係ありません。」
妙に自信たっぷりに返答したモンシア達。
「まあ、そういう事にしておこうか。でもあいつには手を出しちゃダメだよ。死ぬよ…」
アリシアさんが心配気にユーリを見ていた。
「アリシアさん、大丈夫です。ユーリはあいつにはとても相性が良いんです。あいつの技はことごとくユーリには通用しない…」
「でも皆さんに取っては厄介なのでしょ?」
「ええ…、私では勝てないでしょうね…」
私の返答にアリシアさんと野郎共Aチームが息を飲む。
「それは厄介ですね。」
サバド男爵付きの騎士達も話に加わって来た。
「ハビルさん、なのであいつとはやり合わない方が良いでしょう。幸い狙いはユーリです。しかもあいつはユーリを害する気がない。なので私達は関わらない方が良いかと。」
メラニンさんとハビルさんは顔を見合わせていたが、
「確かにナルミさんの言う通りかもしれないですね…」
メラニンさんも納得したらしい。
「メラニンまで。うーん。そうだね。アルファジオは私に任せてもらおう。皆んな、手を出しちゃダメだよ。」
皆に異論はなかった。素直に頷く。
「さあさあ、お話は終わりましたか?ダンボ村名物の羊肉のバーベキューの用意ができました。皆さん、お食事にしましょうね。」
戦闘系メイドのリーダー、ミカさんの言葉に皆、席を立った。そうだよ、お腹が減っていたんだった。
「ユーリ、羊肉ですよ。楽しみですね。」
私は浮かない顔をしたユーリの背中をバシバシと叩いた。
「もう…。他人事だと思ってさ…」
「そんな事ないですよ。ほら、ピー子もユーリの事が心配ですって!」
「ピーピー。」
「ね?」
「はあ、それじゃあご飯を頂こう。ミカさん、ありがとうございます!」
ユーリは元気にピョンと席を立った。ピー子も真似をしてピョンと立ち上がった。あれ?2人とも仲良くなったの?
と思ったら…。
「こら、私の真似をするな!」
「ガウガウ!」
「あ、また噛んだな!きさま!」
仲良く喧嘩を始めたユーリとピー子を皆でぬるく見守っていた。
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