第65話 もっともっとだ!!
「娘よ。死にたくなければ我に力を示せ!」
ユーリはイーロンさん達に素早く指示を出した。
「3人は下がって後方からナルミを狙うドラゴンの魔力を防いで!」
イーロンさん達は何か言いたげだったがすぐにユーリに従う。
「わかった。ヒソカ、バン。下がるぞ!」
「ナルミ!クロスライフル、全力だ!いや、全力を超えて!炎弾だ!!」
私はクロスライフルを引き抜き、全力の魔力をクロスライフルに込める。
「もっともっとだ!」
ユーリの声が聞こえてくる。ユーリは刀に魔力を込めるとドラゴンへと光刃を飛ばした。だが光刃はドラゴンの前に現れた銀色の壁に阻まれて散った。ドラゴンが咆哮する。
ドラゴンの咆哮とともに銀色の粒子がユーリを襲った。ユーリは銀色の粒子をレジストしながらドラゴンの足元に走り込む。刀を一閃。
「ちっ!」
ユーリの一撃はドラゴンの後ろ足を捉えたが大してダメージを与えていない。ドラゴンの肉が裂かれ、血が出ていたが…
「娘よ。強き娘よ。お前の力は侮り難い…」
ユーリは銀色の粒子を避けきれなかったのだろう。肩から血が出ていた。あの銀色の粒子は金属なのか?もしかしてミスリル!
「ユーリ!」
「大丈夫!ナルミ、もっと魔力を注ぎ込んで!喉元だ!逆さになっている鱗を狙って!」
ドラゴンは翼を羽ばたかせると空に舞い上がった。再びの咆哮。銀色の粒子がユーリに襲いかかる!私にも。
ユーリは魔力を小出しにうまく粒子を防いでいた。私は…、私は特に防御はしない。いや、できなかった。防御に魔力を使いたく無かった。もっともっと魔力がほしい。クロスライフルに込める大量の魔力が!!
「あっ。」
私に襲いかかってきた銀の粒子はサーペントの3人が防いでいた。全ては防ぎきれないが、身体を挺して私を守ってくれていた。鋭いミスリルの粒子が3人を切り裂く。
「ナルミさんは守りきる!」
イーロンさんが吠え、他の二人が同調する。
「リーダーの思いびと、将来の姉さんだ!へへへ、何があっても守りぬきますぜ!」
私は3人に感謝しながら、集中する。もっともっと魔力を!
ユーリは銀色の粒子を紙一重で避けながらドラゴンへ刀を振るっていた。
しかし、力は互角。ユーリからもドラゴンからも血が吹き出していた。もっと、もっと!私は自分の限界を超えた魔力をクロスライフルに込めていた。行ける!!
「ナルミ!」
ユーリに名を呼ばれ、全てを悟った。
「はい、ユーリ!」
ユーリは魔力を練り上げると風魔法を操り、高く高く空へ舞い上がった。
「でやーー」
裂帛の気合いだった。ユーリへ銀色の粒子が襲いかかるがユーリは意に返さない。ユーリの頬が腕が足が切り裂かれ、血が糸を引く。だがユーリは怯まない。
私は吟遊詩人の詩を思い出していた。
『かくして金の髪を靡かせた少女はドラゴンの羽を切り落とし、邪悪なるドラゴンを地に落としめた。そしてララーシャは地に落ちたドラゴンに氷の息吹を吹きかけ、その巨体を永遠に封じたのだった…。』
私がララーシャ様の役目を担う!!
ユーリが気合いとともに銀灰の竜の翼を切り落とした。
その巨体が咆哮しながら落ちてくる。
喉元!一枚だけ逆さになった鱗。いわゆるドラゴンの逆鱗である。狙う!
「見えた!!」
私はクロスライフルのトリガーを引いた。炎弾。
炎弾はその圧倒的な熱量で銀色のミスリルを消滅させながら銀灰の竜の逆鱗を貫いた。
しかし!もうひと押し!!もう少し足りないか?!
「あ!ユーリ!!」
地面に転がるように着地したユーリはそのまま飛び起きると居合の型をとり、刀を抜き放った。魔力が光の刃となって銀灰の竜の逆鱗に迫る!
「さよなら、銀灰の竜…」
ユーリは魔力を放った刀を鞘へ戻すと、その場に倒れこんだ。
「がああああー」
ユーリの光刃を受けた銀灰の竜は咆哮した。その咆哮は辺りにこだました。その咆哮はまさに断末魔のさけびであった。
◇
「これは…」
私は銀色に輝く世界にいた。隣にはユーリがいる。
「銀灰の竜の精神世界だね。」
「精神世界…」
『強き娘達よ。我を呪縛から解き放った事、礼を言う。』
頭の中に声が響いてきた。銀灰の竜。古き竜が一体。
「シバの仮面に囚われていたんだね。」
『それは古き魔法士達の呪縛。あの仮面には我の心が囚われていた。それゆえに我はあの仮面を持つものに身体を支配される…。だが其方らが我の身体を砕いてくれた事で仮面に囚われていた我の心も解き放たれた。我は自由を得たのだ…』
そして銀灰の竜は今回の魔獣が集まっていた原因も教えてくれた。
古代の魔道具を利用してシバの仮面に銀灰の竜の力を委譲しようとしている者がいるらしい。塔に集まっていた魔獣は魔道具を起動させるためのエネルギーだったのだ。
「ドラゴンの力を得ようだなんて…そんな危険な事を企む奴らがいるんですか…マルバをシバの仮面の宿主にしようとしたんでしょ?」
何て事をしようとしていたんだ!私は憤った。
『強き娘達よ。古代の魔神を復活させようと蠢く者達がいる。シバの仮面で我の力を得て、魔神を操るつもりだったのだろう。愚かな事だ…』
私は得体のしれない恐怖を覚えて身震いした。隣のユーリも険しい顔をしている。そんな私達を見つめて銀灰の竜は一息ついた。
『強き娘達よ。我はやっとこの心を滅ぼす事ができる!そして竜体を滅ぼした其方らには我が呪いを刻みこむとしよう。』
の、呪い??いらないよ!!そう思ったが…
『魔神は復活させてはならない。娘達よ。この呪いをどうか受け取っておくれ…』
その瞬間、私は全身に痛みを感じた。耐え難い苦痛。何かが身体の奥底にある私の核に刻まれていく。
これは私の魂じゃないのか?魂に銀灰の竜は何かを刻みこんでいるのか?私は魂に何かを刻まれる恐怖と苦痛に失神した。
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