第77話 援軍
私達は関所で少しの間、休憩させてもらい、またもやキングマリオネットで爆走中だ。
「マム、このまま爆走すると目立ち過ぎる!30km手前から歩くよ。」
「わかったにゃ。」
私達はサバド男爵達が潜んでいるであろう山中を目指していた。アリシアさんが場所を知っているので迷わずに進めるだろうが、キングマリオネットはあまりにも目立ち過ぎる。進行方向からサバド男爵の潜伏場所を推察されても厄介だ。
「ユーリさん、キングマリオネットは戦力になるにゃ。分解して陰が運ぶにゃ。」
猫人族達がゲッという顔をしたのがわかったが知らんふりをした。
「そんな事ができるの?」
「できるにゃ!」
マムが胸を張って威張り散らす。うー、何だかうざい。
「だったら色々な攻め方ができるなあ。」
ユーリは腕組みをして考えていた。
「マム、陰はキングマリオネットを運びながら30kmを何分で踏破できる?」
「山の中か…。8時間にゃ!」
猫人族達がマジか!という顔でこちらを見た。し、知らんふりしよ。
「アリシア、サバド男爵の潜伏している山小屋には近づいても大丈夫かな?」
「はい…、罠を張っているかもしれないですが…」
そりゃあ、罠は張るよね。
「マム、罠があった場合は?そうだな、士官学校の選抜試験を想定して。」
士官学校の選抜試験。山中の踏破試験。あれは過酷だったなあ。もちろん罠もたんまりと張ってある。上位20%の成績優秀者が受ける事ができるのだが、それでも6割は脱落してたもんなあ。
「8時間にゃ。」
え?罠は関係無いの?猫人族達が涙目で私を見て来た。ふいっと目を逸らしておいた。猫人族の皆んな、ごめんよ…。
「わかった。じゃあ、君達には10時間あげよう。10時間で30kmを踏破、サバド男爵と合流。キングマリオネットを組み立ててマムは拠点防衛だ。他の5人はできるだけ敵を見つけて撹乱して。敵は殺しても良いよ。」
「わかったにゃ。食糧を焼いて、水には毒を入れておくにゃ。あと殺せるやつは殺しておくにゃ。」
あれ?猫人族達が急にイキイキとしだした。陰って怖い…。
「ユーリ、私達は?」
「うん、死の商人にご挨拶をしよう。陣地を急襲だ。そのあとにサバド男爵に合流する。」
「はい、作戦はわかりました。でもひとつだけ確認します。"急襲"ですよ。ユーリ、わかってますね。急襲。急襲とは『不意をついて襲撃すること。』ですからね。」
「ナルミ、わかってるよ…」
「本当にわかってますね。信じますよ。」
あー、ユーリ、目を逸らした!私はユーリの顔を覗き込む。
「ユーーーーリ!」
「…」
「まあ、わかりました。ユーリに任せます。でも変身ポーズとか、名乗りはしませんよ。」
「はい、肝に銘じます…」
◇
夕方。私達はサバド男爵の潜伏先、30kmの地点に辿り着いた。
「マム、どうする?休憩しようか?」
早速、キングマリオネットを分解し始めたマムにユーリが声をかけた。
「不要にゃ。すぐに出発するにゃ。」
ふお!だからそんな目で私を見ないで…。猫ちゃん達…。がんばれ!私は声に出さずに猫人族に唇でエールを送った。だから、やめて!その泣きそうな目でこっちを見ないで…
「ユーリ、私達はどうします?」
「アリシアもいるから私達は少し休憩しよう。カガリ!」
ユーリは通信機に話かけた。ほどなくしてカガリさんの声が聞こえてくる。
『はい、ユーリさま。』
「死の商人の拠点情報を整理してマッパーに送って。あと、そちらの首尾は?」
『はい、かしこまりました。こちらは小隊200人の編成は終わっています。指揮は親衛隊ミットフィル様が当たります。』
え、ミットフィルさん!ちょっとだけ喜んだら(ちょっとだけだよ…)ユーリに睨まれてしまった…。ちょっとだけなのに…。
「うん、こちらへの到着は3日後くらいかな?」
『それくらいでしょう。』
「こちらの状況だ。きっとサバド男爵の領都は死の商人に占拠されている。小隊はそちらの奪還に回す。ミットフィルにはそう伝えて。」
通信機の向こうから了解を示す声が聞こえた。
「キングマリオネットを持ってきてくれたので作戦を立てやすくなった。」
『それでは15分後にデータをお送りします。』
「さあ、皆んな。作戦開始だ!」
◇
夜中。日をまたごうとする時間だった。
「男爵。囲まれていますね。」
サバド男爵に声をかけたのは王都で馬車の御者をしていた男だった。サバド男爵が男爵に任じられてからずっと身の周りの世話と護衛に当たっている。名をメラニンという。魔戦士である。
「ああ、こちらの手勢は15人だ。襲われたら1時間と持つまい…」
「その際は手筈通り、地下通路を通ってお逃げください。私はここを死守します。何、火を放てば男爵を追う事は難しいでしょう。」
「メラニン。ありがとう。」
この小屋の周りには罠を張り巡らされていたが、敵はその罠を乗り越えて徐々に包囲を狭めつつある。
サバド男爵達には敵の数はわからなかった。そして、サバド男爵は地下通路を通って逃げてもすぐに捕まるであろう事は覚悟していた。『防呪のマント』ももう破れてしまっている。すぐに魔法士に探知されるであろう。この小屋には魔法士の空間認識魔法を妨害する処置が施されているが、もう位置は特定されているであろう事もサバド男爵は覚悟していた。ならばここで最後まで仲間達と戦って死ぬ覚悟だった。
(アリシア、どうか無事でいてくれ…)
今のサバド男爵の希望はアリシアが無事に王都へと辿り着く事だった。早くに妻を亡くし、男手で育てた娘である。ワープホールの事よりもアリシアの事の方が数倍に大事だった。
(まあ、これは俺のエゴだな…)
そうサバド男爵が独りごちたまさにその時だった。サバド男爵はふと物音がしたような気がして後ろを振り返った。そこには暗闇に浮かび、不気味に光る目があった。
「サバド男爵かにゃ?」
メラニンがいち早く反応した。剣を抜き放つと光る目に向けて斬撃を放った。しかし、その必殺の剣戟は軽くかわされ、剣を持つ右手を強かに打たれた。
「うっ。」
たまらずにメラニンは剣を取り落とした。
「騒ぐにゃ!私達はミシマ分室の陰にゃ!」
まさか?とサバド男爵は思った。アリシアが王都に着いてミシマ分室へ、ユーリへ手紙を渡したとしたらいくら何でも早すぎる。
「アリシアはどうした?」
「アリシアはユーリさんとナルミが保護している。もう少ししたらここへ合流する予定にゃ。私達はここを防衛する。」
陰と名乗った小柄な女はそう言うと後ろにあった大きな物体を指差した。
「キングマリオネットにゃ!」
防衛?これでか?本当にアリシアはユーリさんが保護しているのか?アリシアは無事なのか?
色々な思いがサバド男爵の頭を駆け巡った。
「アリシアは無事なのか?」
サバド男爵の問いに陰は胸を張って自慢げに答えた。
「当然にゃ!ラブリーエンジェルスが護衛しているにゃ。」
サバド男爵は陰の声色から真実なのだろうなと直感した。長年、商人として多くの人と接してきたサバド男爵の直感だった。
「ありがとう…。」
サバド男爵はその言葉を絞り出すと初めて出会った頃の寂しげだったユーリを思って涙がこぼれた。
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