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歩美ちゃんは勝ちたい  作者: 秋谷イル
中学生編

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魔女vs猫

 遡ること半年前、梅雨入りして雨ばかり続いていた頃──私こと夏ノ日 美樹は同僚に買い出しを頼まれ、近所のコンビニを目指していた。すぐ近くなので車を使わず、徒歩で傘をさしての移動。

 そしたら珍しいものを見つけた。


 拾って下さい。そう書かれた段ボール箱。覗き込むと水が溜まっていて、生まれてからさほど時間の経ってなさそうな仔猫が数匹、溺死していた。

 しかし、よく見ると一匹だけまだ息があったので、同僚に詫びの電話を入れ、動物病院まで連れて行った。たらふく水を飲んでいたが道中で背中を押し、多少なりとも吐かせておいたのが良かったらしい。お医者さんに助かると言われた。


「そうですか、それは良かった。すいません、やらなきゃいけないことができたので一旦失礼します。また後で来ますね。何かあったらこの番号にご連絡ください」

 獣医さんにメモを渡した後、段ボール箱のところへ戻りつつ警察に連絡。

 駆けつけてくれたのは数人の警官と顔見知りの刑事さん。前に職場で展示品の盗難事件が起きて、その時に知り合ったの。


「夏ノ日さん、わかってると思いますが」

「ええ、証拠品に手はつけないわよ」


 前の事件の時、怒り心頭の私は勝手に捜査を行い、この人を大いに困らせた。最終的に感謝状を貰ったけどね。当然でしょ? 犯人を見つけ出したんだもの。

 約束通り、直接手を触れず段ボール箱と仔猫達の亡骸をじっと見つめる。捨てた人間は寒くないようにと、せめてもの情けのつもりで行ったのだろう。銀色の防災シートが中に敷かれてあった。そのせいで中に雨水が溜まったわけだ。

 そして前面、つまりこちら側に向いた面の文字……。

「少なくとも子供の仕業じゃないわね」

「ですな」

 流石は本職の刑事さん。私と同じ結論に達する。

 文字のサイズにバラつきが小さい。達筆とは言えないけど、おそらく大人の書いたもの。なにより文字が定規でも使ったかのように直線的すぎる。

「書き文字のクセから自分を特定されないようにしてる。脅迫文なんかでたまに使われる手口ですな」

「そんな知恵の回る子がいたら嫌だわ。犯人は大人で、滅多に外出しない人物ね」

「何故です?」

「雨のことに気が回ってないから」

 ここにこの仔達を捨てていったのは、拾われる確率が高いと思ったからだ。私の職場の博物館が近くにある事実からわかるように、ここは市街地の中心部に近く普段は人通りの多い場所。

 けれどね、雨が降り続いてるせいで今はその限りでは無いのよ。うちの来館者も最近は休日以外、日に数人程度まで落ち込んでる。それがわかっていないのは、おそらく普段は外出しない人間だから。外へ意識を向けることが少ないんでしょう。

 働かず、それでも生活できて、自分の身許を特定されないよう文字に工夫を凝らす程度の悪知恵が働く。それが目の前の段ボール箱から推察できる犯人像。

 あとは時間ね。

「刑事さん、昨夜から早朝にかけて雨が降っていなかった時間帯の映像を調べて」

「わかりました、後は我々にお任せを。ご協力感謝します」

「ええ」

 犯人は人目につかない時間帯を狙って捨てて行ったはず。それでいて見つけてはもらいやすいように。なら通勤者が通りがかる直前が怪しい。

 そして雨のことに気が回らなかった一時的な晴れ間。そこに狙いを絞って付近のカメラの映像をチェックすれば、多分簡単に見つかるでしょ。

 ……誰もこの仔達を見つけられなかったのは、ちょうどその時間帯に雨が強くなってしまったから。ほとんどの人は車で通過する道だし。

 ともかく、ここからは警察の仕事。犯人を直接ひっぱたいてやりたいけど、まずは生き残った仔をどうにかしないとね。成り行きとはいえ拾った責任ってものがあるわ。




 数日後、ニュースで例の事件が報じられた。

 犯人は隣の市で“猫屋敷”と呼ばれるほど大量の猫を飼育していた老夫婦。仔猫が増えすぎてどうにもならなくなったため、いくつかの箱に分けて車で運び、あちこちに捨てて回ったそうだ。

 捨て猫達が見つかった地点全てで付近の防犯カメラに同じ軽トラが捉えられていたため、あっさり解決に至った。犯人像を分析したりする必要は無かったようだ。刑事さんからは「おかげで絞り込みやすかった」と感謝の電話を頂いたが。


 老夫婦はここ数年ほとんど外出しておらず、ひたすら猫達の世話に明け暮れていた。

 一人息子を交通事故で亡くしたらしい。その息子の可愛がっていた猫を代わりに大切にしていたら子供が産まれ、孫のようだと慈しみ、気が付けば猫屋敷になっていたと。

 手放したくなかったが、あまりに数が増えすぎており、近所の人達にもすでに繰り返し引き取ってもらっていたので断られ──という経緯。


「だから申し訳ないんだけど、あと半年ほどしたら避妊手術を受けてもらうわよ」

 帰宅した私は車から降り、今しがた引き取って来た仔猫を抱き上げ、頭を撫でる。あの時の生き残りだ。わかっているのかいないのか甘えた声でニャ~ンと鳴く。

 人間の勝手で生殖能力を奪うわけだから心苦しくはあるんだけどね、こっちもぽこぽこ子供を産まれると困るわけよ。ただでさえ自分の子が二人もいるんだし。

 人類を繁栄させちゃったのがまずかったわね。大昔、あなた達のご先祖が私達のご先祖より大きくて強かった頃に絶滅させておけば、こうはならなかったんじゃないかしら?

 でも、野生の世界に比べて生存率は高いし、なるべく快適に暮らせるよう配慮はするわ。今日からあなたもうちの家族の一員だもの。そのうち実家にも連れて行ってあげる。顔の怖い人が一人いるけど、気は優しいから心配しなくていいのよ。

「さて、それじゃあ行きましょうか。まずは私の旦那と子供達に紹介するわ」

 猫を飼うことは相談済みだから、今頃ワクワクしながら待ってるだろう。

 それにしても、ますます魔女扱いされそうで心配。この仔、よりにもよって黒猫だもの。使い魔の定番じゃない。


 それからほどなくして、我が家の新しい家族の名前が決まった。

 こしあん。

 夏ノ日 こしあんよ。

 よろしくしてやってね。

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