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魔鎧戦記ゴウザンバー  作者: 藍戸優紀
第三章 地球編
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第85話 帰還

 落ちる、墜ちる、堕ちていく。


 誰の声も届かないままに、真っ赤な鎧の勇者は落ちる。


 魔導の光は灯らない、地獄を作った元凶の一人は、その罪を背負って地獄へ落ちる。


「それでいいのかい?」


 彼は声かけられるが、意識ない肉体が返事をすることはない。


 死力を尽くして戦った、数多の世界を救って見せた。


 疲れた、すごく疲れた。


 だから彼は眠りたい、そこで終わってしまって構わない。


「君を待っている人がいる」


 だがそれは、彼はそう思っているだけの話だ。


「恋だ愛だ友情だは、俺にはわからん、だがどちらにせよ――」


 彼を必要とする人間がいるのだ。




 ネルトゥアーレ大陸で巻き起こった戦乱が終息して数年が経過した。


 戦争を引き起こした諸悪の根源、ビートゥ・ネルトゥアーレがこの世界からいなくなったこともあり、ノヴリス将軍らの判断により、ネルトゥアーレ皇国は降伏した。


 連合軍にとっても、皇国を滅ぼすことが目的ではなかったこともあり、その降伏は認められた。


 ネルトゥアーレ大陸は平和を取り戻し、この世界で活躍する鋼の巨人たちは、造物主が望んだように、人々の幸せのために活躍するようになった。


 結論から言えば、絶対無欠のハッピーエンド、この世界からビートゥを追った英雄も無事帰還したのだから言うまでもなかった。




 ザンバーとマギアウストの造物主、クレアーツィ・プリーマが不在であるという一つの問題を除いて。


 ビートゥと彼を生み出した存在、この二つが再び蘇らないようにするために、自らの命を懸けて立ち向かった。


 結局のところ、彼は自らの命を対価に、邪悪を地獄へと叩き落としたのだ。


 ならばこそ、彼がここにいないことは仕方がないことであった。




 現実を受け入れてから数日後の事であった、終戦記念のパーティからエストは竜希と未来を連れリューションに帰ってきた。


 二人は転生者、いるべき場所がなかったから、自身の騎士団預かりにした。


 アーロはフォストへ、エポンはセンタウルのそれぞれいるべき場所に、自分たちの愛機と共に帰っていった。


 そんな訳で三人はエストの、ファネッリ家の屋敷で長い戦いの疲れを癒していた。


 長らく留守にしていたが、メイドたちがしっかりと掃除をし続けていてくれたようで、埃ひとつない、まさしく文句のつけようがないほどに綺麗な家がそこにはあった。




 彼女らが帰還した翌日、メイドたちから奇妙な噂を聞いた。


 プリーマ邸には、今は誰もいないはずなのに、確かに灯りがついている時間があるのだと。


「……住んでる人間がいないとはいえ、あいつの家から泥棒しようだなんて、許せないわ」

「うん、泥棒はだめです」

「とっちめよう!」


 一日休んだ彼女たちが、持ち前の正義感とクレアーツィへの様々な思いもあって、プリーマ邸に乗り込むことを決めるのに時間はかからなかった。


 宝剣を、魔法の杖を、そして決してどのような邪悪にも屈しない強い心を、確かにそれぞれ持ち合わせ、クレアーツィから託されていた合鍵で扉を開けようとして、鍵が閉まっていなかったことに驚きつつ、確かに乗り込んでいく。


 どのような悪党が忍び込んでいたとしても、ビートゥほどの脅威であるはずはない、理解ができない何かであるはずがない。


 恐れることは何もない、そう信じ前へ前へと進んでいった。


 ところで、クレアーツィ・プリーマは戦争を終わらせた英雄の一人であり、すべての世界を救う一因となった男だ。


 だが、本質は一人の発明家、機械技師と呼ばれる男である。


 故にこそ、彼の屋敷には無数の――。


「それこそ、不法侵入者がむごたらしく死んでしまう可能性すらある、強力な罠が仕掛けられているわ」


 エストは多少大げさに語った、よっぽど変な風に罠にはまらなければ死んだりはしない、一週間寝たきりになる程度だ。


 当然のことながらエストは、クレアーツィと長い付き合いであり、罠の配置も全て知っている。


 だからこそ気が付いたのだ。


「……その罠全てが起動した形跡がない」


 以上だ、不注意なものはもちろん、厳重に警戒する者であっても一つや二つ引っかかってもおかしくはない。


 館のいたるところを調べても、起動した形跡が欠片もない。


 それはもう偶然だというのであれば、神に愛されたとかそういう存在でないと納得ができないほどだ。




 エストたちの、プリーマ邸探索はついに最後の一か所を除いて完了した。


 それはクレアーツィの秘密研究所、地下のその場所へ向かって、一歩一歩と確かに彼女らは下りていく。


 そこには何がいるのかは分からない、だからこそ確かな強い意志を持って、剣を手に取り待ち受ける脅威に対して歩み続けていく。


 そこには、世界一の天才が生み出した、無数の作品がある、一歩間違えば再びあの日のような戦乱が巻き起こりかねない。



 そこで彼女らが見たのは――。


「……おかえり」

「あぁ、ただいま」


 全身ひび割れた装甲の、あの日の姿のままの魔鎧の勇者と、その乗り手。


 ゴウザンバーとクレアーツィ・プリーマその人がそこにいた。


 男の下に女は駆け寄っていく、もう会えないと思った強い絆の相手との再会。


 そして――。


「帰ってきたんならさっさと顔出しなさい!!」


 エストの拳が、クレアーツィの顔面に叩きつけられた。

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― 新着の感想 ―
[一言] おかえり、クレアーツィ! ヒーローが居なくなって無人のはずの家に灯りが点るシチュエーション、いいですよね。
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