第58話 新たな依頼
「嫌です!室長が持って来た仕事でしょ!お断りです!」
「ユーリさん、そんな事言わないでくださいよ…。士官学校からの正式な要請なんです。校長を兼ねている宰相殿からもよろしく頼むと言われているんです。」
ユーリはとっても嫌な顔をしていた。
「誰に頼まれても無理!とにかく室長の仕事はやりたくない!」
ユーリは室長にどれだけ騙されてきたのだろう。尋常じゃない嫌がり方をしていた。
「この仕事に穴が空くと困るのです。士官学校に通う私の息子が先生達から嫌がらせを受けてしまいます。」
「はあー、ヨームは独身でしょ!いつもどんな妄想しているのよ!!」
ヨームさん…いつもちょっと言い訳が痛いです…。ヨームさんは形勢が不利と見るや懐から何やら一枚の紙を取り出した。
「ナルミさんの魔刀が折れてしまいましたよね。」
「はい、折れてしまいました。」
「自分用にカスタマイズされた魔刀をほしいとは思いませんか?」
「はい、ほしいですが…」
「ここに王国随一の名工ソーマエル師への紹介状があります。」
うん、ソーマエル師だと!彼の打ち出す刀は使い手とともに育ち、唯一無二の名刀となるらしい。
「ユーリさんの刀もサーラさんの大鎌もソーマエル師の作です!」
な、何!!ほ、ほしい!!
「ヨーム、ずるいよ!ナルミに刀を作ってもらおうと色々手を回していたところだったのに!」
「だってユーリさん、ソーマエル師からイロ良い返事をもらえてないでしょ?」
ユーリはむむむっと口を結んでしまったがハッとした表情を浮かべるとヨームさん問正し始めた。
「あ、室長だ!私がソーマエル師に根回ししている事を知って!!手を回したな!」
「さあ、それは知りません。でもこの紹介状は宰相殿からの物です。どうですか?ほしいですか?」
ユーリ…、私は上目遣いにユーリの事を見つめた。もうこれ以上できないと思うほどかわいい表情で!
「わかった、わかったよ。やるよ。んで、士官学校の生徒のお守りをしながら冒険者ギルドと一緒に魔獣を狩ってくれば良いの?」
「はい、基本はそうです。」
ヨームさんは後ろめたかったのか?ユーリから視線を逸らせた。
「ほら!ほらほら!『基本はそうです。』だと!基本じゃない事もあるんだろ!」
「…はい、魔獣が集まっている原因を調べてほしいのです。カガリさんとアカネさんのサポートもありますし、ラブリーエンジェルスなら簡単でしょ?困っている村村もたくさんありますし、ラブリーエンジェルスが華麗に解決したら評判は爆上がりですよ。」
「確かに…。」
「ではよろしくお願いしますね。士官学校には私から連絡しておきます。」
むふむふとニヤついてるユーリ。ヨームさん。ユーリの扱いが上手いですな。でも私は刀がほしいので細かいことには目を瞑ることにした。
「ユーリ!がんばりましょうね!」
◇
士官学校と冒険者ギルドの共同演習の日。朝からユーリと私は冒険者ギルドを訪ねていた。待ち合わせはお昼なのだが、色々と情報を仕入れておきたかったのだ。
『バン!』
ユーリと私は冒険者ギルドのドアを開くと受付カウンターへと歩を進める。いきなり入ってきた若く美しい二人組の女性。朝からたむろしている荒れくれ冒険者達の視線が突き刺さった。と思ったら皆、一様に視線を逸らせた。場もシーンと静まり返る。…まあ、しょうがないか。
ユーリがキョロキョロと受付カウンターを探していたが、いつもいる獣人のお姉さんがいなかった。ユーリは近くにいた冒険者に尋ねた。
「いつもいるお姉さんはどこ?」
「はい!!隣国から来ている冒険者に絡まれてまして。あちらです…」
冒険者が指した方には3人の冒険者に取り囲まれている受付のお姉さんの姿があった。
「何で助けてあげないのよ…」
「あいつら、A級冒険者ですよ。何されるかわからない…」
小さな声でモゴモゴと答える冒険者にため息をつくとユーリはA級冒険者の元へと向かった。
「お姉さん、久しぶり!ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
ユーリは顔を引き攣らせながら、無理やり笑顔を作ってお姉さんに話かけた。
「ひっ、ひーー。ゆ、ユーリさん。」
ああ、お姉さん、怖がってるじゃないですか…
「この国では冒険者ギルドだけじゃなく、冒険者までが礼儀しらずなのか??」
A級冒険者チームのリーダーなのだろう。長身ですらっとした体型の若い男が声を掛けてきた。
「あんた達…、隣国から来たんでしょ。他国で若い女の子をいじめて何やってるのよ…」
お姉さんはブルブルと震えていた。うーむ、あれはどっちを怖がっているのだろう?ユーリ?冒険者?
「こちらの方が魔獣の素材を持ち込まれたのですが、買取価格が低すぎるとおっしゃられまして…」
金額を聞いてみると適正価格のように思える。だが冒険者の希望は倍額なのだそうだ。
「お姉さん。もうあいつらの相手する事ないよ。色々聞きたい事があるんだ。あっちでゆっくり話せるかな?」
「おいおい、何言ってるんだ。勝手に話を進めないでくれ。」
男はユーリの肩を掴むと声を荒げた。
ざわざわ
「あ、あいつら…死んだな…」
「相手が誰かわかってないんじゃないか…」
いつも思うが、ギャラリーがうるさい。三人組の一人、樽のようにまん丸な男が下卑た笑いを浮べた。
「周りはわかっているじゃないか。俺達に付き合ってくれるなら今までの無礼は忘れてやる。おい、そっちの女もだぞ!」
ニヤニヤニヤ。ふえええ、顔が気持ち悪い…と思ったら、その樽のような男は気持ち悪い笑みを顔に貼り付けたまま前のめりに倒れこんだ。
「ナルミに下品な事を言ってるんじゃねぇー。ぶっ飛ばすぞ!!」
いつも思いますが、ユーリ…もうぶっ飛ばしてますから…
三人組のリーダーの顔つきが変わった。腰の剣に手をかける。しかし、もう一人の小柄な男は明らかに動揺していた。
「あ、あの髪の長い方!ナルミって…もしかしたらナルミ・ジェイド??」
「はい、確かに私はナルミ・ジェイドです。」
「ひ!!、デビルズスナイパー!ということはこっちのユーリというのはバーサクデーモン??」
小男はひっ!!と引き攣った悲鳴を上げると後退りし始めた。私は小男の後ろに回ると耳元にささやいた。
「早くあいつを連れて私達の目の前から消えないと腹に穴があきますよ。」
私は人差し指を伸ばすと小男の腹を小突いてやった。
「バン!」
「ひっーー、す、すみませんでした。マルクス!は、早くここをでるぞ!ビーマを早く担げ!!」
「お、おい待てよ。俺はまだこの姉ちゃん達と話がついていな…」
「バカが!!この方達はアグリーデーモンズだ!す、すみません。すぐにいなくなりますから!」
目を白黒させている長身の男を急かして小男は冒険者ギルドを出ていった。
「A級冒険者がすんなり引いたぞ。」
「ひえー、恐ろしい…」
ユーリは場をひと睨みした。
「何か言いたいやつは前に出ろ!」
シーン。ユーリは満足そうに頷くと受付のお姉さんに笑いかけた。
「あっちでゆっくり話をしようか。」
お姉さんは引き攣った顔でコクコクと頷いていた。
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