第83話 僕らのブンドド戦争
【超鋼武将テンマオー】
地球によく似た惑星センゴックを舞台に活躍するスーパーロボット。
センゴックは各国が天下を統一するための乱世となっており、武将と呼ばれるスーパーロボットが各国の切り札となっていた。
テンマオーはその内の、オダリの国の武将である。
ビートゥの予想を上回る速さで、スーパーロボットたちが駆け付ける。
熱線が、冷凍光線が、電撃が、重力が、ビームが吹き荒れる。
拳が、脚が、剣が、槍が、ドリルが叩きつけられる。
彼の持つ異常な防御は、もはや相手の一つ一つを認識できずに貫かれ、再生能力すらもはや間に合うことはない。
無限の夢が、ビートゥの力を打ち砕く。
「貴様らぁぁぁぁっ!!」
それでもなお、独善の化身は怒りを糧に立ち上がる。
「何故お前たちは、俺の前に屈さない!」
自らが主役になる世界こそが、誰しもが望む最高の物語になる。
彼と彼の造物主はそう信じているのだから。
造物主の理想を体現するからこそ、彼は立ち続ける。
だがしかし――。
「お前のような、誰かを虐げなければスタートラインにすら立てない奴が偉そうに語るなっ!」
だからこそ、彼は、彼が作ろうとする世界は否定される。
他者を虐げなければ、立ち上がることすらできない英雄。そのどこに理想がある?
他者から居場所を奪わねば世界を救えない英雄、順番が逆なのだ。
「世界を救った結果、誰かを虐げてしまったならば構わないわ」
「だって、そうしなければ何もかもが救われないから」
だが違う、ビートゥが為そうとすることは――。
「世界を滅ぼした後に世界を救う、そのどこが世界を救う英雄の姿なのかしら?」
「ははははっ、こいつは確かにその通り……かわい子ちゃんを助けるために、わざわざかわい子ちゃんを絶体絶命のピンチに追いやる奴はヒーローじゃねぇなぁ?」
性質の悪いマッチポンプにすぎず、どこにも英雄性は存在しない。
そんなヒーローを求める者などいる筈が無い。
「主の危機を救い、より優れた地位を得たいと望むのは拙者にも分かる……だが、そのために恣意的に主を苦しめるなど、男の風上にも置けん!」
「結局の所、貴方が為そうとしていることは誰かを下げて、自分が上に上ることをさぼっているだけっ!」
だからこそ、彼らは決して負けられない――。
「ええいっ、黙れ黙れ黙れ黙れ!!」
目の前の事実すら受け入れられず、ビートゥは叫び、支配下にあるものを呼び出す。
「ラビッシャー共! お前たちもアイツらを叩きのめせ!!」
無限に何度でも現れる彼らが、再び戦場に舞い降りる。
幾千幾万の敗北した者たちの軍団。
「はぁ……お前たちも利用されて悔しくないのか?」
彼らに対して、声をかけた男の声。
この戦場に駆け付けた、鎧塚のものであった。
この世界の人間である彼は、ビートゥに負けても諦めなかった人々だ。
たとえ命奪われようとも、その魂までは渡さないと立ち向かった者たちだ。
「……っ」
「バカなことを言う」
されと、鎧塚の言葉はビートゥに届くことはありはしない。
なぜか?
当たりまえの話だ。
「俺に負けた、くだらない、つまらない世界のこいつらを、世界に有用な、素晴らしい俺の引き立て役にしてやったんだ、感謝はされど非難される道理はない!」
「てめーに言ってねぇんだよ、インチキ小物野郎!」
ビートゥに向けた言葉ではない、彼が向けたのは――。
「あいつを倒せばもしかしたら世界も元に戻るかもしれないぜ!」
ラビッシャー、ごみとみなされた彼らに向けられた言葉だ。
誰かに認められることはなかったヒーローたちへ、確かに彼は手を伸ばして見せた。
あぁ、そうだ――。
「どうしてこんなことも思い出せなかったんだろうか」
彼らの機体に施されていた、悪趣味なペイントが落ちていく。
マシンを封印でもするかのように、無理やりリベットで止められていたのが外れていく。
悪の手下とでも言うかのような、醜悪さすら感じさせるトゲの装飾が消えていく。
「気が付けたならそれでいいじゃないか」
「ふふっ、あらあら皆さまとってもいい姿ですわ」
呼び出されたラビッシャー……いや、英雄となれなかった者たちは、一人一人が立派な英雄としてよみがえった。
文字にすれば実に陳腐な、だけれども彼らにとっては藁にも縋る様な確率の奇跡が起きた。
「ふざけるなっ! いい加減にしろっ! 俺に倒されるべき奴らが」
男の怒りの言葉は誰にも届くことはありはしない。
届くはずがない。
「だって、あなたを応援している人なんてどこにもいないのです」
見ているだけのウサンクは、それでも、確かな心理としてそう語る。
今もゴウザンバーを筆頭に、ビートゥに立ち向かうスーパーロボットの姿は、確かに人々に刻み付けられたもの。
それを誰かが見つめていて、どこかの誰かたちが見つめている。
本の中で、テレビの中で、映画の中で、彼らの英雄たちが戦う姿を、応援していた。
そして必ず――。
「一気に決めるっ!」
彼らの応援は英雄たちに届いていた。
「子どもだましの玩具どもがぁぁぁぁっ!」
彼にはその事実が届かず、理解もできはしない。
他の全てを否定し、自分だけが崇められるなどという地獄。
他の誰も望んではいないなどと、彼には理解できない。
「ザンバァァァァフィストォォォ!!」
鉄の拳が叩きつけられようとも、彼が自らの約束された敗北を、理解できるはずはない。
彼は絶対に勝利する、誰もが崇める無敵の存在として創り出されたのだから。
「こ、ここで死んでも俺は終わらない、次の転生で――」
「お前に次は来ない!」
なにせ死んでも、次の転生でさらにパワーアップをし続ける。
相手に勝てるようになるまで、死を繰り返せばそれで問題ない。
最終的な到達点をどこまでも高めるために、自らの死すらも利用する。
あぁ、言葉にすればなんとも恐ろしく悍ましい。
だが現実は、勝てなかった相手から逃げているだけだ。
何千何万と逃げられるから、自分が死ぬことすら怖くはない。
「お前が地獄へ行く人間すらも手駒としたのも、逆に貴様に従わなかった者たちを地獄で封じ込めていたのも、貴様の魂が逃げていることを、誰にも知られないようにするためだ!」
故に彼だけは、地獄に行かないことで――。
「貴様が死ぬそのタイミングで、地獄の炎が貴様を焼く!」
魂が焼かれることを避け続けた。
ただひたすらに、敗北で終わることから逃げ続けた。
その男への、ここで終わりの宣言。
「お前たちの流儀に付き合ってやったのだぞ、だったらここからは俺の流儀にお前たちに付き合ってもらう」
故にビートゥは手段を選んではいられない。
ここまでは彼にとっては遊び、世界のルールそのものは彼が知るこの世界のルールのままであった。
ビートゥも、それに付き合っていた。
「世界そのものを自分が戦いやすいように作り替えるつもりか」
文字通りのジャンル変更。
「手始めにスポーツだ!」
故にこそ戦いのルールすらも、作り替えられる。
世界は戦場から、嵐すらも巻き起こるスタジアムへと変わっていく。
「野球!?」
「俺は全てを超える、どのようなルールであっても」
ロボットたちのサイズすらも自在に作り替え、皆ほぼ同じ大きさにされ、そしてダイヤモンドの中に立たされる。
「ふっ、お前たちなど全員ホームランでコールド勝ちだ!!」
されど、彼の思惑は裏切られた。
スリーストライク、意図も容易く空振りという現実を突きつけられる。
スーパーロボットの中にはスポーツを得意とする物がいた。
「ならば次は――」
彼は敗北を認められない、ここで負けたら終わりだから。
だから、次々と新たなルールを押し付けて――。
その全てで負けた。
「なぜ、なぜだっ!」
それこそが多様性の力であった、可能性の力であった。
玩具には無限の遊び形という可能性があった。
だからこそ、子ども騙しの玩具と呼ばれたスーパーロボットには、ソレがあり。
そうではなかったビートゥには理解ができなかった。
ビートゥにはたった一つの最強しかなく、スーパーロボットたちには無限の選択肢があった。
故に、ビートゥには待っている未来はただ一つしかなく、それが敗北という形で待っていた。
無数の世界で子どもたちに選ばれなかった。
今までの全てが自分に返ってきたのだ。
【ブンドド】
玩具で遊ぶ行為。
そこには無限の可能性がある。




