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第45話 祭りの前

 王都。王城は高い塀と水濠で囲まれており、その周りに貴族の居住区、商店区、市場、そして平民の居住区に分かれている。

 気候は温暖で夏は30℃、冬でも15℃を下回る事は滅多にない。今の季節は秋。王都がもっとも過ごしやすい季節である。王国の各都市を結ぶ街道は全て王都が起点となっている。

 王都と王国第二の都市メガリカを結ぶ街道は王都の中央通りとなっており、王城の正門へと続く。

 王城の正門前は広場となっており、普段は市民の憩いの場、祭りなどの催しがある時は会場として利用されていた。そして、この中央広場から王城を眺めると国王陛下の宮殿が威風堂々と聳え立つ。

 この国の象徴とも言うべき、正門の上には初代国王の紋章が大きく掲げられており毎日の日課に拝礼する市民も少なくない。

 今、私とユーリは中央広場の一角にいた。広場は今、祭りに向けての準備が行われている。

 広場の中央には大きな舞台が作られ、周りでは食べ物の販売や物販をするための屋台が大忙しで準備をしているところだった。この活気!熱気!好きだなあ。

 そうそう、私の隣にはちょこんとマムが控える。相変わらず、気配はまったく感じない。

 マムはミシマ分室の"影"を担うと言って私達にくっついている。良いんだけど、たまにはユーリと二人になりたいなぁ…


「ここら辺だと聞いたんだけどなあ…」


 ユーリはキョロキョロと辺りを見渡していた。


「ユーリさん!こっちです!!」


 唐突に一件の屋台の影から顔を出して声をかけて来たのはミハルさんだった。


「おーー、いたいた。準備は進んでる?」


 あー、『ミハルの店』で屋台を出すんだ!絶対に美味しいに決まってる!


「ミハルさん!こんにちは。何を出すんですか?」

「ナルミさん!こんにちは。私達はじゃーん!これです!」


 それは鶏肉と野菜を串に刺してこんがりと炭火で焼き、ミックススパイスをかけたとても食欲をそそる一品だった。


「うわあ!美味しそう!」

「良かったら味見してください。今、試作中なので!」


 表面をカリッと焼いた鶏肉は肉汁が豊富で一緒に串に刺して焼いてあるリーキとの相性がとても良かった。何よりもミックススパイスの風味が肉の味を引き立てている。


「何!これ!!すごく美味いんですけど!!」


 ユーリはもしゃもしゃとすごい勢いで串焼きを食べていた。隣でマムがコクコクと頷きながら、これまたすごい勢いで食べていた。


「美味しいでしょー。ちょっとした自信作なんですよねー」

「これは売れますよ!お祭りの時も食べたいけど、列になりますよねー」

「ふふふ、3人の分くらいとっておきますよ。お祭りの後の打ち上げの時に食べてください!」

「はい、その日はきっと警備の仕事なので!お仕事が終わったら合流しますね!」


 まだ食べたそうにしているユーリとマムを急かして王城へ行く。今日はこれから近衛騎士団との打ち合わせなのだ。


「ほらユーリ。急がないと遅刻ですよ。」

「何だよー。ナルミはミットフィルに早く会いたいだけでしょ!」

「そ、そんな事ないですよ!な、何言ってるんですか!!」


 うーー、狼狽えてしまった…。ユーリが急に変な事を言うのが悪い!


「にゃにゃ!それはナルミの交尾の相手かにゃ?」


 がほ!ぶえ!ガホガホ!!思わず咳き込んでしまった。


「何何、何だよナルミ!うら若い乙女が汚いなあ。ほら、これ飲んで落ち着いて。」

「あ、ありがとうございます。」


 私はユーリからお水の入った水筒を受け取り一口飲んだ。ま、先ずは落ち着こう。


「ま、マムが変な事を言うからですよ!」

「違うのかにゃ?」


 そ、そりゃ私だって彼氏は欲しい。ミットフィルさんなら彼氏に最高だと思う。でも…


「違うよ。ミットフィルはまだ私に認められてないからね。ナルミの彼氏になるのはまだ先かな??」

「僕が何ですって??」


 そこにはミューさんを従えてミットフィルさんが立っていた。


 ぶふーー。私は思わず飲んでいた水を吹き出して、ミューさんにかけてしまう。


「はあーー、ミューさん!ごめんなさい!!」

「いえいえ、大丈夫ですよ。」


 ミューさんは穏やかに気にするなと言ってくれた。優しいな、ミューさん。


「ほお。これがナルミが将来、交尾する雄かにゃ。なかなかカッコ良いにゃ。にゃ、ミュー。」


 その時、私はミューさんの後ろに般若を見た!ブワッとミューさんの髪が立ち上がる!


「何ですって??」

「ナルミの交尾の相手にゃ。違うのかにゃ?」


 マムは純真な目をしてミットフィルさんに問いかけた。


「いや、僕はそうなりたいと思っているけど、ナルミさんの気持ちもあるし将来はどうなるかわからないから…いや、わからないと言うのは僕が心変わりするという事じゃ無くて騎士という仕事をしているからいつどうなるかわからないという意味で…で、でも交尾はしたいというか…いやでも…」


 ボフ!という擬音が聞こえてくるほどに私の顔は上気し、真っ赤になっていた。な、何を言い出すの!ミットフィルさんーー


「マム!副長も!王城の正門の前、しかも初代国王様の紋章の前で何を不順な事を言っているのですか!副長は交尾なんかしません!いつまでも清いままです!」


 ミットフィルさんはミューさんの勢いに負けて頷いてしまった。


「ははは、ナルミとミットフィルは大変だね。」


 ユーリは楽しそうに笑っていたが私のミットフィルさんを見る目を見て途端に仏頂面になった。


「やっぱりミットフィルは私に勝たないとナルミとの交際は認めん!交尾は無しだ!!」


 な、な、な。ユーリも何を言い出すのーー。しかもユーリとミューさんはアイコンタクトまでして意気投合してるみたいだし…あ、握手もした!

 はあ。前途多難だ…私は王城の正門の上に掲げられている初代国王様の紋章を見上げながら頭を抱えたくなっていた。

 

 


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