第46話 魔族ルシファー
<バッサアー バッサアー>
身長2メートルを越す、悪魔の容貌の男は温泉場に降り立つ。
ゴトーとシーナに向かって、
「あれ? 先客っスか?
珍しいっスねー。こんなマイナーな所に人が来るなんて」
「・・・・・」 「……」
悪魔の男はシーナの容姿を見る。
「あれ?……鬼 (吸血鬼)っ子さんっスね。
そちらの男性の方は人族。
あー、鬼っ子さんの番っスね。
旦那、なかなかな幼な妻、モノにしたっスね」<ニヤニヤ>
「・・・・・」 「……」
仔龍を見て驚く。
「仔龍? これは紅龍の!
そちらはスライム。おっ、進化中。
いやー、メッチャ激レアっスねー」
『ピュイー?』
<ガクガクブルブル> ←スイスイ
「あっ、後から失礼っスが、自分も湯浴みさせてもらっていいっスか?」
困惑するシーナ。
「お、お前さんは……その成りからして、悪魔、じゃよな?」
「そうっスよ。ルシファーのルシーっス」
「ルシファー……」
「あ、危害は加えないっスよ。顔は厳ついっスけど、こう見えても穏健温和の人畜無害のルーちゃんで通ってるっス。えっと、入っても?」
「・・・・・」 「……」
「ダメなら時間、ずらスっけど」
「…なんもせんなら、ええけど」
「申し訳ないっス^^ ここの温泉定期的に来るんっスよー。ほら、鬼っ子さんと同じで亜人魔族は長く生きるでしょう? もうねー身体がガタガタで、ここの湯、腰痛に効くんっスよー」
「………」
ルシファーは掛け湯をして温泉に入る。
「お゛ぉぉぉー。極楽極楽、極楽浄土スねー。効くっスー。う゛ぅぅぅーー」
「・・・・・」 「……」
「そう警戒しなくてもいいっス。ちょっと悲しくなるっスよ。悪魔だからって人族からは避けられて、騎士団、傭兵、兵士からは猛攻撃。目の敵にされてもう参るっスよー。自分そんなに悪人顔に見えるっスか?」
ルシーはシーナに尋ねる。
「悪人顔いうか、無骨な体型に角と翼に問題があるんじゃないんか?」
「やっぱそっスよねー。けど持って生まれたものだしねー」
「苦労、しとるんか?」
「魔族はこの大陸で気苦労、苦労が堪えないっスよー」
ルシファーは周りをキョロキョロと見回し、小さな声で、
「ここだけの話しっス。自分、魔王様の手下、四天王の1人っス」
「・・・・・」 「……」
「最近、魔王様復活してねー。
復活時は昔からの慣例で勅命がくるんスよ。
人族を間引きしろとか、街や村を破壊しろとか。
けどねー自分や自分ら世代、苦手なんっスよ、昔から争いや血を見るのがねー」
「・・・・・」 「……」
「魔王様も自分の手は汚したくないからって、オレら10柱に命令するだけ命令して何もしないんスよ。それどころか女はべらかして酒池肉林なんっスよ。あり得なくない?」
同意を求めるルシー。
「そ、そうじゃの」
「ブラックだな」
「でしょでしょ!もうね、自分根は平和主義、敵愾心なんてないっス。過去の勇者と闘った時もデキレなんっスよ」
「ん?…出来レース?」
「世間では壮絶な戦いの末、自分負けたことになってるっスが、裏ではちょっと闘って、話し合いして和解してたっス」
「・・・・・」 「……」
「それでまた70年ぶりに魔王様復活でしょ。また今代の勇者がチキュウから召喚されて来るんでしょ?
いい人ならいいっスけど、正直、自分は会いたくないっスよ」
「・・・・・」 「……」
「自分、平和で穏便に人生を過ごしたいっス。
せっかく意中の獣人と結婚して子供も生まれて、これから我が子の成長過程を見守るって時に、魔王様復活? 転移人降臨? 下っ端は扱き使われてやってられないっスよ!」
「獣人と結婚?」
「お、おい、そこに喰いつくんか」
「4年前に結婚したんっスよ。これがデキ婚でねー。
お義父さん厳しい人で悪魔には娘は渡さんって。
挨拶に言った時、滅茶苦茶ボコられたっス。
羽根も毟られ一時飛べなくて、あれは辛くてヘコんだなー」
「豪傑な、てて親じゃの」
「けど生まれてくる子供の為にと、理解あるお義母さんが暴れるお義父さんを半殺しにして説き伏せてくれたっス」
「何者なんじゃ、そのお義母さまは?」
「離婚の危機にまで発展したんスが、お義父さんはお義母さんに土下座で平謝り。
お義父さんからも何とか許しを得て、
それから娘も産まれ今は家族揃ってもう幸せの絶頂っス^^」
ルシーの満面の笑み。
「よ、よかったの」
「おめでとう」
「自慢の美獣の奥さん世界一っス。子供も可愛くて可愛くて、姿絵見る?見る?」
「見よう」
ルシーは羽の隙間からアルバムを取り出す。
「これっス」
5歳児くらいの女の子は、人型で犬ケモ耳が頭から生えている。
「どうよどうよ! もう天使の子と言っても通用しないっスか?」
「人狼? めんごい童女じゃ。じゃが天使の子じゃなく悪魔の子じゃぞい」
「美形で利発そうな子だ。将来美人さん確定だな」
「でしょでしょ!」
「尻尾はあるのか?」
「あるっスよ」
ページを捲る。
お尻に小さい尻尾。
「!」
「どうっスか?」
「・・・・・」
「ゴトーよ、これ以上ないくらい目が見開いてるぞい。どんだけ尻尾に固執しとるんじゃい…」
次々と姿絵を見せるルシ―。
子供の母親らしき獣人、犬ケモ耳の美しい女性。
「奥方も美人だ。この右耳の一部黒い斑模様がチャームポイントとみた」
「分かるっスか! 旦那、通っスねー!」
姿絵のページを捲り、人間と比べ3倍の大きさのフサフサした狼獣。
「お、おい! このフォルムはまさかじゃが、こっちが人化。
こっちは獣で、奥さんは……「フェンリル」なんか?」
「そうっスよ」
「獣人じゃなく聖獣じゃろ? 悪魔と聖獣が番になったんか?」
「アタックしまくったっス」
「いやいや! 聖獣と? えーー?」
「大昔から、けっこう別種族同士で交配はあったらしいっスよ」
「そ、そうなんか?」
「デビルのデビさんも、「フェニックス」の「フシミ」さんと、いまいい関係っス」
「不死鳥じゃと!? 絶滅種じゃろ」
「別の大陸で生き残ってるらしいっス。元々そこが出身地らしいっス」
「別大陸? ソントレー国とかか?」
「違うっス。ここの大陸の人種は半分しか大陸知らないっスよねー。
別半球ではここ以上に大きく栄えてる大きい国「ネバーランド」があるっスよ」
「別半球、ネバーランド…」
「自分も昔、婚活しようと海を越え「ネバーランド」の大陸に挑戦しに行ったっス」
「海を渡る? 海魔の魔物がうじゃうじゃおるじゃろ?」
「一応自分はそこそこのLVで、上空高く飛行できるアドバンテージがあるっスけど甘くはなかったっス。
大陸を発見したところで「魔界王軍団」とエンカウントして、とてもじゃないけど勝てる気しなくて、上空侵犯したことを平謝り、何とか許してもらって、大陸も婚活も諦めて帰ってきたっス」
「別半球の存在は国の古い文献に載っておるが、実在の証拠がなく幻とされておる。これがホントなら衝撃的な事実なのじゃ。
それと、魔界王軍団とは何なのじゃ?」
「「魔界王」が指揮する魔界王軍団の集団っス」
「魔界王……」
「魔の神に位置する、神に近しき力を持つ者。
神龍と敵対する存在っス。魔神王とも呼ばれてるっス」
「神龍って、現神の「ゲンダラフ」神か?」
「そうっスよ」
「神と敵対する悪魔、じゃと?」
「そうっス」
「魔の神……。「魔界王」と、主らの「魔王」とは関係性とかはあるんか?」
「ないっスないっス。魔界王と比べれば魔王様なんて小物、雑魚キャラ同然スね」
「魔王が、小物同然?」
「小物って言ったら小物に失礼っスね。塵芥っス」
「魔王が、塵……」
「そんな話より聞きたいことがある」
「そ、そんな話より!? ゴ、ゴトーよ!」
「何だ」
「いま、ルシファーのルシーさんから魔界王の存在や、このテラウスの幻の大陸、歴史的にも文化的にも、」
「別大陸の事や魔界王の有無など俺の行動の範疇ではない。
ここで俺が行動する目的は別の事。そこは履き違えないでほしい」
「いや、確かにゴトーの目処とはかけ離れておるんじゃが」
「俺の知りたい情報は、魔族のルシーさんが握っているということだ」
「そ、そうじゃの。おあつらえ向きな人、いや悪魔じゃしな。魔王を疎ましく思うとるし案外ええ情報を流してくれるかもしれんな」
ルシーはリュウノスケとチャプチャプして遊んでいる。
『ピュウウウイ♪』
「立派な龍っすねー」
『ピイイィ♬』
<ガクガクブルブル> ←スイスイ
「ルシーさん、ひとつ聞きたいことがある」
「なんスっか?」
「フェンリルの奥さんの尻尾はモフモフ フサフサなのか?」
「モフモフ フサフサっス」
「おーーい! 何の質問じゃーい!!!」
<ガクン> <ブクブクブク――ーー・・・……
「あー、鬼っ子さんが、のぼせたっス!」
――
46 魔族ルシファー 終わり
47 尻尾があるなら 俺も胸派から尻派に転向だ
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