第86話 ユーリの涙
「ナルミ!!ナルミ!!」
私は絶叫した。急いで魔力を練り上げるが到底間に合わない。わかっていた。わかっていたが私は魔力を練り上げた。
「空間を斬って爆風を遮断する!」
私は両腰に刺している刀に両手をかけた。
「ナルミ!」
失いたくなかった。私の相棒。はじめて心から気を許せ、信頼のできる相棒。一緒にいると安心でき、安らぎ、頼りがいがあり、美人で優しく時に厳しい相棒。
鞘から刀を抜こうとした。
(お願い、お願い!間に合って!!)
その時だった。
ナルミの背中のバッグからそれは飛び出した。
「竜?」
バッグから飛び出た"それ"はナルミに取り憑いた。膨大な魔力がナルミへ流れ込むのが私の魔眼には見えた。
「ナルミ!!」
私の絶叫は爆風の中に掻き消えていた。
◇
「ふははは!」
「もう!笑いすぎです、ユーリ!」
「だって…」
側でミットフィルさんもこちらを見て笑っていた。
ずっと背中のバッグの中に入れていた卵。
あの瞬間、私は"この子"から膨大な魔力を受け取った。そしてあの爆風からレジストすることができた。でも…
「ちょっとだけ、離れてくれないかな…?」
「ピー!」
抗議するように竜は一声鳴いた。そう、こいつは私の頭の上に陣取って離れないのだ。
「重たくないの?」
「はい。全然重さを感じないんですよね。」
「ふーん。」
ユーリが竜を撫でようと手を出した。
『ガブ!』
「痛い!噛んだ、こいつ噛んだよ!」
「魔眼で予期すれば良いのに…」
「いつもいつも魔眼を発動してたら疲れちゃうよ…」
あ、そうなんだ…
「ピー、ピー」
え?何何?
「ユーリから嫌いな竜の気配がするそうですよ。」
「え?炎赤の竜のことかな…。私、あいつから魔力を渡されたからなあ…。と言うか、ナルミは竜の言葉がわかるの??」
「そんな事より、ユーリは炎赤の竜の魔力を受け取っているのですか?」
「ナルミだって銀灰の竜に呪われたじゃないか。」
「…」
まあ、色々と言いたいことはあるがやっぱりユーリは規格外だ。
「でも、良かった…」
「え?」
「い、いや。何でもないよ…」
ユーリは小さな声でごにょごにょと言っていたが…
「良かったよ…ナルミ!良かったよ…」
耐えきれなくなったのか?ユーリは私にすがりついて泣きはじめた。
「はい、私もダメかと思いました…」
「うえーん。」
ユーリ…
「ユーリ、皆んな見てますよ…」
「うん、別に良い…」
「ユーリ…」
私はユーリを抱きしめると人目も憚らずに一緒に泣いた。
◇
「ごめんね、ナンブ。みっともないところを見せてしまったね。」
「いえ。昔を少し思い出しましたがね…」
「うん…」
「ところで正門がありませんな。我が領都の象徴たる正門が…」
え?え??ユーリを見ると目を逸らされてしまった。
「ユーリ…」
「あの、そのね…、でもさ、あの…ごめん。」
「あ、あの。吹き飛ばしたのは私なので…ごめんなさい。」
「いやいや。気にしてないですよ。何たってお二人は我が領都を奪還してくれた恩人ですからな。わはははは。」
ユーリが以前言っていたサバド男爵は目が笑ってないというのがよくわかりました…。
◇
「アリシアさん!無事で良かった!」
サバド男爵が到着した後に、アリシアさん、メラニンさん、猫ちゃん達、そして野郎共Aチーム(何だ?その名称は!)が無事に領都へ到着した。
「あ!門が無くなっている…。そ、それにその生き物は?竜??」
「ご、ごめん。私が吹き飛ばした…。そう。これは竜。」
「あ、えーと。そういう事ではなく…。あのすごいですね…。あ、門の事じゃなく竜の事です。」
アリシアさんの悲しそうな顔にちょっとだけ心が痛む。
「あの、ユーリさん、ナルミさん。色々とありがとうございました!お二人のおかげで父も無事でした…。それに…」
「そう!それにワープホールが死の商人、いえバルムンドラ帝国の手に落ちずに良かった。」
「ユーリさん。バルムンドラ帝国の話は確実なのでしょうか?」
サバド男爵は不安そうだった。
「うん、間違いないと思うよ。証拠はないけど…」
ユーリは少し考えていたが私を見て、ニカっと笑った。
「ナルミ。少しの間、ゆっくりしたいと思わない?」
「え?どういう事ですか?」
「ヨームと話をしてみるけど、ここは最重要拠点になった。きっと防衛を強化しないとならない。兵士が王国から送られてくると思う。
でもさ、準備が整うまではサバド男爵の側にいた方が良いと思うの!ナンブはグルメだから色々な美味しい…いや違った。王国のためにナンブの安全を守らなきゃ!」
うーむ、何やら動機が不純だが、まあ悪くない提案だ。
「はい!わかりました。」
「ナンブも良い?」
「俺はお二人が側にいてくれるなら安心ですが…。良いのですか?」
「まあ、大丈夫でしょう。ね、ナルミ。」
「はい、私もちょっとゆっくり…いやいや、サバド男爵の安全を守るべきだと思います!」
隣でユーリがニカっと笑った。そう、私達はいつ死ぬかわからない仕事をしている。だからこそ、ユーリのような沖融さが必要なのだ。
私はそっと相棒たるユーリの手を握った。
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