第44話 喋る従魔
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ゴトーの従魔
「ケルロー」 魔獣ケルベロス (魔犬 三つ首)
「トラキチ」 魔獣ブラック・ヘル・タイガー (魔虎 縞模様が暗黒色)
「スイスイ」 魔物スライム
紅龍の仔
「リュウノスケ」 龍族
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木々が茂る林道。
トラキチに乗るゴトーは、スライムのスイスイを頭に乗せ、
ケルローに乗るシーナは、仔龍リュウノスケを抱いている。
雫型に変形したスライムのスイスイがピョンとゴトーの膝に乗って喋りだす。
『ごちゅじん』
「どうした?」
『おなかちゅいたー』
ゴトーは空間収納からスライムに魔物の肉を取り出し与える。
「喰え」
スイスイは大きな肉の塊を一気に包み込む。
<グニョ グニョ>
スライムの体積が膨れ2倍になる。
『おいちい』
「そうか」
スライムの体積がヒュンと元に戻る。
ピョンピョンと跳ねるスイスイ。
『ごちゅじん、ちゅきー』
「そうか」
横からその様子を眺めるシーナ。
「の、のう、ゴトーよ」
「何だ」
「なして、スライムが喋ってるのじゃ?」
「使役するとこんなものではないのか?」
「普通魔物は喋らんわ」
「魔物は喋らないか。いままで人族が魔物を使役するという事はなかったんだな」
「使役は獣までじゃ。ワッチが知る限りではな」
「使役できるということは対象の魔物に対して、主人から一部の能力の引継ぎや何らかの感化や共鳴を得るのでは?」
「テイマーは獣とけっこう仲がええが、うーん……、なんとなく理に適っとうかもしれんの。
じゃあゴトーがチキュウで飼っとるペットは人語を解し、喋るんか?」
「人間以外、言葉を解したりはしない」
「普通できんよな」
「ここは異世界だからな。事ある事象は異世界あるある、ご都合主義と片付けていいだろう」
「また、ご都合主義言い切ったわ……」
「言ってなかったが、魔獣のトラキチもケルローも普通に言語を理解、話せる」
「……は?」
「トラキチ」
『はい、ご主人!』
「うおっ!」
「ケルロー」
『はい!』 『ヘイ!』 『オス!』
フリーズするシーナ。
「魔獣との意思疎通は使役した時点で念話が可能だった」
「えー……」
トラキチが主人のゴトーに聞く。
『ご主人のパートナー、何とお呼びすればいいでしょうか?』
「何と呼ばれたい?」
「は? え? 魔獣が? え……?」
混乱するシーナ。
「そうだな「シーナ様」でいいだろう」
「は!? なして様付けなんじゃい」
「ここは親しみを込めて綽名という手もあるな。
シーナだから、「シナちゃん」「シナ坊」「シナモンロール」、
ここは思い切って「シナモン」でどうだ?」
「しな、もん……」
「ナイスネーミングと思うが」
「意味分らんし、なんかイヤなのじゃ」
「では、「しーぴょん」だな」
「……しー、ぴょん?」
「しーぴょんと呼べ」
ト『かしこまりました。しーぴょんさん、今後ともよろしくお願いいたします!』
ケ『『『ちーぴょん!よろしく!』』』
ス『ちーぽん、よろちゅくー♪』
「……なんか最後がコンプライアンス的に引っかかるで、シーナと呼び捨てでええわ」
★★
夕方。
山の麓の渓流。
辺りは所々に岩肌が目立つ。
「一体どこに向かっておるんじゃ。本道からけっこう離れておるぞ」
「マップ」ギフトを確認するゴトー。
「この先、もう少しだ」
「なんなんじゃ、ええ場所て?」
「異世界での定番、サービス回にあたる場所だ」
「サービスってなんじゃい、こんな岩場ばかりじゃ喰いモンも果物も期待できんぞ」
ゴトーとシーナは上流に向け坂道を歩く。
<ビヨーン ビヨーン>
スイスイは地面をピョンピョン飛び跳ねて2人の後をついてくる。
――なんじゃろ? スライムの動きじゃないんじゃが。まさか進化や何らかのスキルを収得しとる言わんじゃろうな?
「スイスイ、魔獣が来るぞ」
『まかせて、あるじ!』
目の前に大型犬クラスの目つきの悪い「シン・レッド・ラビット」が現れる。
スイスイは溶解液を目に浴びさせると、足掻き悶絶しているラビットに覆い被さり捕食、スライムの体中でもがき続け窒息死させる。
飲み込んだことにより肥大化するスイスイ。
「………」
しばらくすると身体は縮み元の大きさに戻る。
――飲み込んだもん、どこいくんじゃ!?
ピョンと飛びあがり、フワフワと浮遊してゴトーの頭に乗る。
『あるじー、ボク、すごい?』
「ああ。凄いぞ」
ひと撫でするゴトー。
スイスイはシーナを見る。
『どうだシーナ、すごいだろ?』 <ドヤッ>
「お、おう……」
――このスライム、ワッチに対して見下しているような感じが……。
最弱スライムが浮遊して魔獣を液で攻撃? 飲み込んだ中身はどこに行くんじゃ?
ゴトーの「空間収納」みたいに異空間に行くんか?
それにスライムはこんなアグレッシブじゃなかろうが。もっとこう、ナマケモーノみたい動かん愚鈍な生き物じゃろ……。
まあ規格外のゴトーの従魔じゃ、深く考えても無駄なんじゃろうな。
「ひとつ聞きたいことがある」
「なんじゃ」
「名前だが、テオタビ支店の店主はマサオという名だった。シューティングスターの猫族のチーコも正確にはチエコ。これは俺の国の名前と酷似している」
「名前いうたら、転移人から名を授けてもらう話があるぞ。モモタローのタローいう名前もこの大陸で何人かおるのう。
過去の転移人は帝国だけじゃなく、この「レイブル」王国にも来て活躍しとるし、数百年の間、大陸全体に徐々にチキュウの名が広まっておるんじゃろうな」
「この世界で地球の名を名付けされ広まっているのが現状か。
「松かさより年かさ」「亀の甲より年の劫」、諺も転移人の言が広がっているということか」
「ことわざはこの国特有思うとったが違うんか。けっこうチキュウの思想や文化が波及しとるんじゃのう」
「食文化や産業、農業だけでなく、賭博や遊戯、風習や人名までが浸透しているということだな」
「そう考えると不思議というか面白いのう。世代の違うゴトーもいろいろ普及してくれるいうんじゃな。まだ見ぬプリン、ケーキ、パッフェ、マヨネーズ。まだまだワッチを驚かしてくれるんか?」
「俺に出来る範囲ならな」
「これは楽しみじゃの、ん? この匂いは?」
硫黄の匂いが充満。
「温泉場だ」
「おんせん?」
「自然にできた湯治だ」
「あー、クッマやサッルが浸かう野湯かい。マップでそれを探していたんか?」
「そうだ」
緑の林から、岩肌が目立つ岩盤地帯。
上流から湯気が立ちこめている。
湯気を頼りに歩いていくと、岩をくり抜いたような長方形のプール状に白濁した温泉。
「「硫黄泉。硫黄濃度144.5mg、温度41度」。泉質良好。異常はないようだな」
「乳のように白いのう。こんなん入れるんか?」
「この世界に温泉の文化はないのか?」
「貴族の保養地や療養地にはあるの。ワッチは「浄化」スキルがあるで、わざわざ湯で洗う必要もあらん。たまに公衆浴場に入るが垢スリや、香油マッサージが目当てなのじゃ。
チキュウでの平民は好んで野湯に入るんか?」
「温泉地は数多い。旅行してご当地名物を食し、宿に宿泊、温泉に入り、浴衣で卓球をするのがデフォだ」
「野湯ごときに金が掛かりそうじゃの。この国で漫遊する平民は皆無じゃぞ」
「小旅行は個人から、家族単位でする。
各地の観光、夢の国、とくに温泉は気軽で一泊しないまでも日帰り旅行というのも手だ」
「ほえー、温泉は人気なんじゃな」
「個人的には、効能目的で赴く」
「こうのう?」
「温泉は血液中の老廃物や二酸化炭素を運ぶ機能を活性化させる。新陳代謝がよくなり、体内の不要物質の排泄を促してくれる」
「いつものごとく、言うとることがよく分からんのじゃ」
「分かりやすい効能は、美容、美肌に効果絶大だ」
「なんと! それは聞き捨てならんのう」
ゴトーは手を湯に入れる。
「適温だな。サービス回の異世界温泉回。レディがいないのが残念だが」
「は? ここにおるじゃろうが!」
「俺はここで裸になり温泉に浸かる。裸を直視したくなければしばらくここから離れててくれ」
「………」
「全裸になるがいいのか?」
「……別にもう見慣れておるわ」
「そうか」
ゴトーは衣服を脱ぎ、傍に転がっている木の桶を手に掛け湯、リュウノスケとスイスイと共に温泉に浸かる。
「う゛ぅーー」
「ビィィーー」
「ミ゛ィィーー」
「シーナも入れ。入る時は掛け湯で身体を洗ってからだ」
――コヤツは完全に父親目線の、ワッチを娘くらいの認識じゃの……。
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44 喋る従魔 終わり
45 温泉に入ろう
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