第37話 冒険者の街 テオタビ
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再開 週1投稿
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ーレイブル大陸横断編ー
夕方。
大きな街を囲う3メートルの高さの塀に、その周りに深い掘り。
人口20万人の冒険者の街 「テオタビ」。
シーナは「擬態」魔法で髪を黒髪に染め、眼の色をブラウン。
外套のフードを深く被る幼女の姿。
門前の詰め所の衛兵に冒険者カードを提示する。
3日間の護衛の依頼料金貨2枚、銀貨10枚 (合計30万円)をシーナから受け取り、ゴトーは銀貨1枚 (1万円)の街の入税料を支払う。
大きな門を潜ると、街の中は中世ヨーロッパ風。
2階3階建ての石造りの建物が所狭しと並ぶ。
大通りでは食料を積んだ馬車、ロバの荷貨車などが行き交う。
広い通りには露店市場が連なり、麦類などの穀物類、野菜果物などの青果店が密集している。
噴水の広場には屋台が並びパンや肉の焼ける匂いが立ちこめ、冒険者や平民が屋台や店のテラスに集い騒がしく飲食をしている。
ゴトーは辺りを見回す。
――この世界の文化圏に突入。理想的な異世界な街並みだな。
行き交う人々を注視。
――西洋系の顔立ちが多く、獣人の確認はなし、か・・・。
幼女の話では獣人の割合は、
半獣人(見た目人族 ケモ耳尻尾なし)は人族50人に対して1人とのこと。
獣人(見た目人族 ケモ耳尻尾有り)は1万人に1人の割合。
どこの街にでも亜人同士、獣人同士のコミュニティがあるとのこと。
「ここは冒険者が集まる中規模な街「テオタビ」じゃ。
ここから南がいま来たカスピス秘境。
東はトックル平原。西はモミー大迷宮となっておる。
低級冒険者はここを拠点に平原で狩り、薬草の採集をして日銭を稼ぎ、
中級の冒険者は中期に渡り、迷宮での魔物討伐。
カスピス秘境は長期コースの上級者専用じゃな。
秘境以外は一攫千金とはいかんが実力次第では街民より安定した稼ぎを得られるの」
――迷宮か・・・。
「迷宮の存在は、異世界イベントには必須。心躍るものがあるな」
「イベント?」
「避けては通れない、異世界生活お約束事項だ」
「相変わらゴトーの思考は理解できんわ。冒険者に憧れるんは童子くらいじゃぞ。探索は金や生活のためなのじゃ」
「迷宮探索は冒険者の夢。俺のことは探求心の塊と呼んでくれてもかまわない」
「そういう奴もおるの。逝き過ぎて狂戦士とかの……」
「迷宮は地下へと続く階層なのか?」
「10層まであるの。降るほど強さに比例する魔獣魔物が蔓延る。最下層はAランク以上の実力が推奨されておる」
「ラスボスはどんなモンスターだ?」
「ボスクラスの魔物は迷宮におらんぞ」
「いないのか?」
「ここの迷宮には、ゴブリン・ソルジャー。マーダー・ゴブリン。ダークー・コボルトくらいで、最強でも各ジェネラル・クラス。稀にキングが出るの」
「「○ラクエ」や「○ァイファン」では中ボスを倒さないと先には進めない構造だ。最下層でその迷宮のラスボスが現れる」
「「どらくえ」や「ふぁいふぁん」が何かは知らんが、大ボスが居るんは生まれたての迷宮で、そんなんとっくに倒されとるわ。そんなん居るとしても未踏破の迷宮くらいじゃぞい」
「そうか・・・。聞くが、宝箱からのドロップはあるのか?」
「何の話じゃ?」
「各階に設置、隠し部屋の宝箱。稀にミミックが襲い掛かるモノがある」
「なして宝箱が迷宮にある思うんじゃ?」
「剣や魔法の異世界ファンタジーだからだ」
「チキュウでは宝箱があるんか?」
「そのような事例はない。そもそも地球には迷宮は存在しなからな」
「また娯楽本の類か。その基準はやめい、訳分からんくなるわ」
「宝箱は、ないか・・・・・」
「別に迷宮や宝箱に拘らんでも、秘境でなんぼでも強い魔物を倒せるじゃろが」
「宝箱にはロマンが溢れている」
「そんなん城か大貴族の屋敷にしかないわ」
「・・・想像とは違うようだ。迷宮の優先順位を引き下げるか」
「探求心どこ行ったん?」
冒険者ギルド前。
3階建ての大きな建物。
「ここが冒険者ギルドじゃ。この街ではスルーじゃな」
「元のパーティが全滅したのなら、報告しないといけないのでは?」
「ワッチらはホトライト領地のギルドじゃからな。報告の義務はそっちに帰ってからになるの」
ギルドから酔っ払いの冒険者が数人出てくる。
「ギルドの中は酒場と併合か」
「酒を呑みたいんか?」
「ガラの悪い輩がたむろしている感じか?」
「じき夜になる。狩猟や依頼も終わり、この時間なら荒くれ者はおるじゃろうな」
「別にギルドに加盟してなくとも入ることは可能だな?」
「入れるが、なにを考えておる?」
「輩から絡まれるまでがお約束だ。叶うことなら連れに対して、
「おいおい、可愛いネーちゃんじゃねーか。こっち来て酌しな」
と絡まれ、救出後、周りの冒険者称賛を浴びるのが理想的だ」
「なして絡まれたいんじゃ? Mなんか?」
「この初イベントを熟さないと、異世界的、個人的にと消化不良となる」
「……行事って意味分からんわ。転移人として目立つ事はせんとか、慎重にこの世界を行動するとか、かっこよさげなことを言うとったじゃろ?」
「・・・・・」
「シューティング・スターと会ってからタガが外れておるぞ。世間はあんなええ連中ばかりじゃないぞい」
「そうだな。少し浮かれていたようだ」
「頼むから悪目立ちや問題は起こさんでくれ」
「留意しよう」
「どれ、路銀の確保じゃな。店の様子を見て上級物を売る売らんは決めさせてもらうぞい。キングやエンペラーなどの上級素材は下手に出すと貴族や憲兵に目を付けられそうじゃからな」
「予定通り、売買は一任する」
★★
エットー商会。テオタビ支店。
看板には月と狼のエンブレム。
「ほう、テオタビにも支店が出来たんか」
「馴染みの店か?」
「ここは大手じゃないが信用度が高い。と言っても支店じゃからな、中の店主次第で当たり外れはあるがの」
2人は中に入る。
店内には毛皮が飾られ、武器や防具類。農具用品が並んでいる。棚には壺や、青や赤い液体のガラス瓶。雑多な商品を扱っている印象。
壁に立てかけている刀。
「あれは刀か」
「刀言うたら知る人は知る転移人の武器じゃ」
傍には手裏剣、まきびし、煙玉が棚に置かれている。
「歴代転移人に「影の軍団」いう転移人のパーティがおった。不思議な幻術や、ゴトーが分身したような技を使っておったらしい」
「シューティング・スターが、服部半蔵とか言ってたな」
シーナはカウンター内の男に、
「買い取りを頼む」
不愛想な強面の店主が無言で頷く。
ゴトーはあらかじめ大袋に入れた獣や魔獣の毛皮。
魔石、角、牙をカウンターへと並べる。
「……中物。……大物のクレイジーベアーか。剝しも切断も丁寧だな」
「腕のええ男と知りあってな。良い値で頼む」
冒険者カードを男に提示。
シーナをちらりと確認し、査定を始める。
シーナは小さい声で、
「アヤツはクッマの半獣人じゃぞ」
「!」
――[鑑定]
◇
【【ステータス・ボード】】
【名前】マサオ
【性別】男
【年齢】37
【種族】熊人族(半獣人)
【ジョブ】商人
【LV】42
【HP】420/420
【MP】40/40
【攻撃力】390
【防御力】418
【魔力】60
【魔法属性】
『無』LV2
【スキル】 34
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【特殊スキル】 2
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【履歴】
ユリイカ商会 丁稚
→ 冒険者
→ エットー商会 キレンモレン支店 見習い
→ キレンモレン副支店長
→ テオタビ支店長。
【称号】
なし
【状態】
正常
◇
素材を真剣に査定する熊半獣人。
――ここは流れ的に、ケモ耳尻尾だったんだがな・・・。
「買い取りは金貨9枚(90万円)。これ以上は出せん」
「適正価格より上乗せなんか?」
「上客は逃がさないつもりだ」
「それで頼むわ」
店主は金貨9枚をシーナに渡し、見習いの少年に、
「奥に持っていけ」 「はい!」
少年は素材を奥に運んでいく。
シーナはカウンターに銀貨を数枚並べ、
「情報が欲しい。魔物、魔族の情報じゃ」
「最新の情報は届いてないな」
「最新?」
「アンタら知らんのか?」
「秘境から戻ったばかりだ」
「金は受け取れんな。そこら辺の冒険者、子供にも広がっている話だ」
「正直だな。一見の客、知らぬふりして情報量を絞り取らないんか?」
「アンタは国の有名人だ。そういう客に欲は出さん。そのうち大きな見返りや得な情報を流してくれるかもしれないからな」
「……ワッチの事を知ってるんか?」
「擬態していてもこの業界ではバレバレだ。それにオレが若い頃、キレンモレンの支店で、アンタと赤竜の鱗を買い取りしたぞ」
「……キレンモレン、40年以上前、か。接客に若い熊獣人らがおったの」
「商会長とは知り合いのようだったが」
「エットー商会長とは知古じゃ」
シーナは銀貨1枚を残し、
「古い情報でええから聞かせてくれ」
「5日程前にギルドから、王国各地で魔物魔族が暴れ回ってると警告が発令された。ゴブリン・ロードやキング。コボルトの上位種も確認されているらしい」
「場所は?」
「アカリズエット、ペッパードック、他にも数か所。これからもっと増えるだろう」
「大陸中に魔物の上位種が暴れ繁殖か。魔王復活の兆しじゃろか?」
「討伐から70年。魔物の活発化。いつ魔王が復活してもおかしくはないだろうな」
「じゃあ、この国全体が危いいうことかい」
「帝国含むこの大陸だな。しばらくはどの領地も素材や薬草など供給が途絶えるかもしれん。持ってきてもらった物はたいした有り難い。これから売りも値も張るだろうからな」
「ワッチの事も知っておるなら、もう一段上のモノも出すがええか」
「モノは何だ?」
「キングとエンペラー」
「……さすがドラゴン・スレイヤーだな。そっちの男も只者ではないだろうし」
キング、エンペラーの素材。上級魔獣。各魔石をテーブルに乗せる。
上級素材に興奮する店主。
「これだけで、うちの金庫の金が空っぽになるぞ……」
「あと、偶然見つけた紅龍の鱗」
紅色に輝く鱗2枚をカウンターに置く。
「……ぜひ受けたいが、その金を用意するには数日掛かりそうだ。鱗は他の支店で頼めるか?」
「分かった。鱗以外を頼むわ」
「紹介状を書が、いいか?」
「紙1枚で、5パー儲かったのう」
「金さえ用意できればオレの懐に10%だったんだがな。金が入るまでしばらく滞在しないか?」
「明日にでも発つ予定じゃ」
「王都にか」
「ホトライトのダイザ―に帰る。王都はどうじゃろ? 行くかは分からんな」
「そうか……」
「?」
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37 冒険者の街 テオタビ 終わり
38 子供たち
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