第82話 鉄腕
【ホーアオブバビロン】
聖機士と呼称される、リーリエの搭乗機。
聖機士はパーツの好感で性能が大きく変わるのが特徴であり。
彼女はこの戦いには、多少取り回しが悪くとも高火力な兵装パーツでやってきた。
巨大なる理想の体現者による、理解することも困難な常軌を逸した攻撃の雨あられは、例えクレアーツィ達の味方が増えたとしても変わらない。
「今度はっ!?」
続いて放たれるのはホーミングしてくるレーザービームの雨霰。
ざっと視界に入っただけでも、光の線は二十本を超えていた。
それが空中でゴウザンバーコキュートスと、駆けつけた少女の機体目掛けて降り注ぐ。
共にどうにかして回避するためにバーニアを吹かしながら、銃口はビートゥ、いやユースティティア・プラエドーへと向けられる。
「叩き込み続ければ弱点が見えるはず!」
「であれば、どれだけ多くの情報を得られるのかにかかっていますわね!」
レーザーの速度自体はそこまで速い訳ではないようで、二機が全力で飛ばせば時間を稼ぐことはできる。
「そらそら逃げろ逃げろっ!」
ビートゥの言葉が世界に響き渡る。
彼にとって、現状は戦闘ではなくちょっと面倒な掃除にすぎない。
それをできる限りストレスなく終わらせるためにただただ楽しんでいるのだ。
だから無意識のうちに手を抜いていた――。
「いぃぃぃやっふぅぅぅぅ!!」
「っ!?」
とまでは言わない、正確には頭の使い方が違ったという話だ。
慣れた作業をしている時と、始めてやる作業をする時で頭の使い方が変わるのと何ら違いはない。
故に、彼は既に一度意識の外からの攻撃を受け、こちらに向かうものたちがいるという事実を知っていたにもかかわらず。
「そらそらそらそらそらっ!! 隙だらけだぜ木偶の坊!!」
光の速さで突っ込んできた、ガンマンの存在に気が付けなかった。
ほんの一瞬、すさまじい炸裂音が鳴り響くと同時に、無数の弾丸が射出される。
その内の――。
「貴様ぁぁぁぁぁ!?」
脳天目掛けて放たれた、初撃だけは、確かにユースティティア・プラエドーの脳天を貫いた。
その一撃と共に、追尾するレーザーが突如として消滅。
「……少なくとも、撃ったら撃ちっぱなしってわけではないみたいだな」
原因が何であれ、防ぐ方法自体は何かしら存在する。
仮に、ザンバーシャウトのような防ぐ手段がない、即死攻撃が、回避することすらできないとなってしまえば敗北が確定していただろう。
だが、ビートゥの攻撃は回避できなくとも止めることはできる。
つまり、戦えるという事実がそこにはある。
「あんたっ、やるなっ!」
クレアーツィは、自分たちを救った戦士へと声をかけ――。
「男に褒められてもうれしくねーや、かわい子ちゃんいないの?」
まさかの想定していない方向性の発言が飛び出した。
女はいないのかという軽薄な男の言葉。
それが本音であるのを感じ取っては、クレアーツィは苦笑いを浮かべた。
「とんだ女好きね」
「そりゃまぁ、たった一人の最終防衛ライン、なーんてバカみたいな仕事、金と名誉と、それにつられてくるかわい子ちゃん位はもらえねーと割に合わねーからな」
けらけらと楽しそうに笑いながら、軽い自己紹介をしてみせ――。
駆けつけた彼は思考を進める。
使った弾丸は全て同じもの。叩き込んだ場所は全て装甲の厚さなどはあえてバラバラにしてある。
これで貫いたのが一番薄そうな場所であったなら、叩き込む場所の問題でしかないと理解できた。
だが、貫いたのは一番分厚そうなポイント、故に純粋な防御力という点で考えれば、他が抜けないなど言うことはあり得ない。
「とりあえず、あいつには何か弱点があって、それを突かねば防御は抜けないって所だ」
「それが何なのかお分かりには」
「残念無念また来週っ、て訳じゃないが最初の不意打ちだけが通じた」
「あら、でしたら……相手に意識されてる私たちではダメと」
彼はそのまま口にする。
「かもな」
「だとしても、諦めて死んでやる理由はないがなぁ!」
「だよなっ!」
彼はその言葉と共に、光すらも置いて行くスピードで宙を舞い、苛烈に攻め立て続ける。
攻撃が通らなくても構わない、それでも諦めないという意思を示せればそれでいい。
その自分の考え方を理解したのか、などと少し笑いそうになるのを意識して止める。
彼にとって、笑えない理由は実にシンプルな話だ。
「男に同意されてもうれしかねぇんだよぉ!!」
彼は――。
「このグリード・P・ラバーは、男が嫌いなんでなぁ!!」
グリードは度を超えた女好きで、度を超えた男嫌いであった。
あの一撃を除いて攻撃は通らない、まるで無意味だと笑うように、苛烈な攻撃は続く。
「ふむ、直接手を下すのもありか」
ビートゥの言葉と共に、ユースティティア・プラエドーの手には剣が形成される。
「受けよ!」
その一撃が薙ぎ払われようとして――。
「宇宙一刀流奥義! 流星大斬円怒!!」
ユースティティア・プラエドーの腕が飛んだ。
「超鋼武将! テンマオー! 義によって助太刀いたす!!」
たった一機の侍の一撃によって。
「きさまぁぁぁ!!」
ビートゥの怒りの叫びと共に、断たれた腕も修復していく。
いや、攻撃が無かったことのように、機体そのものがまき戻っていくといった方が正確か。
「……大体は理解できた」
だからこそ、クレアーツィは何が起きているのかを、どうすれば防御が抜けるのかを理解した。
「不意打ち、というか意識している攻撃無効って所か」
「なるほど、であれば……やはり、認識されている私たちだけでは駄目ではありませんこと?」
「いえ、意識されなければいいのですわ」
「なーるほど、デカ物に乗ってる嬢ちゃんいいこと言うねぇ?」
気が付いた弱点……とすら言えないが、それでも戦闘を成立させるための情報。
攻撃を通すためには意識されていない攻撃を叩きこむ必要がある。
攻撃が通った二発は共に、不意打ち、それもそれぞれ最初の攻撃のみ。
「他のメンバーが無理矢理意識を持っていき、一機が叩き込むを繰り返せばいいってことだね」
「耐久戦、にしても無理があるでしょ」
「でもやるしかないか」
それだけ口にすれば面々は猛スピードでの行動を開始する。
「ええい、ちょこまかと動きおって」
話を聞いた侍もまた同様に理解した様子で、ひたすらに相手をあおるかのように攻撃と回避を繰り返し続ける。
ダメージが通らないとしても、殴られ続けるというものは精神的に来るものがある。
ビートゥにとっては、実にイライラさせられる現実がそこにはあった。
こちらの攻撃が当たるのは変わらない、なぜなら当たるまで追尾するからだ。
だが、それも異様なほどに時間がかかる。
それすらも焦燥を加速させていく、その原因すらも分からないままに。
「奴さん、どうやら戦場自体は不慣れみたいだなぁ」
「ふっ、力に頼った戦い方しか知らない様子!」
「あるあるですわね、まるでもらった道具の性能で、自分本人がすごくなったと勘違いしているやられ役そのものですわ!」
どれだけ強大な力を振るって見せても、目の前の戦士たちはこちらを認めはしない。
それも絶対的な差を見せつけても、と考えれば彼の苛立ちも理解はできるのではないだろうか。
目の前をひたすらに飛び続ける蠅のようなものだ。
少なくとも彼にとってはそうなのだ。
「くそっ、次は何だ!」
さらに意識外から、鉄拳が飛ぶ、斧が叩きつけられる、光の弾丸が叩き込まれる。
戦闘機から変形するマシーンが意識を惹きつけんとばかりに飛び回り。
四方八方から、無数の軍団が駆け付けて来れば、もはや攻撃が通らないタイミングは逆になくなる。
十分も経たないうちに、世界各地からスーパーロボットたちは、その力を発揮して既にやってきた。
「数が増えれば増えるほどに意識は分散させられる、結果あの防御はできなくなるってことだ」
【グリード・P・ラバー】
駆けつけたスーパーロボットのパイロットの一人。
金と地位と女のために戦う、実に人間らしい俗物、しかしどのような時でもそれを貫く、すさまじい俗物である。




