第109話 おかえり
「うるさいわね!何よ!」
ヒステリックに叫ぶ女の声がして乱暴にドアが開かれた。やっぱりユーリとは全然似ていない。なんだか腹が立ってきたぞ!
「初めまして。アグリデーモンズのユーリ・ミコシバさん。」
女は不機嫌な様子を隠さない。
「だから!何なのよ!」
すごい剣幕だ。とてもイライラしている。普通じゃない。何か、あるのか…?
「私はラブリーエンジェルスのナルミ・ジェイドといいます。」
私がそう言った途端に部屋の奥から短剣が飛んできた。あれは私の偽物だな?なかなかに鋭い動きだ。だけど。
私は首を傾げて短剣をかわした。妙に黒い刀身が私のすぐ横を飛んで行く。
(毒か…)
私は魔刀の柄に手をかけ、居合の型で偽ユーリを吹き飛ばす。私の振るった刀は偽ユーリの胸当を砕いた。
「あとで聞きたいことがある。」
私の言葉が偽ユーリに届いたか?はわからなかった。なぜならもう偽ユーリは白目を剥いて意識がなかったから。
私はそのまま抜刀して偽ナルミへ迫る。この女は偽ユーリより剣が使えるようだが私の敵ではない。私は偽ナルミに肉薄すると刀の柄をその腹に叩きこんだ。
「ふげっ」
奇妙な呻き声を残して偽ナルミも沈み込む。
「油断…、したつもりはないんだけどな…。」
私の手足はこの時、黒い糸で縫い込まれていた。痛みは無い。これは…。
「影魔法だ…。」
部屋の隅から黒い頭巾を被った男達が現れた。アルファジオの魔法と同じ系統。帝国か?死の商人…?
私の動きは完全に封じられていた。しかも部屋を空間的に途絶させている。男達は3人、3人ともに凄まじいまでの使い手だ…。魔法も連携している。これでは外部からの救援(ピー子)は当てにならない。厄介だな。男が短剣を手に私に近づいてくる。
「これでワープホール奪還の障害を潰せる…」
黒い刀身。毒の短剣。私は動けない。
(案外、あっけないんだな…。)
私はそんな事を考えていた。この状況を打開するための方策を考えるために頭をフル回転させながら。
(どうする?どうする?)
だが、思いとは裏腹に身体は動かない。私は短剣を手にゆっくりと近いてくる男を睨みつけた。
「死ね!」
男は気迫とともに私へ短剣を突き刺したのだが…。痛みは来なかった。
「?」
「な、なぜだ!」
男の絶叫。ふと見ると男の握っていた短剣は刀身が砕けていた。この空間は外界と途絶している。外部から攻撃するなんて芸当ができるのは…。私は空間ごと斬り伏せる事のできる、いるはずのない女性を思った。
◇
その攻撃は鋭かった。突然に現れた赤く閃く魔力の刃が私を刺そうとした男の腕を吹き飛ばした。
「な、なんだ!ありえない!途絶された空間だぞ!」
腕を抑えてうずくまった男に赤い光が走り、その首が落ちる。
その攻撃がどこから飛んでくるのか?私にもわからなかった。男達にも。
「!」
私の身体を拘束していた『魔法の糸』が斬られた。身体が自由になる。空間ごと魔法の糸を切ったの?こんな事をできる人を私は一人しか知らない。でもそれは後だ。私はクロスガンを抜くとミスリル弾を乱射した。
「ぐあっ」
残りの男達は呆気なく私の放った弾丸に体を貫かれた。
「ユーリ!!」
間違いない!ユーリの気配だ!魔力の質が違うが間違いない!ユーリだ!間違うはずがない!
私が見上げた空間が突如に割れ、赤い光が溢れ出した。
「竜?いや、違う…。」
赤い光はそのまま凝縮し、人の形になった。
「ユーリ…。」
私は空間から落ちて来た裸のユーリを優しく抱き留めた。
「ナルミ…、ただいま。」
ユーリは私の顔を見て、寂し気に呟くように言った。
私はユーリの言葉を聞いてそれまで耐えていたものが瓦解した。私の目から流れ落ちる涙は枯れることなく、ユーリの頬を濡らしていた。
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