第67話 ナルミの1日(1)
「よし!決めた!」
私は朝から自分のベッドの上で迷いに迷っていたのだが、ついに決断した。銀灰の竜と戦ってからもう1ヶ月が経つ。相変わらず身体に魔力を循環させると髪が銀色になる。ユーリはそれが気に入っているのか?依頼で悪人をぶっ飛ばすたびに、
「ナルミ!変身だよ!チェーンジ、エンジェル1号!!参上!!」
などと叫んでいるので恥ずかしい。あれ、やめてくれないかな…
まあ、それはそうと私の決意はもう変わらない。決めたのだ!
「よし、朝ごはんを食べよう!」
私はベッドから起き上がると、簡単に身支度をして食堂へと降りた。私の後を卵がコロコロとついてくる。最近、私はだんだんとこの卵もかわいいと思い始めていた。
食堂へ降りるとマムがユーリにくっ付いてゴロゴロと喉を鳴らしていた。実は演習から帰ってきてから1ヶ月間ずっとこうなのだ。カガリさんの目が冷たい。ブルブル。
「ちょっと、マム。邪魔なんだけどなぁ。」
ユーリはマムを押し除けようとしていたがマムは離れない。
「にゃにゃ!ユーリさん達が悪いのにゃ!僕を置いて遊びに行ったと思ったら可愛げのない卵を拾ってきたにゃ!!僕は自分の立場を守るために戦っているにゃ!」
いったいマムは何と戦っているのだろう?私はそっとため息をつくと椅子に座った。
「おはよー。ナルミちゃん。コーヒー、飲む?」
「おはよう、アカネ。うん、アカネのコーヒー飲みたいなあ。」
アカネはトーストとベーコンエッグ、サラダを用意してくれた。そして香り高いコーヒー。最近ではアカネの入れてくれるコーヒーもなかなかに美味いのだ。私はコーヒーの香りを楽しみながら、ちちくりあっているユーリとマムを見ていた。
「最近、ユーリちゃんとマムって仲が良いよねー。」
そ、そうか?あれは仲が良いのか?
「ところでナルミちゃんの今日の予定は?」
「うーん、そうだね。中町の方へ行ってくるよ。」
私は出かける目的を話すのが照れ臭かったのでぼやかして言った。
「そう…気をつけてね。」
私は朝ごはんを急いで食べるとユーリとマムに手を振った。
「じゃあね、2人とも。アカネ、夕方には戻るよ。」
私はいったん部屋に戻ると緑色のマフラーを巻いてミシマ分室の制服であるコートを羽織った。よし、行こう。私は玄関脇にある鏡を覗いて笑顔を作ると元気良く外へと飛び出した。
◇
「ちょっと、マム!離してよ。ナルミが出かけちゃったじゃないか!」
「別に良いにゃないか。ナルミも出かけたい時だってあるでしょ。」
「だってナルミ、ちょっとだけ様子が違ったよ。何かを決意したと言うか…吹っ切ったというか…。」
マムはちょっとだけ考えてにやっと笑った。
「ははあん。それは雄だにゃ。」
「え?え?そうなの?」
「間違いないにゃ!ミットフィルか、その何とかという冒険者にゃ!」
「え?え?ミットフィルか、イーロン!!」
「そうにゃ!間違いにゃい!」
「ダメだ!マム!私達も出かけるよ!!」
アカネはその様子を見て、ため息をついた。
「はあ、2人とも!ナルミちゃんに迷惑をかけちゃダメだよ!」
だがアカネの言葉は半分理性を失ったユーリには届かなかった。
◇
久しぶりに王都をブラブラしていた。約束の時間までは余裕がある。たまには一人で散策するのも悪くない。
「良い天気だな…」
たまに吹く風が肌寒いが天気は快晴だ。気分が良い。
「ふふふ。」
気分が良いと自然と微笑んでしまう。
「へへへ、お姉ちゃん。楽しそうだね。俺と遊びに行かないか?」
もう、すぐにこれだ。はあ、相手を見やるとむさ苦しい冒険者風の男だった。むさ苦しい顔が近寄ってくる。む、む、む。臭い…
「急いでますので…」
私は事を荒立てないようにニコッと笑うと踵を返した。
「ちょっと待てよ。せっかく俺様が声をかけたんだ。付き合えよ。」
男の手が私の肩に触れた。ぞわぞわぞわ。
「や、やめてください。」
「へへへへ。」
男は顔に不気味な笑みを貼り付けたまま、前のめりに倒れてしまった。
「やめないとぶちのめしますわよ。」
私はだんだんとユーリに似てきたのかな?先に手が出てしまった…。あ、でもセリフはお上品だったから良しとしよう。
「あれ?ユーリとマム??」
路地の隅にユーリとマムの姿が見えたような気がしたが…気のせいか。
「あああ、お前。大変な事をしてしまったなあ。どう落とし前をつけるつもりだ?あん?」
めんどくせー。モブっぽいのがたくさん現れた。
「あああ、大怪我してるぜ。これはお前の身体で治療代を払ってもらわなきゃな!!」
わらわらわら
たくさんの男に囲まれてしまった。うーん、殺しても良いかな??よし、殺そう。そう思った時、聞き覚えのある声が聞こえた。
「ナルミさん。どうされました?」
あ、イーロンさん。うん、相変わらず冒険者とは思えない爽やかさ!
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