第81話 鋼の軌跡
【ユースティティア・プラエドー】
ビートゥが、クレアーツィ達と戦うために用意した道具。
あくまでもスケール感で違和感を感じさせないようにするための、相手の土俵で戦うための道具といった方向性で用意されたものだと思われる。
その力は未知数。
一つ、二つと数える声と共に、敵陣の中をまるで流星の様にすり抜け、確実に敵を打倒する戦士がいた。
かと思えば、ある鋼の戦士は天高く剣を掲げ、敵を切り倒していく。
まるで統一感のない、しかし確かな意思を持った英雄たちが時代も、世界も、立場も超えて一つの地球に集った。
まさしく奇跡、これこそが人類史における……いや、生きとし生けるものすべて、すべての宇宙において最大の奇跡が巻き起こった瞬間である。
無限の軍団に対して、彼らは確かに有限だ。
だが、彼らの姿一つ一つが、一つの世界の希望を背負い立つ者。
故に彼らは無限大、たかが無限の意思を失った人形では抑えられるはずなどありはしない。
「貴様っ、貴様ぁぁ!! 何をしたのか分かっているのか!?」
たった一手、あまりにもふざけた手によって、絶対勝利の布陣ひっくり返されたことなどはビートゥにとってどうでもいい話であった。
彼はすでに何千何万と敗北を経験している。
その度に転生による特典を得ることで、より強くなってきた。
彼はそれを恥じることはしない、その度に立ち上がり、自分の勝利への糧としていたのだ。
だが、これは――。
「禁じ手だろうね」
「そうだ、ウサンクなどと名乗る貴様は、俺と同じ……いや、俺の創造主と同じ立場でありながら、無理やりこの世界に直接干渉したのだぞ!?」
彼らは皆それぞれ異なる世界の英雄。
そして異なる世界の英雄が一堂に会するなど、それはよっぽどのことがなければ許されることはない。
はっきりと言って史上最大級の禁じ手だ。
しかもそもそもの話として――。
「貴様は管理するモノだろう!! 俺の創造主ですら、俺を作って! 俺に任せているだけだ!」
管理するモノの直接介入。
それは彼らにとって、絶対にしてはならないこと。
直接彼らとかかわっていた、ウサンクと名乗った男の在り方は、それほどの悪事なのだ。
仮に人間の尺度で見れば、末路は運が良くても死刑!
「えぇ、この戦いが終われば私は消滅するでしょう……ソレに何の問題が?」
されど、この漢は受け入れて見せた。
全ては覚悟の上、自らが死ぬことなどよりも、ビートゥとその上にいる管理者の野望を止めることを最優先とした。
「く、狂っている……」
「狂っているで結構、正気で絶対的な絶望に抗おうなどとしませんよ」
クレアーツィたちは二人の会話を理解していない、ただ一つ分かっていることは――。
「ウサンクって奴は、助っ人連れてきてくれた味方。これでいいんだよな!」
「えぇ、一読者として、一視聴者として、一観覧者として貴方たちを、そして彼らを応援していたものです。とは言え、信用ができないなら信じないでくださっても結構ですよ」
彼の言葉を受ければ、それならば構わないとばかりにコキュートスを前に出す。
結局の所、彼が何者かなどどうでもよく、クレアーツィにとって重要なのは、彼が敵かそうでないかでしかない。
そして彼は明確に、ビートゥの敵としてふるまった。
「ならばよしっ!」
その言葉と共にユースティティア・プラエドーに向かって再び突撃するコキュートス。
無論先ほどと結果は変わらない、傷一つ付かない装甲。まるで動じない姿、それでもなお攻撃することをやめはしない。
「……まぁいい、奴らを皆殺しにすればそれだけで無数の世界を手にしたも同然だ」
ビートゥのその言葉と共に、空間が湾曲し始める。
とっさにその領域から離脱するゴウザンバーコキュートス。
「っ、何を……しようとしたっ!?」
「なに、空間そのものを支配しただけだ」
手始めとばかりに腕を振るえば、その軌道に数えるのもバカバカしくなるほどの光の矢が出現する。
「クレアーツィ!」
「分かってる!」
次の瞬間、何が起きるかを理解すれば咄嗟に上へ、即ち海面目掛けて飛翔を開始。
逃げる相手を狙うように、光の矢が猛スピードで追いかけてゆく。
「ここは私がっ!」
未来、いやピュアグリッターの言葉と共に、ゴウザンバーコキュートスの進路とは反対方向に魔法陣が形成される。
「シャラハールマハ!レモマヲミガーワ!!」
唱えなられた魔法の言葉、それに応じるように光の矢を防ぐ防壁へと、魔法陣が変化する。
そう、変化したのだ。
「っ、すり抜けてる!?」
障壁を無視し、嘲笑うように攻撃が向かってくる。
「操縦こっちに回して!」
その事実を確認すれば、咄嗟にエストが操縦のメインに切り替わる。
コキュートスの手に巨大なる刃が形成されれば、矢を切り払わんと、その刃が振るわれる。
「っ!?」
それすらもすり抜けて、ついには命中する無限とも思われる矢の数々。
一撃一撃が、今まで経験して事もないような衝撃を引き起こす。
その一撃一撃によって、深海から一気に上空まで吹き飛ばされて行く。
「た、確かに切り払ったわよ!?」
「簡単な話だ、害意に反応し回避する能力という奴だ」
ビートゥの言葉が真実かどうかは解らない。
だが、どのようなタネがあったとしても、防げない攻撃が放たれたという事実がそこにはある。
「……想像以上の攻撃力で、しかも防御無視の回避不可ってことか?」
「まさか、今のが全力だと思ったか?」
言葉と共に、天空に異変が発生する。
確かについ先ほどまでは昼間だったはずだと言うのに、突如として世界が闇に包まれた。
言葉にすれば実にシンプル、だが起きた事象はまさしく規格外。
「堕ちろ、星よ」
まるで息をするかのように紡がれた言葉、ただその事実と共に――。
星が落ちてきた。
「くそっ、ふざけるなっ!」
落ちる星の数は一つや二つではない、まさしく流星群が地球目掛けて三百六十度全方位から降り注ぐ。
かつてこの惑星を支配していた、恐竜と呼ばれる生物が滅んだ要因の一つとして言われる隕石。
地球に今目掛けて飛んでくる一つ一つがソレに匹敵するサイズ。
文字通り、滅びが今迫りくる。
ビートゥにとってこの世界が滅んだところで大した意味はない。
この世界に生きる全ての命に価値を見出していない。
この世界に集った英雄一人一人も、何れ倒すための踏み台にすぎない。
ならば、素晴らしい滅びをくれてやるのは、彼にとっての慈悲と言えるのかもしれない。
一つ防げないだけで勝敗が決定する。
「好き放題やってくれるじゃねぇか!!」
声が聞こえた。
「だったらその分貴様にも味あわせてやる!」
声が聞こえた。
「まだだ、まだ終わってないっ!」
世界各地から隕石群を迎撃せんと勇者たちが飛び上がる。
ある機体は隕石を破壊せんと攻撃を仕掛ける。
ある機体は少しでも時間を稼ごうと、バーニアを吹かせる。
ある機体は、隕石の破壊を妨害する敵機を打倒していく。
彼らはこの戦場が初対面だ、なにせ生まれた世界も、時代も何もかもが違うのだから。
それでも彼らは――。
「俺たちは諦めるモノかっ!!」
地獄の炎が燃え盛る、コキュートスの視線に応じるように迫る隕石を燃やし尽す。
世界各地でも、一つ一つがものの見事に打ち砕かれて行く。
「あぁ、それでいい子供だましの玩具だが、それでも俺と戦う舞台には上がれるか」
ビートゥは笑う。
まさかのあの隕石群を防ぐとは思わなかったと。
ビートゥは哂う。
彼らがここまでやれるとは思っていなかったと、楽しげに。
ビートゥは嗤う。
「なら、そろそろ手加減の必要はないな?」
まるで子供の様に、彼は笑う。
蟻の群れを見て潰すのを楽しむように。
「最初からありませんことよっ!!」
そんな彼が駆るユースティティア・プラエドーの脳天目掛けて、ゴウザンバーコキュートスとは異なる方向から、すさまじい砲撃が突き刺さる。
装甲に傷はない、だがそれでも想定外の方向から攻撃が届く。
「センスのない、ただ流行っているからって雰囲気マシマシの貴方など、勝てる道理はありはしないのですからっ!!」
煌びやかな装甲を纏った令嬢が、クレアーツィの隣に舞い降りる。
「あら、一番乗りの様ですわね……助っ人、させていただいても?」
「はははっ、ありがたい……俺はクレアーツィ・プリーマ……君は?」
「リーリエ、リーリエ・リヴァーレと愛機ホーアオブバビロンですわっ!」
「あらあら、無理しないでくださいね?」
リーリエと名乗る少女は、にこりと笑みを浮かべながら、舞い踊る。
「こちらに駆け付けた皆様も、それぞれの戦場での戦いを終えれば、こちらに向かってきてくださりますわ!」
彼女の言葉は強大なる敵に立ち向かう、大戦の狼煙を上げる言葉であった。
【リーリエ・リヴァーレ】
ある世界で、ロボを愛し続けた少女が転生した存在。
世界の危機ではなく、ただひたすらにこの戦場に無数のスーパーロボットが駆け付けると聞きやってきた、ロボキチ令嬢である。




