第8話 大ピンチ! ゴウザンバー最後の刻!?
【ザンバーバスター】
ゴウザンバーに搭載されている超破壊光線。
胸部装甲から放たれるそれはマギアウストを一撃で破壊するほどの破壊力を誇る。
弱点としてかなりの魔導力量を必要としており、放つ際にはゴウザンバーが動くことが困難になっていたりする。
二大マギアウストが火の海へと変えた町を見てクレアーツィは焦りを感じていた。
はっきりと言えば現状を分析すればするほどに、彼にとってはよろしくない環境が整っているのだから。
(こんな町攻め込む価値なんてろくにないのに、わざわざ二機用意している……それだけ余裕があるということか)
もしくはクレアーツィの完全なる抹殺。おそらくはそちらを目的とした行動であろう、たとえ余裕があったとしてもわざわざこのような攻め込み方をするメリットなどありはしない。
皇国から向けられた明確な殺意、クレアーツィにとって……この事態はそれを理解するのに十二分の出来事である。
その上で、わざわざ二機も向かわせているということが、自身への殺意の大きさを証明していた。
ゴウザンバーが現れるまでは無敵の兵器、ソレを態々二機ぶつけるというのだ。
それ程の価値があると考えての攻撃である、と言外に告げられているのだとすればクレアーツィからすれば喜べばいいのか、それとも悲しめばいいのかと苦笑いを浮かべいる。
「しかもよりにもよって、飛行型に人型……フリュゲラーとシュヴァルデンか」
絶体絶命のピンチでありながら、視界に入る破壊の使者の姿から冷静に戦力を推測する。
フリュゲラー、それはクレアーツィの開発した輸送や移動に新たに空路という選択肢を与えるための翼。しかしそれは今では上空から一方的に人々を殺すために使われている。
シュヴァルデンはもともと建物の建築に使えるのではと開発したもの。しかしそれは逆にモノを破壊するために使われてしまっている。
勝てるかどうかと言えば、勝てる敵。
とは言えそんなことはクレアーツィにはどうでもいい話。二機とも人々を幸せにするためという正しい目的のために作られた魔導具は、人々を苦しめるため、悲しませるために使われてしまっている。
だからこそ、これ以上間違った使われ方をさせないためにも――。
「ま、どっちにしてもぶっ壊す!」
その言葉とともにゴウザンバーは駆け出し、地上のシュヴァルデンに殴りかかり――。
「甘いっ!」
シュヴァルデンの振るう剣がゴウザンバーに叩きつけられ、一気に吹き飛ばされて行く。
開発者で最もゴウザンバーの扱いを理解していると言えども、実戦はまだ二度目。経験値の不足がこのような事態を引き起こしていた。
攻撃をするために飛び込めば吹き飛ばされる、ゴウザンバーの優れた防御性能故に問題なく戦えているものの、はっきりと言えば劣勢そのものである。
「リーチの差ってのは如何ともしがたいか……」
事実としてその問題は大きな壁となっている。既に数十回と攻撃を弾かれ続けている。有効打を届かせることが困難であった。
その上で何をするでもなくフリュゲラーはこちらを睨みつけている。
「ザンバーバスターは……上の奴が邪魔するよなぁ」
ゴウザンバーの武装であるザンバーバスターは高火力高射程と優れた武装ではある、しかしその欠点として魔導力を一点に集中させるため動きが止まる。そうなってしまえばフリュゲラーに阻害されるのは間違いない。
基礎性能ではゴウザンバーが勝るものの、マギアウストの長所が見事にゴウザンバーの動きを徹底して封じている。
「だったら――」
それ故に異なる武装を使う必要がある。打開できる武装を使う必要がある
そう考えたクレアーツィはゴウザンバーの右腕を突き出す。
この行動と連動させるように、火の魔導石を筆頭に一部の魔導石に魔導力を注ぎ込む。そしてエネルギーが必要量迄たまったタイミングで叫ぶ。
「穿て魔導拳!」
その言葉とともに突き出されていた右手が拳を作る。
次の瞬間の事であった。
「ザンバァァァ!」
その拳が――。
「フィストォォォォォ!!」
飛んだのだ。
「なっ、なにぃ!?」
「正気かクレアーツィ!?」
皇国の二人もその現象に目を見開く。
拳が飛んだのだ。そうなってしまえば何をしようとするのかも分かる。
空飛ぶ拳骨だ。「頭がおかしくなったのかこの男は」と考え理解した。
「正気でないから大陸一かっ!!」
拳を何とか弾き飛ばすために剣を振るう。
直撃をくらえばまずいと判断したが故の行動。
その行動は見事に弾き飛ばすことに成功する。
そう、思い切り振りきったのだ。
故に当然のことだがボディはがら空きとなる。
「ザンバァ!」
シュヴァルデンに影が差し、何があったと天を仰げばそこには――。
「インパクトォ!!」
飛び蹴りの体制に入っていたゴウザンバーがいたのだ。
「させるかぁ!」
その姿を見てはフリュゲラーは猛スピードでの突撃を開始する。ゴウザンバーを妨害するためのその攻撃は――。
「その横っ面はぶん殴る!」
「なにぃ!?」
何かに横からぶつかられたことによって失敗する。何に激突されたのか。
決まっているシュヴァルデンが弾き飛ばした鉄拳、ザンバーフィストの一撃であった。
フリュゲラーの妨害は叩き伏せられた、故にゴウザンバーを邪魔するものなど何もありはしない。
強烈な飛び蹴りがシュヴァルデンに炸裂するのも至極当然の結果である。
「ザンバーフィストは発射後も軌道修正ができるのさ、弾かれたところでその機能は変わらないってね」
ゴウザンバーの中でクレアーツィはにやりと笑いながらも思考する。
(とは言え、飛ばしてる間は手が使えなくなる……これはこれで弱点なんだよなぁ)
などと弱点を頭の中で整理しつつ、現状の打開策としてはこれに頼らねばならないと理解していた。
思考を終わらせるとともに、ゴウザンバーは再び駆け出していく。リーチが足りないならば飛ばせばいい、避けられるのなら途中で軌道を変えればいい。攻略法を見つけたと判断して――。
「シュヴァルデンを掴んで飛べ!」
その攻略法が閉ざされる。フリュゲラーの飛行能力を駆使しつつ、放たれる攻撃はシュヴァルデンが弾き続けるという対処法によって。
空飛ぶ術を持たないゴウザンバーにとって、最悪の状況となってしまった。
「エ、エストさんっ!」
マルチドラゴネットのブリッジに映し出されるゴウザンバーが苦戦する姿を見て、竜希は声を上げる。
(ファンタジー世界に転生したんじゃなかったの!? これじゃロボットアニメじゃん!?)
転生してもチートはそこまで使い物にならず、そもそも転生した先のイメージすらも間違っていた。なにもいいことがないじゃないか。
さらに言えば助けてくれた男の命運が断たれ、もはや風前の灯火。
彼に助けられたがゆえに、彼の仲間だと認識され、彼同様に殺される。
竜希の思考が最悪の中の最悪にまで堕ちる中で、エストの口が開かれる。
「竜希ちゃん、大陸で一番大きな国に喧嘩売る覚悟ってできる?」
「あ、あのどういうことですか?」
この状況とエストの言葉は関係ないと彼女は思っていた、それはそうだ、遠くのモニターの先の話。
テレビを見ていて内戦が起きているのを見、悲しい話だとは思ってもだからと言って助けに行くことなどできないのと同じようなモノなのだと。だがしかし――。
「ゴウザンバー、赤いクレアーツィが動かしてるのと戦ってるのがネルトゥアーレ皇国のマギアウスト」
「あ、そうなんですか」
まだ他人事だと思っていた彼女に突き付けられるのは厳しい現実で。
「貴女が力を貸してくれたらクレアーツィを助けられるかもしれない、その為にネルトゥアーレ皇国に喧嘩を売ってもらうことになるかもだけど」
「え!?」
「だから、助けてくれると嬉しいのだけどいいかしら?」
それでいて、自分の力で人が助けられるのだという希望であった。
【ザンバーフィスト】
ゴウザンバーに搭載されている鉄拳武装。俗に言うロケットパンチである。
質量を飛ばすというシンプルな破壊を行う武装であるが、その軌道を自在に操ることができるという利便性が特に優れており、外しても無理やり当てたりなど使いやすさでは屈指のモノがある。
弱点として拳が飛ぶ以上、放たれた方の腕はまともに使えない状態になるというものがある。
なお両腕ともに放つことも可能。