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第73話 アリシアの事情

「くそ!どこへ行った!」

「小娘の足だ!そう遠くには行ってないはずだ!」


 ドタドタドタという足音を聞きながら、私は『防呪のマント』を被って息を潜めていた。以前にお父様からいただいた物だ。

 どこかへ出かける時は必ず持たされた。正直、もらった時はかさばるし、重いし、かっこ悪いので迷惑に思っていたが、いまでは感謝しかない。

 これを被っていなかったからとうに魔法士に見つかっていただろう。一緒に旅をしていた5人はどうしただろう。昔から私の面倒をみてくれていた執事のトーマスの声が耳に残っている。


「お嬢様!!お逃げください!命に変えてもここは通しません。…お嬢様、どうかお幸せにおなりなさいませ…」


 私はその声に背中を押されてこの森の中に逃げ込んだのだ。私は息を殺しながら森の中を川沿いに進んでいた。川沿いになら冒険者に出会えるかもしれない。そう思っていたがあいにくともう1日、賊しか見かけていない。


「でもここでくじけるわけにはいかない…」


 私は折れそうになる心に喝をいれながら川沿いに森を進む。じゃないとトーマスや皆んなの気持ちに報いることができないではないか!しかし、


「ヘヘヘヘヘ、お嬢ちゃん…やっと見つけた。手間かけさせやがって…」


 昼の木漏れ日がきれいだった。これが最後の光景になるにしても、ただでは"渡さない"。

 私は短剣を抜くと両手で握りしめた。



 

 

 春になった。まだまだ肌寒いがちょっとずつ木の芽が芽吹き、暖かくなって来ている。

 そんなある日。ソーマエル師から刀ができたので取りに来いという手紙が来た。私達は急いでソーマエル師の工房へと向かったのだが何せ遠かった。工房は深い森を超えなけれならないのだ。

 私達は森を越える危険を避けるために森を迂回して移動したため、たどり着くまでに3日もかかってしまった。

 しかし、そんな苦労は刀を見た瞬間に吹き飛んだ。ソーマエル師が打った刀は本当に素晴らしかったのだ。魔力を込めると刀身がミスリルへと変化する。

 しかも私の刀は魔力を弾き返す事ができる。これなら防御しながら射撃することも可能だ。本当に素晴らしい。

 ユーリも魔刀をもらっていた。魔力を込めると刀身がミスリルになるのは同じ。違うのは…。刀を振るうとミスリルが粒子となって飛び散るのだ。

その粒子を鞭のように自在に操る事ができる。なんてチートな刀!!ユーリに借りて私も刀を振ってみたが…


「わたしでは魔力が足りません…」


 使うのに膨大な魔力を必要とする。はあ、ユーリは規格外だ…。規格外の化け物美女だ…。

 逆にユーリは私の刀を使えないらしい。


「ナルミはよくこんな複雑な魔力コントロールができるね…私には無理だ!!ナルミはよく私の事を化け物美女って言うけど、ナルミの方がよっぽど化け物美女だよ。」

「へへんだ。私は化け物でも美女でもありませーん。」

「ナルミは美人だよ。たまに私はドキドキするからね。」


 ユーリ、お世辞でもうれしいです。

 ソーマエル氏にいわせると、


「この魔刀を使いこなせるなんて、どちらも規格外です…」


 との事だったが…。


 帰りは森を越える事にした。早く帰りたかったのが理由だが、ソーマエル師に教えてもらい、川沿いに進むと王都の近くまで出られる事がわかったからだ。水が近くにあるなら踏破できる。

 私達はソーマエル師に別れを告げて森を進んでいた。


「ユーリは2振りとも刀を使うのですか?」

「うん。私、結構二刀流って得意なんだよね。まあ、言うなれば金の刀と銀の刀というところかしらね。」


 確かにユーリが今使っている刀は魔力が乗ると金色に見える。


「なんだかかっこよい…」

「お、ナルミもそういうところがわかってきた?じゃあ、今度一緒に変身ポーズを作ろ…」

「作りません!!」

「アーン、ナルミって冷たい…。」


 その時、剣戟の音と怒鳴り声が聞こえてきた。うん?女の子の声か??


「ナルミ!」

「はい。」


 私達は刀を抜くと声がした方へ走り出した。




 

「手間をかけさせるな!」

「これは絶対に渡しません!絶対にです!」


 私達が声のする場所に駆けつけると気丈に短刀を握った15歳くらいの少女がむさ苦しい男に剣を突きつけられていた。少女は短刀の扱いもよくわかってないのであろう。

 だが男を睨みつける目には悲壮なまでに覚悟があった。そして、周りに忍んでいるやつがいる。5、いや6人。周りを囲んでいる奴らは手だれだ。


「はいはい。そこまで!」


 ユーリは何気ない感じで少女に歩みよった。


「あなたは何ですか!!」


 少女は握っていた短刀をユーリに向け直すと警戒しながら問うてきた。


「うーん、王立軍の騎士だよ。お困りのようですね、お嬢さん。」


 私はそっとクロスガンを腰から外して手に握った。


「た、助けてください!襲われています。」

「おいおい、お姉さん。怪我しないうちにとっとと消えな。いや、すげー美人だな。俺が可愛がってやるからちょっと待ってな。」


 男はそう言うと剣を握って少女に振り下ろそうとした。ユーリが動く。すばやく男に走りよると足元に滑り込み、腹を強かに殴りつけた。男は口から反吐を吐きながら沈む。

 私はユーリが走り出した瞬間、クロスガンに魔力を込め、周りの気配に向かってフルオートで光弾を乱射した。


「ち、2人!影に潜んだ!」


 私が打った弾は4人を倒したが2人の気配は絶たれ、潜まれた。


「ユーリ!王都であった男と同じ!闇魔法です!」


 なんだ、なんだ。最近、この魔法が流行っているのか?

 ユーリは銀の刀を振るう。ミスリルの粒子が放出され、近くの木を切断した。


「ぐああ!」


 木の前の影から男が現れたが、その体は木と一緒に二つへ切断されていた。


「ナルミ!女の子の上!1m!」


 私はすぐにクロスガンのトリガーを引いた。空間から男が現れる。


「ぐふ!」


 私が放ったミスリルの弾丸は女の子を剣で斬りつけようとしていた男の額を打ち抜いた。

お読みいただきありがとうございます!これからもよろしくお願いします。

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