第74話 世界の転換点
「ふう。」
私は一息つくとユーリに歩みよった。
「あの魔法で潜んだやつの位置が、よくわかりますね。」
「うん。私は見えるからね。」
やっぱり、ユーリの魔眼はすごいな。
「あ、あのありがとうございました。」
少女がおずおずと声をかけて来た。
着ている服はぼろぼろになっていたが良い物だ。所作にも上品さがある。可愛らしい子だ。どこかの貴族の令嬢だろうか?
「いえいえ、お困りのようでしたので。」
「あ、あのお願いがあります!私を警護して王都のミシマ分室まで連れて行ってもらえませんでしょうか?」
ユーリと私は顔を見合わせた。
「ミシマ分室??」
「はい、もし必要であれば謝礼もいたします。追手もいます。危険な事は承知してます!ですが何卒お願いできませんでしょうか?」
うーんとユーリと私は唸った。それを拒絶と捉えたのかもしれない。
「私はサバド男爵の娘、アリシアと申します。父が!サバド男爵が狙われています。詳細な手紙を私は父から託されました。お願いです!ミシマ分室まで私を連れて行ってもらえませんか!」
サバド男爵!叙勲式の時に一緒になったな!
「アリシア、あなたは運が良い。何を隠そうミシマ分室の特別チーム、ラブリーエンジェルスとは私達の事だ!」
キュピン!ユーリは顔の横でピースサインを決めると舌をちょっと出した。
「は、はあ。あの…からかっているんですか…?」
いやいや、そうなるよね!そうだよね。真剣に訴えていたのにユーリがふざけているよね!
「ちょっとユーリ!何ふざけてるんですか!アリシアさん、ごめんなさい。普段、ユーリはもう少し真面目なんです…」
「なんだと!ナルミ!私はいつも真面目だ!ふざけてなんかいない!」
「ふざけてるじゃないですか!ユーリの悪いところですよ!」
「私は心底真面目だ!ナルミにユーモアを解する心がないだけだ!」
わいわいと言い合いをする私達をアリシアさんは呆然とみていたが…
「あのユーリさんにナルミさん!本当にラブリーエンジェルスなんですか?」
「はい、信じられないかもしれませんが…」
私は自分の身分証をアリシアさんに見せた。
「私には剣術の事などはわかりません。でもお二人が強い事はわかります。ラブリーエンジェルス…お父様が言った通り。強く美しい王都最強チーム…」
アリシアさんはそう言うと堰を切ったように泣き出した。よっぽど張り詰めていたのだろう。
ユーリはそんなアリシアさんに寄り添い、アリシアさんが泣き止むまでその肩を抱いていた。
◇
「ではユーリさんは父の事をご存知なんですか?」
「うん、昔ね。ナンブがまだ男爵に任じられる前だよ。商隊の護衛をした事があったんだ。大規模な襲撃があったんだけど、まあ私が倒しちゃったんだ。
ナンブはそれに恩義を感じてくれたの。親を亡くした子供達を保護する事のできる施設を作ってくれたんだ。『俺の生きているうちは子供を大切にする!ユーリさんとの約束だ』なんて言ってさ…。
王都の孤児院にもお金を出してくれているんだよ。優しい人なんだ、ナンブは…」
ナンブ・サバド男爵。一介の商人から身を起こし、他国と王国を繋ぐ貿易路を確立させた人だ。その功績を認められて一代男爵に任じられている。
「だけどさ、ナンブは堅物なんだよね!曲がった事が大嫌い、融通も効かない。愛想だけは良いけど、目が笑ってないんだよ…。あんなんで良く商人として大成したよね…」
「はい、私もそう思っています。そうですか…。父は孤児の保護を積極的に行っています。ユーリさんとの約束だったんですね。」
最初に会った時は偉そうなおじさんだな!と思ったが。なかなかの人物のようだ。
「手紙…。見せてもらえる?」
アリシアさんは服の内側から手紙を取り出してユーリに渡した。手紙には…
偶然、古代魔法の遺物である『ワープホール』を発見した事、これは世界中の各地に繋がっており、世界の物流・軍事において多大な影響を及ぼす事、使用方法や管理方法を解読した事、『死の商人』がこのワープホールを狙っている事が書かれていた。
『私はこの情報を打ち明ける事のできる信頼に足る人物はユーリ殿しかいないと思い、娘アリシアに手紙を託しました。私は今、ある場所で死の商人からの攻撃に耐えております。
ワープホールの扱いは私が判断して良い事ではないと思っています。ワープホールの使用方法は私と腹心の2人しか知りません。この情報は国の宝になり得ると思っておりますので、私は腹心ともども必死に生きながらえています。
ですが、死の商人の手に落ちる時は自害する覚悟です。何卒、アリシアの言葉に耳を傾けていただけませんでしょうか。』
ユーリは手紙を読むとアリシアへと向き直った。
「アリシア、『ある場所』はわかるの?」
「はい。」
アリシアさんの目は真っ直ぐだった。親子してなんて強い信念を持っているのだろう。
「わかった。ヨーム!」
ユーリは通信機を操作するとヨームさんを呼び出した。
『刀は作ってもらえましたか??』
呑気なヨームさんの声が響いてきた。
「ヨーム、それどころじゃない!」
『あ!やめてください。今度、結婚を考えていまして…。今、危ない仕事はできかねます…』
何かを察したヨームさんがいつもの言い訳を始めたが…、
「ちっ!妄想してるだけでしょ!」
ユーリに瞬殺されていた。
「それよりも…」
ユーリは完結に手紙の内容を伝えた。通信機の向こうでヨームさんの雰囲気が変わるのを感じる。
「座標を送る。マム、すぐに来て。あ、陰を5人同行させて。」
後ろにいたのだろう。すぐにマムから返答があった。
『わかったにゃ!1日で合流するにゃ!』
え?1日?無理だろ!と思ったがマムは無理な事は言わない。
「ヨーム、サーラに200人規模の小隊を編成させて!そして、すぐに座標の位置まで寄越して。現地での指揮は私が取る!」
『かしこまりました、ユーリさん。』
「サーラに伝える内容はヨームに任せる!カガリ、アカネ!世界の転換点だ!気合い入れて!」
『かしこまりました、ユーリ様。』
『わかったよ、ユーリちゃん。ナルミちゃんも無理はしないでね。』
「よし、皆んな。よろしくね。」
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