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第38話 子供たち


「金貨48枚と銀貨7枚。

端数は足して金貨50枚(500万円)を出そう」


「サービスがええのう。ゴトーよ、それでええか?」


「ああ。お前が納得なら問題ない」


「決まりだな!」


金貨を用意する店主。


「店主よ、転移人や勇者、帝国の情報は届いておらんか?」


「転移人の情報はないな。

帝国からの情報は王国の端っこ、どうしても時間が掛かるからな。

情勢は不安定だが、飾りの似非勇者は昔から活動し途絶えてないはずだ」


「この国では? 勇者制度はしばらく廃止しとるが」


「魔王復活で上級貴族、教団からの圧力があり、王国勇者パーティが選定されるらしい」


「国王派からは?」


「教団側主体らしい」


「……そうか。で、人選は誰じゃ?」


店主は口ごもる。


「言いよどむくらいなんか?」


「言いにくいな」


「別に気を使わんでええ。勇者気取りのセンライじゃろ? 成り上がっても目立ちがりやは変わらん」


「センライではない」


「じゃあ誰かの? 教団からはクソ似非聖女じゃろ。教団魔術師のクラバン。他には、教祖の息子はまだ幼子か……」


「すまんが金が足りない、用意してくる。今日は店じまい、この酒を飲んでて待っててくれ。オレの奢りだ」


酒入りの壺と木のコップを置く。


「おー、気が利くのう」


店主は店の奥へと消え、シーナは酒の匂いを嗅ぐ。


「ええ酒じゃな。酒場の安酒より上質のもんじゃ。さあ呑むぞい、ゴトー」


ゴトーとシーナはテーブルの椅子に腰かける。

酒を注ぎ、氷魔法で冷やし口へ運ぶ。


「プハッーー! 五臓六腑に沁みるのぅー!この為に生きてるのじゃー!」


酒に舌鼓みを打つ。


「幼体に酒はまずくはないのか?」


「こんなん子供の頃から呑んどるのじゃ」


ゴトーも一口呑む。


「麦酒、エールというやつか」


「どうじゃ? チキュウの酒と比べて?」


「悪くはないな」


「そうじゃろそうじゃろ」


ニコニコして飲み干し、おかわりを注ぐシーナ。


「さっき話していた、センライ。元勇者パーティの勇者か?」


「そうじゃ。元亭主でもある」


「・・・・・」


「なに固まっておるんじゃい」


「人妻だったのか?」


「今はこの成りの幼子じゃが、姿絵で立派なレディを見たじゃろがい。

こんなんで驚かせるとはな。瞼が1ミリほどピクッとしたぞい」


「この世界に訪れて一番驚愕した出来事だ」


「そこはエンペラーや紅龍に驚けや」


「ちょっと待て」


「なんじゃ?」


「王国勇者パーティは、「勇者センライ」「魔術師シーナ」「魔術師キリーヤ」「聖女カレア」「騎士団のグラーツだな」


「正確にはランクが下の奴がもう数人ほどおるが、なしてそんなに詳しいんじゃ? あー、シュバルツらから聞いたんかい。

実際はセンライもカレアもほとんど参加しておらんかった。クソ聖女のカレアはワッチを嫌っておったし、センライは元来怠け者での」


「当時、王国勇者パーティが結成され、

3日目に教団の大聖堂でキリーヤから告白。

キリーヤの失恋。

2年後のパーティ解散前の酒場で暗殺の冤罪。呪いで幼体化。

牢獄。

キリーヤは隠蔽の箱で黒竜の卵を入手。

王城で卵を孵化。

キリーヤとグラーツと共闘して王城での黒竜退去、

そして、」


「待て待てい!! なしてそんなに詳しいんじゃ!?」


「悪いとは思ったが、キリーヤの過去を覗いた」


「……は?」


「物語に感情移入する為には、そこは避けては通れない要素だ」


「……訳分からんわ。それは過去を「干渉」するギフトかなんかか?」


「そうだ」


「干渉て、闇系の魔法じゃぞ……。

ホントはゴトーは、人の身を被った悪魔の化身じゃないんか?」


「普通の人間だ」


「ホントになんでもありじゃの……」


「問題は、そのセンライという男といつ関係を持ったかだ。黒竜を倒した後なら、感動を返せとクレームを入れるが」


「女児のまま子が産まれるかい! 

勇者パーティの前に決まっておろうが、その4年くらい前じゃわ」


「・・・待て! 子とは?」


「息子と娘がおる」


「・・・・・」


「瞼が3ミリほど動いたぞい」


「子持ちだったのか?」


「別に珍しくはなかろうが。センライとは部族は違うが一応ヴァンパイア族じゃしな」


「同種で長命か」


「そうじゃ」


「パーティを組んだ時は結婚していたということか?」


「パーティ前に離婚じゃ。結成時は、ちょい気まずかったがの」


「なるほど、別れた後か・・・。それならギリ納得しないでもないな」


「なして上から目線なんじゃ?」


「それで、どうしてセンライと恋に落ちたんだ? 人目惚れなのか? どちらかが、」


「なして男のお主と恋バナ語らんといかんのじゃ!」


「ダメか?」


「ダメじゃ」


「では、別れた理由は? 浮気でもされたのか?」


「……」 「・・・・・」


「いや、まあ、浮気はワッチがしたんじゃが……」 


「頼むから俺の感動を返してくれ」


「なんでじゃい! あるじゃろ、こう流れというか、雰囲気とか、身を任せてしまうとか」


「・・・・・」


「勇者パーティの前の話で、キリーヤと知り合う前じゃわ。

ゴトーが思うほど純粋で初心うぶ女子おなごではない。なんじゃい、男関係が多けりゃ軽蔑でもするんかい!」


「人の生き方や倫理観を非難するほど俺は立派な人間ではない」


「じゃろう? 色々あるんじゃ、ワッチにも」


「バツ1か・・・」


「いや、バツ4。いや5じゃったかな?」


「・・・・・」


「なして黙る? チキュウでは多い方なんか?」


「いないこともないが、平均すると多い部類だな」


「亜人は長く生きるでのう。それでも複数持ち程ほど精力も、男にがめつくもないわ」


「地球とこの世界の倫理観は違うということか。価値観の認識を改めよう」


「チキュウとは価値観がそんなに違うんか?」


「地球では一夫多妻の文化は稀だ。離婚歴も5回もあれば驚かれる方だろう」


「ほう、文化は進んでるように思えるんじゃがの」


「子供らとは一緒に暮らしてはいないのか?」


「親権はセンライじゃしな。黒竜退治後に自由になったが、ワッチと一緒なら子もいつ教会側や反体制派に狙われるか分からんかったしの」


「もうひとつ。暗殺されたアレキサンドラ国王の息子、アレキシード君が好意を抱いているが、その後の進展はどうなんだ?」


「だから、なしてそこまで分かるんじゃい!」


「牢獄で幼女になった姿に、アレキ君がときめき、頬を染めていた姿を俺は見逃さなかった」


「そこまで見られてるんか?! コワイわ! 個人情報ダダ漏れどころか、感情まで分かるんかい!

アレキ坊に勝手に好かれ、色恋沙汰の進展もなんもないわ!」


「・・・そうか。アレキ君の横恋慕か。美少年だったが少しは惹かれてるとか、権威や財力に、」


「ないわっ! ゴトーは恋バナ大好き過ぎじゃろ! 人の恋路よりお主はどうなんじゃ?」


「俺にも息子と娘がいる」


「ほう、ゴトーも結婚してるんか?」


「仕事で重傷を負って、看病してくれた敵の二重スパイの女と関係を持った」


「お、ええストーリー持っとるじゃないか。子供は元気に過ごしてるんか?」


「赤子の頃は内縁の夫として過ごしていたが、子供が物心つく前に身を引き、毎月養育費を渡している」


「会ってはおらんいうことかい?」


「暗殺の仕事は家族を危険に晒すことになるからな。その辺は一緒ということか」


「……似た物同士じゃな。ワッチらが気が合うんは、こういうのが関係しとるんかのう?」


「そうかもしれないな」


「しかし養育費を払っとるんはえらいわ。ここではそんなん貴族の妾以外は聞たことはないぞい。娘息子はなんぼになるんじゃ?」


「高校生、この世界の基準でいえば、成人前か」


――

 (注) 

この世界は15歳が成人

――


「なるほどのう」



店主が戻り、金をテーブルに置く。


「悪いのう」


「いや、大歓迎、儲けさせてもらった」


「それで、さっきの話しじゃが、メンバーは誰なんじゃ?」


「………」


「ワッチの知っとる奴か?」


シーナと店主の目が合う。店主は目を反らす。


気まずそうな店主。


「誰なんじゃい、金貨に値する情報なんか?」


「金はいらねえ……」


「はっきり………お、おい、まさかワッチの……」


「そのまさかだ」


「……ど、どっちがじゃ?」


「息子娘両方だ」


唖然とするシーナ。


「そうか……。ソーマとソーネが……」


シーナは残り半分になったコップの酒を一気に飲み、


「選ばれたんか。アレキ坊め、余計なことを」


「おい、知らないのか?」


「……何がじゃ?」


「教団も様変わりして国民に人気のある亜人ヴァンパイアを取り入れている。

1年程前にセンライ親子は国王派から鞍替えして、今は真龍神教の教団の一派なんだが」


絶句するシーナ。


――

   (補足)

4年前、当時王国騎士団1000人隊長だった元勇者センライ。

息子ソーマ16歳。娘ソーネ15歳時、王国騎士団に入隊。

兄妹は2年もしないうちに頭角を現し、貧困層、民衆、貴族からも熱烈な支持を得る。

――


――

38 子供たち 終わり

39 相棒

――

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