第79話 終わりの始まりと始まりの終わり
【ラビッシャー】
言葉の由来はラビッシュ。
ごみ、くず、ガラクタの意味で使われる英語である。
これは彼らを利用する者にとっての、彼らの存在価値そのものを意味しているのかもしれない。
ツギハギノヤマトの初陣、搭載されていたカメラの映像から計測した結果として――。
「少なく見積もっても三十機……、初陣でこれって上々どころじゃないよな」
「少なくともクレアーツィよりはうまく動かせてることになるわね」
新たなる鋼の勇者の力は確かなもので――。
「何よりも、搭乗者である鎧塚さんが頑張ったって証明ですよっ!」
「はははっ、そいつは嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
それ以上に鎧塚の実力を証明する。
スーパーロボットの力とは、機体とパイロットの二つがそろって初めての力。
ただ強いだけのロボットでは、その力を発揮しきることは到底できない。
ただ強いだけのパイロットでは、その実力を活かしきることはできない。
しかし、その二つがそろった時どうなるか?
答えは実にシンプル、一つの軍に匹敵する。
そうなってしまえば雑兵はいくらいても無駄、無意味、無価値。
戦術や戦略を超越した存在こそが、人機一体となったスーパーロボット。
これは古今東西誰しもが知る当たり前の真理。
だからこそ、一騎当千の英雄とその愛機を打倒すには、数を揃えるにしても足切りラインが成立する。
無論それはクレアーツィ達にとっても違いはない。
ネルトゥアーレ大陸での決戦の時、ギガントアークの相手は、性能が劣るマルチザンバーには任せなかったことからも明らかだ。
「これで、あんた達だけに任せて負い目を感じなくても済むな」
満面の笑みを浮かべ、クレアーツィに感謝の言葉を告げる。
世界を奪われ、滅びまであと一歩といったところで、盤をひっくり返しながらやってきた勇者たち。
彼らの手によって、ゲーム盤でちゃんと戦える場所に立つことができた。
理不尽相手に、立ち向かえる立場に押し上げられた。
不可能から可能性はあるまで持ち上げられた。
「一先ず日本をさっさと取り返す、その為にも――」
ツギハギノヤマトは量産される。
「……ふむ、そろそろ決戦の日か」
一人の男が誰もいない部屋で呟く。
彼にとって勝利に価値はない。
「俺は勝って当たり前なのだから」
彼にとって敗北に価値はない。
「俺の敗北は、敗北ではないのだから」
彼自身の生に意味はない。
「俺が為すことは未来永劫変わらないのだから」
彼自身の死に意味はない。
「俺の死は決して終わりではないのだから」
彼にとって全ては無意味だ。
「ここに理想は在りはしないのだから」
理想ならざるモノ全てに価値はない、妥協してしまえばそれは今までの行動が、全て無意味であったことを意味する。
ソレにとっては在ってはならない、最悪の事態。
「だから、世界の管理者よ……俺は造物主であるお前のために、全てを為そう」
故に彼に敗北はない、永遠に勝てるようになるまで強くなり続けるのだから。
望まれた役割はシンプル。
「俺こそが絶対的な、誰しもが憧れ崇拝する、史上最強の主人公」
「そうだ、強ければ強いほど、読者は、視聴者は、全ての観測者は喜ぶ」
けらけらと笑いながら、管理する側の存在はそう宣言する。
「ヒロインは、人気のあるものを他の世界から持ってくればいい」
悪趣味な笑いはただただ、自らの欲望に従いながら口にする。
「倒される悪党は、それこそアレの強さを引き立たせるためにこそ人気のある主人公を持ってくればいい」
自らの理想こそが至高にして究極。
故にこそ、その理想から外れる全てに価値はない。
「価値がないモノを利用してやるのだから、感謝こそされど非難される余地はない」
故に彼は絶対的なまでに独善である。
「そうだとも、絶対的な存在による、絶対的な傑作」
無限を捨て、絶対的な一となろうとする。
彼より下の可能性を拒絶する。
彼より上の可能性を否定する。
自分が望む全てが、たった一つで満たされる世界。
されどそれ以外の全てが存在しない。
「そう、ただただつまらない全てが存在しない」
だからこそ、彼の創り出す世界は、彼にとっては完璧なのだろう。
まるで造作もなく、適当に解答しても満点になるテスト。
その領域に至るための何かは欠片も存在しない。
「あぁ、だからこそそろそろ、くだらない駄作の最終回をしてやろう」
確かに、ソレはにやりと笑いながら二つの世界を見つめる。
愉快そうに彼は語る。
「古今東西全ての頂点、絶対的な百点満点だ。それさえあれば皆満足できるだろう」
まるで、彼の言葉を聞いている誰かに語り掛けるように、口にし続ける。
誰もいない空間で、しかし確かにどこかを見つめている。
「つまらない駄作など必要ないだろう?」
そして絶対に未知はそこにはない。
未知がないからこそ、そこに可能性は――。
「発展がない」
世界と世界の狭間、虚無の世界で男は笑う。
管理する者が、誰よりも上位のはずの彼が理解していない、最大の過ちを馬鹿にするように。
「偉そうに、自分が頂点だと、事実であってもそこで止まっては、後続に置いて行かれるだけだ」
永遠の頂点などありはしない、流行とは時の流れと同じく変わり続ける。
だからこそ、世界は進化を続けていく。
完全であってはならない、完璧であってはならない。
「それは、全てが終わってしまったのと同じだ」
男の手には、まるで子ども部屋の片隅に置かれているような――。
「ふっ、玩具と馬鹿にしたものではない、実に人々の心を震わせ続けた世界があるのだから」
カラフルな箱があった。
箱の中には無数の人型のロボットの人形が入れられていた。
一つ一つのロボットをよく見てみれば、塗装が剥げていたり、傷が入っていたりとお世辞にも良い場所で保管されていたとは思えない。
だがしかし、それらには大切に、無限の思い出が込められていた。
一つ一つのロボットが、どこかの誰かの大切な相棒であった。
「史上最強の主人公、実に面白い」
彼は、非道なる邪悪を睨みつける。
数多の英雄の全てを踏み台とし、誰よりも特別な立場を持つ。
その上で誰よりも愛される存在となろうとする彼の存在を。
「なにせ、比較対象がいなくなれば絶対にナンバーワンだ」
だからこそ、それはそこで止まる。
追い抜くものはいない。
――存在してはならないから。
故に山もなければ谷もない、ただただ平坦な世界がそこにはある。
――故に未来はない。
「前に進むことをやめた世界にあるのは、ただの破滅でしかない。競い合うからこそ未来があるのだ、争うからこそ、平和があるのだ」
男は胡散臭い笑みを浮かべながら、ただただ誰かを見つめる。
確かにそこに誰かがいるのを確認すれば、男の口は開かれる。
「それに、手札という奴は多ければ多いほどに、選択できる未来は増えて、よりよい可能性を掴みやすくなるだろう?」
男の言葉と共に、玩具箱の中のロボットたちの数はさらに増えていく。
あれが欲しい、これが欲しい。
強請りに強請ったあの日の少年たちの思い出が――。
自らの手で、家を支える立場になって、自分のためにあの日手にできなかった憧れを手にしようと、努力をした記憶が――。
全ての思いが玩具箱に集いゆく。
ならばその思いは、何故集められているのか?
「おっと、それは最後の最後のお楽しみ。だからここで見たことは、口にチャックをして誰にも言わないで欲しい」
誰かに向けて、男は唇を尖らせ人差し指を立てて見せる。
世界の中の人々が認識できない、虚無の世界の出来事から数カ月が経過した。
世界はまるで時が止まったように静かであった。
それもそうだ、世界各地でラビッシャーはおろか、エクスタームの出現が確認されなかったのだ。
敵が現れない以上、戦闘は起きない。
その間に百に満たない数の、アイアン・ウォー――ツギハギノヤマトの正式に与えられた呼称――が各地に配備されていった。
レジスタンスの中でも選りすぐりの精鋭たちは、十割の性能を発揮するために訓練を重ね続け――。
「俺たちは、できるだけ多くの人間を生かすために戦う」
アイアン・ウォーの搭乗者たちの耳に、一人の男の声が聞こえてくる。
誰であるかなどというのは言うまでもない、一号機であるツギハギノヤマトの搭乗者、鎧塚の言葉であった。
「ビートゥの差し向ける、エクスタームやラビッシャーの迎撃を俺たちは各地でし続ける」
その間に、諸悪の根源であるビートゥを殺す。
それを為すために魔鎧が行くのだと。
「だからこそ、お前たち! 死ぬなよ!!」
鎧塚の言葉と共に、上空十キロメートルの当たりで何かが発生した。
誰しもが理解した、発生したのは転移のために現れるゲートのようなものだ。
問題はその数、至極当然の様に計測不可能という事実が付きつけられる。
この日この瞬間、一つの世界の終わりの始まりと、一つの世界の始まりの終わりが同時に来た。
【アイアン・ウォー】
ツギハギノヤマトの正式な機体名。
使用している部品がエクスタームの残骸であることから、実は一つ一つの性能が大なり小なり異なるという特徴がある。
逆説的に全ての機体が専用機であり、パイロットのためのワンオフ品。
また、各機できるだけデザインは同じようにしているものの、細かい所も見てみれば同じ機体は、見た目の面でも存在しない。




