第101話 ユーリ
「やったね!ナルミ!」
放心した私の肩にユーリが手を置いた。私もユーリもほとんど魔力が残っていなかったが、ピー子がバーキン族の兵を牽制してくれていた。
そして、ムライさん率いる騎士団も門を突破してこちらに向かって来ているのが見えた。ふう!良かった。ユーリと私はゆっくりと立ち上がるとワープホールへと向かった。ワープホールの前でバーキン族へ向き合う。
「ワープホールはラブリーエンジェルスが抑えた。もう勝ちは無い!投降しろ!」
ユーリの気合いがこもった声に一人また一人とバーキン族の兵は武器を捨てていった。
「ユーリ…」
ユーリは無表情で倒れたミーシャを見つめていた。その思いは複雑なのだろう。その時だった。通信機を通じてメルさんから警告が来た。
『上!魔力が来る!』
ユーリは反射的に刀を上空に振るった。私も魔刀に魔力を込めて上空から放たれた魔力を弾き飛ばした。
「ラムダ!」
現れたのはラムダだった。上空からの攻撃を防いでいるほんのわずかな時にワープホールへと接近していた。
「クッ!」
私は急いでクロスガンから光弾を発射してラムダを撃ち抜いた。
「クックックッ…少し遅かったわ…」
光弾はラムダの胸を撃ち抜いたがラムダはワープホールに何やら魔力を込めた後だった。
「クックックッ、ハッハッハッ!」
ラムダは高らかに笑うと口から血を吐いて絶命した。
「な、ナルミ!ワープホールが!!」
ワープホールは淡い光を放っていた。起動したのか??
『ユーリさん、ナルミさん!大量の殺意が送られて来ます!!』
通信機からメルさんの絶叫が聞こえて来た。帝国から兵が転移してくるのか?
「こ、この魔力…。私にはどうにもできない…」
おびただしい魔力が道を作り、その道を殺意に溢れた者達が進んで来ていた。
「ユーリ!!」
ユーリに迷いはなかった。金の刀、銀の刀に魔力を込めるとワープホールに振り抜いた。空間を斬って道を途絶させようとしているのか!だが魔力が足りない。
「ピー子ーー!」
私の声にピー子は少しだけ躊躇したがすぐにユーリの頭へ貼り付くと魔力を供給し始めた。
「ま、まだ足りない…」
暗い空間の穴から殺意がどんどんと近づいて来る。私はクロスライフルを抜くと魔力を込めた。
「転移して来た所を撃ち抜いてやる!」
今、クロスライフルを放つとユーリの邪魔になる。私はユーリの後衛に徹する。
「ユーリ!」
ユーリは終始押されていた。その顔に苦痛が滲む。
「!!」
苦痛に歪んでいたユーリの顔に笑顔が戻った。そう、ユーリの隣にはミーシャが並び立っていた。仮面が壊れた事で自我を取り戻せたのか?!二人は言葉を交わさなかった。目を合わせて頷いただけだった。
「お、押している!」
私はワープホールからの殺意が押し返されるのを感じていた。二人の魔力が一つになる。
「空間が途絶する…の?」
一つとなった魔力は空間を切り裂き、ワープホールの道を閉ざして行く。でも…。
「ダメだ!道を迂回された!中から空間を閉じないと!!」
ユーリが叫んだが、状況がわからない!わからないがワープホールの向こう側から溢れている魔力の性質が変わった。ユーリの魔力を避けて殺意を送っているように感じる。
「ナルミ!私の相棒!」
ユーリは私を見てニカッと笑った。ユーリ!何をする気なの?やめて、ユーリ!私は叫んだつもりだったが声にならなかった。
「ごめん、ミーシャ。巻き込んじゃうね…」
「いや、大丈夫だよ。ユーリと一緒なら…」
ユーリは一瞬、身体を縮こませて頭の上のピー子を振り落とした。ピー子が弾かれて私の胸に飛び込んで来た。
「ユーリ!ダメ!ユーリ!!」
私の静止はユーリに届かなかった。ユーリとミーシャはワープホールに向かってその身を踊り込ませる。
「いやだ!ユーリ!!!」
私の絶叫と同時にワープホールから溢れていた魔力は霧散した。ユーリとミーシャと共に。
「ユーリ!!」
私の絶叫はユーリには届いていないだろう。そこに残されていたのはユーリの"銀の刀"だけだった。その刀は宙に浮かぶように、"空間に突き刺さって"いた。
◇
ユーリが居なくなってから3年が過ぎた。王国とエルマ精霊国との間にはワープホールが運用されている。二国間の物流、人的な交流は活発となり、この地を中心に一大物流網が築かれている。
ワープホールはアリシアさんを長とした連合商会が管理し、悪用されないように厳重に管理されていた。
そうそう、ワープホールの維持管理、メンテナンスは魔法士のチームが選任されており、アカネが中心となっている。カガリさんは…。カガリさんはユーリが居なくなってから姿を消した。その行方はアカネも追えなかった。
そして、私は…。
「隊長、特に変わった事はありません。」
「そう。引き継ぎを終えたら上がっても良いわよ。」
「はい、ありがとうございます。隊長は…」
「私はもう少し。」
私はワープホールの前に建てられた連合商会の建物の一室から空中に突き刺さった刀を見やって言った。私は今、連合商会の守備隊の隊長をしている。ユーリの刀があるこの地を離れたくなかったのと、アリシアさんの力になりたいと思ったからだ。
「ユーリ…、あなたはどこにいるの…?」
私の問いに答えはなかった。ただ、ユーリの刀が沈みゆく夕日に輝いているだけだった。
第一部 完
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