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第75話 キングマリオネット改

 私は腹を殴られて動けないでいる男に水をぶっかけた。


「ぶはっ。」


 男は咳き込みながらこちらを怯えた顔で見上げた。


「捜索に何人、動員されている?」


 私はできるだけ表情を消して男に聞いた。


「お、俺達は雇われたんだ。雇われたのは10人だ。奴らは6人。奴らはお前らが全員殺した。」


 雇われか…。それならば詳細は知らされていないだろう。障害にはならないと私は判断した。ユーリも頷いていた。


「そうか…」


 私は素早く男の胸を刀で突き刺した。男は声もあげずに絶命した。


「ユーリ、先ずはソーマエル師の工房に戻って装備を整えましょう。」

「うん、そうしよう。マムとも工房で合流かな…。アリシア、歩ける?」


 アリシアは男の死を目の当たりにしてショックを受けていたが気丈に答えた。


「はい、大丈夫です。」

「それじゃあ、行こう。」




 

 ソーマエル師の工房に戻ってきた時にはもう夕方になっていた。日が落ちかけて、風が冷たくなっていた。


「驚きましたよ。」


 ソーマエル師の工房に戻るとお弟子さんが向かい入れてくれた。さすがはソーマエル師のお弟子さんだ。何も聞かずに工房の奥へと通してくれた。しばらくするとソーマエル師がやって来た。


「訳ありですね。」

「はい。」


 私は遮蔽の石に魔力を通した。


「こちらはサバド男爵のお嬢様、アリシアです。」


 ユーリは前置きもなくアリシアさんをソーマエル師に紹介した。


「私は刀工のソーマエル・ワーレインです。」

「ご高名は伺っています。アリシア・サバドです。」

「それで何があったのですか?遮蔽の石を使っているところを見ると公にできない話なのですね。」


 ソーマエル師は穏やかな表情で問いかけてきた。


「はい、サバド男爵が何者かに狙われています。私達はサバド男爵を救出したい。ご迷惑をかけるのは承知です。装備をお貸し願いたいのと、今日1日泊めて欲しいのです。明日、ミシマ分室の陰が到着します。それまで待たせて欲しいのです。」


 ソーマエル師は大きく頷くと笑顔を見せた。


「承知しました。装備は…、後で案内します。それと…」


 ソーマエル師はアリシアさんを見て、一瞬の間の後に言葉を繋いだ。


「陰を待つのはアリシアさんの護衛のためですね。」


 ユーリは頷くとアリシアさんに向き合った。


「アリシア、あなたにはここに残ってもらおうと思っている。明日、護衛が到着するので身の安全は保証する。」


 アリシアさんは目を見開いた。


「ユーリさん!お願いします!私はお二人に会うまでに多くの仲間を亡くしました。父を救出して行末を確認するのは私の義務なのです。お願いします!私も連れて行ってください!」


 アリシアさんは頭を下げると動かなくなった。


「アリシア…。」


 ユーリがどうしよう?という顔で私を見ていた。


「アリシアさん、これは国家をも転覆させかねない事なのよ。だから私達はあなたの安全よりもサバド男爵の事を優先する。それでも私達についてくる?」


 私の問いかけにアリシアさんは即答した。


「はい!」


 はあ、とユーリが息を吐いた。


「わかったよ、アリシア。」

「では、私からは一つ条件があります。遮蔽の石を貸すので使いこなしてください。」

「だけど…、私がお借りしたらナルミさんの防御が…」


 私はアリシアさんの手を取った。


「そうです。あなたの選択は私の防御力を低くします。でもあなたに遮蔽の石を渡すのはあなたが私達と行動するのであれば、総合的に考えて最善の方法と思うから。

 だからアリシアさん。相当の覚悟を持ってください。あなたの判断で皆が不利益を被る事もある…」


 私は厳しい事を言ったとの自覚があった。だが、アリシアさんには自分の決断で他人が損害を被る可能性のある事を知って欲しかった。


「はい、胸に刻みます…」


 アリシアさんの言葉は真っ直ぐだった。私はアリシアさんを抱き寄せた。


「わかりました。遮蔽の石を貸します。必ずサバド男爵を助け出しましょう。」



 

 

 その日は早めに夕食をごちそうになり、早々に寝かせてもらうことにした。

 ユーリとアリシアさんと一緒に部屋を使わせてもらう。

 アリシアさんは布団に入るなり、寝息を立てていた。よっぽど疲れていたのだろう。不安もあったに違いない。一人で森を彷徨っていたからな…。


「ナルミ、一緒に寝てもいい?」


 おやおや、めずらしくユーリが不安そうな顔をしている。


「いいですよ。」


 へへへ、とはにかみながらユーリが私の布団に滑り込んできた。


「ナンブの事を考えていたら昔の不安だった頃の気持ちを思い出しちゃって…」


 ユーリはそう言うと私の胸元に顔を埋めてきた。


「ナルミは良い匂いがするね…」


 ユーリはそう言うとすぐに静かな寝息を立て始めた。


「子供か!!」


 私はちょっとだけ毒付いたが心はとても穏やかだった。



 

 

 朝早く。日の光が窓から差し込んでいるのが見えた。天気が良いらしい。私は隣にいるはずのユーリを揺さぶった。


「ユーリ、そろそろ起きましょう。準備してマムを待たなきゃ。」

「にゃにゃ!ナルミ!揺さぶらないでにゃ。寒かったからもうちょっと暖まりたいにゃ。」


 な、な、な、マム!何で??びっくりした。心臓に悪い…。


「もう、うるさいなあ…」


 あ、ユーリが起きた。


「あれ?何でマムがいるの?」

「何でって…。ここに来いと言ったのはユーリさんとナルミにゃ。」


 そ、そうだけど早過ぎない?ふと、部屋を見渡すと5人の猫人族が倒れていた。


「う、う、気持ち悪い…」

「こ、怖かったよ…」

「死ぬかと思った…もう嫌だ…」


 ど、どういうこと?


「ああ、キングマリオネットで爆走してきたにゃ!」


 マム…、さらっとすごい事を言ったぞ。キングマリオネットで爆走?過酷だったのだろう。あの倒れている猫人族達に私は同情した。

 そもそも、キングマリオネットって壊れてなかった??


「室長がボンバール博士という人に頼んで直してもらったにゃ。しかも前よりパワーアップしたにゃ!」


 え?不安だ…。


「目から光線が出るようになったにゃ。しかも手が飛び出して敵を粉砕するにゃ!ロケットパンチにゃ!!」


 え?ええーー?すごく不安だ。


「室長からは絶対使っちゃダメと言われたが構わないにゃ!今度、使ってみるにゃ!」

「すげーすげー!かっこいい!!私も使ってみたいーー。」

「それじゃあ、今から使ってみるのにゃ!」


 いそいそと外へ行こうとしたユーリとマムを私は慌てて止めた。


「マム!絶っっっ対にダメ!使っちゃダメ!!わかった??!!」

「何でだよ。見てみたいじゃん!」


 キッと私はユーリを睨む。


「そうにゃ、ナルミ。試してみたいにゃ。」


 キッキッと私はマムを睨んだ。


「こ、こ、怖いにゃ、ナルミ。そんなに殺気をこめなくても…」

「マム、こ、これは使わない方がいい…。あんなに怖いナルミを初めて見た…」


 はあ、何だか朝から疲れた。


お読みいただきありがとうございます!これからもよろしくお願いします。

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気に入っていただけましたら是非、評価の程をよろしくお願いします。

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