第72話 叙勲式(3)
例の初級騎士君に付いて行くと国王陛下と宰相殿、それに…
「ソーマエル師だよ。」
ユーリがコソッと教えてくれた。
「ユーリ、ドラゴンの力が宿ったと聞いたが?」
国王陛下から声がかかった。
「はい。銀灰の竜を倒した時に…その…、呪われました。私達もこの力についてはまだよくわかっていません。」
ユーリはきれいな礼をして答えていた。国王陛下はそうか…と呟くとユーリの方へ歩んで来て、いきなりユーリの頭に拳骨を喰らわせた。
「い、痛い!急に何するんですか??!」
「ふん、何度も言っているだろう!普通に話せ!」
「だって国王にタメ口を聞く女がいるって噂になってるんだよ!」
「そんな事は気にしなければ良い!」
「ナルミ、何とか言ってよーー!」
げ、私を巻き込まないで!
「ナルミさんと言ったね。初めまして。ソーマエル・ワーレインです。」
「ナルミ・ジェイドです。」
「ユーリ殿、お久しぶりです。ミツルギに聞いていてもたってもいられなくなってね。銀灰の竜の力を見せてもらえないだろうか?」
ユーリは国王陛下に舌を出すと(な、な、ユーリ!何やってるの!)ソーマエル師に掌を向けた。ユーリの髪が銀色に変わる。そしてユーリの掌から銀色の粒子が立ち上がる。
「おおお、これはすごい。本当にミスリルだ。」
ユーリは私の方を向いた。
「ナルミは物質化ができるよ。」
「はい、逆に私は粒子化することはできませんが…」
私はクロスガンに魔力を込めた。私の髪が銀色になる。
「おお、こんなことが…」
私はクロスガンに生成したミスリルの弾丸を取り出してソーマエル師に手渡した。
「魔力を解呪すると消えてしまいます。」
ソーマエル師はジッと私達の事を見つめていたが、しばらくの後に大きく頷いた。
「魔刀!是非、私に打たせてください。」
◇
私とユーリの指には紫色の宝石がはまった指輪が輝いていた。そして胸元には紫章の勲章。
私は全然知らなかったのだか、この特別褒賞紫章は騎士階級に授与される褒賞の中では最高に栄誉ある物なのだそうだ。ユーリからは知らないでもらいに来たの?と笑われてしまった…。今度、ドルク村にかえったら父ちゃんと母ちゃんに自慢しよ。
「さあ、ナルミ。今度こそ、食べるよ!」
私達は祝賀会の会場へと急いでいた。会場への扉で警備の兵士さんへ胸元の紫章を見せた。
「ラブリーエンジェルスのお二人ですね。こちらへお越しください。」
「えーー、また!」
「さあ、こちらへどうぞ。」
私達はまたもや別室に連れて行かれた。
「今度は何だよー。」
「ユーリ様、ナルミ様。私、王立生物学研究所のエミリー・パックマンと申します。」
メガネをかけ、髪がボサボサの30歳くらいの女性だった。顔色が悪くて不健康な印象。
「よ、よろしくお願いします…」
「卵!!銀灰の竜の卵があるとか!!」
ふ、不健康な割に圧がすごい。
「これです。」
私はコロコロと足元を転がっている卵を指し示した。
「これは!!興味深い!!!」
エミリーさんはどこからともなく測定器を取り出すと卵の計測を始めた。
「ほうほう、長径は20cm、重さ1.5kg。色はとても明るい灰色。見方によっては銀色にみえますな!」
「あ、あの…」
「黙って!!今、卵の中の音を聞きますから!!」
エミリーさんはどこからともなく聴診器を取り出した。て、手品かな??
「ふむふむ。心音が聞こえますな。でもとてもゆっくりだ。」
「あ、あの…」
「静かに!!これから魔力を探ります!」
「はあ。」
ダメだ。この人、全然私の話を聞いてくれない…。ユーリも苦手なタイプなのだろう。ちょっと腰が引けていた。
「ふおおおお!」
「どうしました??」
「静かに!!」
あなたの方がうるさいと思います…。
「はあはあはあ。すごい魔力です。あなた!!」
私?何?何?
「この卵と魔力が同調してます!いうなれば一心同体です!!きーーー、うらやましい!!」
わかった!わかったからあまり近づいてこないでーー!
「この卵…、私の見立てでは後三月くらいで孵化します。もし、何か相談したい事があったら、」
シュバ!エミリーさんはまたどこからともなく名刺を取り出した。
「ここにいらっしゃってください。なんならこの卵を引き取ってもよろしくてよ。」
はあ…。うん?エミリー・パックマン特級研究員??エミリーさん、ごめんなさい。変な人かと思ってました。優秀な研究員なんですね。
「はあ、わかりました。何かあったらよろしくお願いします。」
◇
「う、う、やっと!やっと、お料理が食べられるよ…」
「はい…、疲れました…」
祝賀会会場の入口で紫章を警備の兵士さんに見せた。
「ラブリーエンジェルスのユーリ様、ナルミ様。どうぞ。」
やったー、やっと入れる!
会場への扉が開いたところで会場の視線が集まった。
「おおー、ラブリーエンジェルスのお二人だ。」
「なんという優美さか!」
「強さと美しさを兼ね備えた特別チームか…」
あれ?なんだか注目されている?
「ナルミ、もしかしたら最後のダンスタイムじゃない??」
「え?もう、祝賀会は終わり!!!?」
見ると料理はほとんど残っていなかった。な、なんてこった!!こんな事が許されるのか!!
「美しいお嬢様。私と踊ってくれませんか?」
野暮ったい小太りの男にダンスへ誘われた。
「いや、小生と如何でしょうか?」
いやいや、私と僕と…ワイワイ。
くっ!ろくなやつがいないじゃないか!!ユーリと一緒に私達をダンスに誘おうと列を成していた男どもを睨んでしまった。
「ひ、ひー、失礼しました!」
はあ、またやっちゃった…。ユーリと顔を合わせる。ユーリはふっと息をつくと私の目を見つめてきた。お、やっぱりユーリはかわいいなぁ、同性の私でもドキドキしてしまう。
「きれいなお嬢様。私と踊ってくれませんか?」
ユーリが私の手を取ってはにかみながらダンスに誘った。うー、なんだかときめいてしまった。ふふふ。
私はちょっとだけ首を傾げてユーリの誘いを受けた。
「はい、喜んで。」
料理は残念だけどちょっとは楽しまないとね。素敵な殿方もいないし…
私達のダンスは会場中の視線を集めた。だって王都最強のチームだよ。そこら辺のぐうたら貴族とは鍛え方が違う。
「ユーリ、また今度踊ってください。」
「うん、良いよ。ナルミと一緒だとさ、何でも楽しいね。」
私はユーリの言葉を噛み締めながらステップを踏んでいた。
◇
余談。
「ミツルギさん!大好き!!!」
ユーリの歓声が響いた。
「わあ!宰相さま!本当にありがとうございます!ー」
何と私達がなかなか祝賀会場に姿を現さないので、宰相さまが気をきかせて別室に料理と飲み物を運んでくれていたのだ。
「ユーリ、このビーフの赤ワイン煮込みはトロトロですね。噛まなくても飲み込めてしまう!
鯛の皮目を炙ってトマトソースをかけたお料理も美味しいです!身がふわふわで皮がパリパリです。
このコンソメスープなんて夢のような味です。何でこんなにお肉の味がするのかしら。でも全然重たくないの!!」
「そうだろそうだろ。私の言った通りだったでしょ!」
うん、まあそうだねと言っておこう。私達は宰相さまに感謝しながら料理を堪能したのだった。
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