第68話 ナルミの1日(2)
「あ、あ、あ、イーロンさんのお知り合いでしたか!」
「お前ら、この方はラブリーエンジェルスのナルミ・ジェイドさんだ。命拾いしたな。」
「げ、げ、アグリーデーモンズ!!」
私はアグリーデーモンズと叫んだ男の腹を拳で殴りつけていた。
「ラブリーエンジェルスだ!変な名前で呼ぶとブッ飛ばすぞ!」
男は白目をむいて倒れる。
「し、失礼しました!!」
男達はそれこそ右往左往し始める。はあ、面倒くさいけど全員ブッ飛ばすか…。そう思った時だった。
「おい、お前ら!何をやっている!!」
あ!ミットフィルさん!颯爽と現れたのは親衛隊の若き副隊長、ミットフィルさん。
やっぱりかっこいいなあ。男達は突然現れた親衛隊に逆上して逃げ出そうとしていたがそうは行かない。親衛隊員に次々と捉えられていた。
「ナルミさん、お怪我はありませんか?」
み、ミットフィルさん。そんなに心配しなくても大丈夫だよ。
は!!その時、私はものすごい殺気を感じた。急いで振り返ると髪を逆立てたミューさんがいた。こ、怖い。だ、大魔神かな??
「これはこれは。親衛隊のミットフィル副隊長ではありませんか?」
「おや、SS級チーム、サーペントのイーロン殿。」
バチバチバチ。
な、何だ?ミットフィルさんとイーロンさんの間で見えない気の応酬がなされていた。す、すごい。二人とも達人の域だな。常人がこの戦いに巻き込まれたら即、威圧されて気を失うだろう。
実力も均衡しているし、若い二人はライバル同士なのだろうな。
「すごい、すごいにゃ。雄の戦いにゃ!」
「マム、見つかるから静かにして!」
はっ!ユーリ?マム?私は二人の気を探った。
「き、気のせいか…」
あ、ミットフィルさんとイーロンさんは?二人ははあはあと肩で息をしていた。
「お二人とも、心配をおかけしました。私、約束があるので失礼しますね。」
私は二人を残してそそくさと立ち去った。
「「あ、待ってください!ナルミさん!」」
私を呼び止める声が聞こえたが、今日はごめんなさい。ミットフィルさん、イーロンさん。
「にゃにゃ、あの二人と分かれたにゃ!」
「ち、違う男なのか??」
やっぱり!ユーリとマムだ。私の後をつけているな…
私は込み入った路地に入ると急に角を曲がった。すかさず遮蔽の石を発動させて物陰に潜んだ。
「あ、いないにゃ!気配もない!」
「マム、お前は本当に"陰"なのか?まかれちゃったじゃないか…」
「め、面目ない…」
はぁー、私は静かにため息をつくとゆっくりとその場を後にする。
「僕のプライドにかけてナルミを探すにゃー。陰を総動員にゃーー。」
不穏な会話が聞こえて来たが、聞かなかったことにしよう。
◇
「ごめんください。」
約束の時間。私は一軒のお店に入った。
「ナルミです。」
「お待ちしてました。こちらにどうぞ。」
静かで心地の良い雰囲気だが私は緊張していた。周りを確認する。刃物を手にした男女が数名。身のこなしが只者ではない。
「お荷物をお預かりします。」
私は男にバッグや刀などを渡す。
「お座りください。」
示された席に座ると刃物を持った男が近寄ってきた。私は覚悟を決める。
「それでは。」
妙にギラついた鋭い刃物が私に近づいてきた。
『ジャキン』
パラっと私の黒髪が切られ、視界の隅で舞い散った。
◇
ワイワイワイ
「マム!全然見つからないじゃないか!!陰の実力はそんなもんなのか!!」
「い、いや。今、総動員で頑張ってるにゃ。もうちょっと待つにゃ。」
ワイワイワイ
「えっとー、ただいま。」
私の声にユーリとマムがすごい勢いで振り返った。
「おかえりなさい、ナルミちゃん。かわいい帽子だね。買ったの?」
「ただいま、アカネ。へへへ、かわいいでしょ?」
私は白いニット帽をかぶっていた。
「お、おう、おかえり。ナルミ。」
私はちょっと意地悪をしたくなった。
「今日は不審な輩に後をつけられたり、追い回されたりして大変でした。」
私はとても不機嫌な感じで言った。
「お、おう、そ、それは大変だったね…」
「そうなんです…」
私は思いっきりマムを睨みつけると言った。
「こんな感じの"猫"っぽいやつでした。もうちょっとで殺してしまうところでした。」
「にゃにゃ。ご、ごめんにゃ、ナルミ。ユーリさんがやれって言うから…」
「あ、お前。陰がそんなに簡単に口を割るな!」
「ふーん、ユーリが…」
「いや、それはその。」
「冗談です。怒っていません。」
私はそう言うと帽子をとった。
「あ、ナルミ!かわいい!!」
そう、私は今日、髪を切ってきたのだ。しかもショートヘア。
「どうしたのどうしたの?似合ってるね!」
「うん、ナルミちゃん!かわいいよ。」
そ、そんなに良いかな??
「射撃する時に髪が長いと邪魔なんですよね…だから短くしました。」
「な、なんて色気のない理由なんだ…」
「別にいいじゃないですか!それに私に彼氏ができないのはユーリが邪魔してるからですよ!」
それを聞いたアカネが頬を膨らませた。
「ユーリちゃん!そんな事をしているの?」
「ち、違うよ。アカネ。あのね、ナルミの彼氏には強くあってほしいから私より強くないとね…」
「そんな人!そうそういるわけないでしょ!!もう、ユーリちゃん、ナルミちゃんの邪魔しちゃダメだよ。」
プンプンと怒るアカネにオタオタするユーリ。いつもの光景があった。
ふふふ、やっぱりミシマ分室は良いなあ。私はそっと皆に見えないように微笑んだ。
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