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第60話 波乱の予感

 士官学校の待合室のソファでアイシャと並んで座っていた。何度も何度も時間を確認するが全然時は進まない。どうなっているんだ?


「ねえ、ムーン。あと一人、演習に参加するんでしょ?誰?」

「えっ?知らないよ。僕はアイシャが参加する事だって知らなかったんだから。」

「そうだよね…ムーンはそういうやつだよね。」


 なんだよ…何で怒ってるんだよ…先はアイシャが演習に参加する事は内緒にしてるって言ってたじゃないか!内緒にしてたらわかるはずがない。


「ムーンは私に全然興味がない…」


 プリプリと怒っているアイシャを無視して僕はため息をついた。あー、早くアグリーデーモンズに会いたいなあ…



 

『コンコンコン』


 約束の時間よりも30分ほど早くドアがノックされた。僕は訝しみながらも声をかけた。


「はい、どうぞ。」


 入って来た人物に僕は心を奪われた。金色に輝く髪。整っていて美しい顔。なのに冷たい感じは無くて親しみやすい。表情が豊かなのだ。透き通るような肌の質感。均整の取れた肢体。だが全然強さを感じさせない。隙だらけなのだ。何て魅力的なんだろう、ユーリさん!!


「お!二人は早いね。えっと、アイシャさんとムーン君かな?」

「はい!アイシャ・オルグと申します!ラブリーエンジェルスのお二人にお会いできて光栄です!」

「おおーー、アイシャは良い子だね!ナルミ、聞いた?ラブリーエンジェルスだって!」

「はい、ユーリ。良かったですね。」

「えっとー。ムーン君?」

「ちょっとちょっと、ムーン!」


 アイシャに揺すぶられて僕はようやく我に帰った。


「あ、あ、あの、そのムーン・クラインです。アグリーデーモンズがだ、大好きです。そ、その、祭りの夜にユーリさんの剣技を見て、あのかっこ良かったのです。あの光景は僕の人生を変えました!あの!ユーリさんは女神様なのですか??」


 ユーリさんは微妙な顔をしていた。が、


「ムーン君…よくわからないが…ひとつ訂正をしよう。私達は"ラブリーエンジェルス"だ!アグリーなんちゃらというチームは知らん!わかったね?」


 ユーリさんは僕の頭を鷲掴みにするとギリギリと締め上げながら言った。


「い、痛い。は、はい、わかりました!!」

「わかればよろしい!それと!私は女神ではないよ。そうね、私は皆んなのアイドルかな?」


 キュピン。ユーリさんは顔の横でピースサインを決めると舌を出してウインクした。か、かわいい!!ユーリさんのあまりのかわいさに僕はくらくらしてその場に倒れてしまった。


「ちょっと、ユーリ!気持ち悪い事をするからムーン君が卒倒して倒れてしまったじゃないですか!どうするんですか?」

「ナルミ、何言ってんだ。私のかわいさにめまいをしたから倒れたんだろ!何言ってんだ!」


 ワイワイ言い合いをしている二人の声を聞きながら僕は幸せを噛みしめていた。何て僕は果報者なんだろう、と。

 その後、僕達はS級冒険者チームのサーペントの3人にも挨拶ができた。とても気さくで親切だった。本当に今回の演習は恵まれている。これからの演習内容を想像して改めてワクワクした。

 アイシャも同じようで楽しそうにニコニコしていた。特にナルミさんと意気投合したようで魔力コントロールについて色々と助言をもらっていた。


「なるほど!魔力は面では無く点で放出するんですね!確かに威力が増すなあ。」

「そうなの。大した事じゃないんだけど、盲点な理論でしょ?」


 サーペントのヒソカさんとバンさんもナルミさんの話に相槌を打っていた。


「なるほど。ナルミさんの言う通りだ。確かに気づけば大した事ではないと思ってしまうが…。これをわかっているか、わかっていないかで魔力コントロールに雲泥の差が出る。なるほど。」


 ヒソカさんもバンさんもとても関心していた。


「そうなんです。私の周りにはユーリもそうなんでが多量の魔力で叩きふせる戦い方を得意とする人が多いんです。私はとてもじゃないがそんな戦い方をしたら身体が持ちません。苦肉の策で思いついた方法なのですがこれがなかなかに便利なんです。参考になったらうれしいです。」


 ナルミさんも素敵な人だなぁ。苦労してたどり着いた魔力コントロール法なのだろうに惜しげもなく皆に教えている。しかも偉ぶった感じが全くない。謙虚なのだ。本当にこの演習に参加できて良かった。

 さて、待ち合わせの時間をとうに過ぎて1時間も経った頃、ドアが乱暴に開かれてマルバ・アインツが入ってきた。

 あいつ!あいつがもう一人の参加者か!僕は今までの幸せな気持ちに水をさされたように感じた。


「お前らが今回の講師か!ふん!しがない冒険者にチャラチャラした女か!まあ、女の方は少しは見栄えが良いようだが…」


 失礼な態度のマルバに対してユーリさんは一暼すると言い放った。


「まあ、どう思おうと良いが遅れた事に対する謝罪もできないの?」


 マルバはフンっと鼻を鳴らした。


「女!優しくされているうちに黙った方が良いぞ。俺に逆らうと王都にいられなくなるぞ!」


 マルバは相手が誰かわかってないのか??


「はあ…アインツ家のバカ息子か…」

「き、キサマ!俺がアインツ家の者とわかっていてそんな態度をとるのか!!」


 マルバは激昂していた。だがユーリさんは意に返さない。


「はあ、ヨルクもサンダーもどういう教育をしたのかな…」


 そう言うとユーリはボソッと呟いた。


「シバの仮面。」

「な、なぜお前がそれを知っている!!」

「あの仮面を封印したのは私だ。これ以上、我々に敬意をはらわない態度をとるのであれば封印を解呪する。」

「な、何を言っている…いや、でもそれは…」

「ならば我々に言う事があるだろ?」


 ギリギリと悔しさを滲ませながらマルバは謝罪した。


「お、遅れ、お、遅れてすみませんで…した。」

「ほら、頭を下げて!」


 マルバは屈辱に満ちた表情で頭を下げた。


「よし!それじゃあしばらくの間よろしくね!」


 ユーリさんはさわやかに笑うと明るく言った。


お読みいただきありがとうございます!これからもよろしくお願いします。

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