幕間 あの日の続き、鋼の意思
夢を見た。
世界が滅びる悪夢の日を。
戦う術のない少年は、神の如き力を振るう、ただ滅びを求める存在に殺されるだけだった。
そんな悪夢が終わる日が来た。
滅びの力の前に、鋼の勇者が立ち向かった。
それも一つじゃない、無限にも等しい数の彼らが、臆することもなく立ち向かった。
あれからどれだけ年月が経ったことだろうか。
彼はあの日の決心を今も持ち合わせていた。
彼らのように格好いい、鋼の巨人を作り上げようと。
気が付けば、あれよあれよという間にゴウザンバーという、鋼の勇者が誕生し。
自分のミスが原因で、最悪の事態の一歩手前まで行ってしまったものの、それでも自分たちの世界の、くだらない戦争を終結まで導けた……と、少なくとも彼は考えていたし、彼は人々が愚かではないことを信じていた。
ネルトゥアーレ皇国の人間も、指導者であったビートゥがいなくなったのであれば、もう抵抗はしないだろうと、無意味に命を奪い合うこともしないだろうと
どちらにせよ、少なくとも自分たちの世界をビートゥの魔の手から救ったのだ。
そして、新たな世界でビートゥに抵抗する異なる勇者も誕生した。
ビートゥの力は強大であっても、それでもあきらめずに立ち向かい続けようと、そう考えていた。
彼はそんなときに――。
「変なところ……あぁ、夢か」
気が付かぬうちに、視界の全てが白の、地平線すら見えない場所に立っていた。
自分がどこにいるのか分からない、何が起こるかもわからない、けれども彼は――。
「……どこか、安心する場所だな」
軽く呟きながら辺りを見回す、そこには何もなければ、誰もいない。
「よく来たね」
けれども、確かに声が聞こえてきた。
どこか優しい声だった。
どこか頼もしい声だった。
どこか力強い声だった。
そしていつか聞いた声だった。
「待っていた、ってことか」
「あぁ、兄弟」
クレアーツィ・プリーマに血のつながった親族は、現在時点で存在しない。
父も母も死んでいるし、あの二人に自分以外に子供がいたという話も聞いたことはない。
だからこの声は、血族という意味でクレアーツィの兄弟では断じてない。
それでも彼は、いや――。
「そうか、ライバル」
彼らは兄弟で、ライバルで、仲間たちなのだ。
「ここに来てもらったのは他でもない」
最初に聞こえた声とはまた別の声が響く。
男の、女の、子どもの、大人の、老人の、無数の声が響き渡る。
その全てが、最初の声と同じ存在。
「……全ての世界を巻き込む過ちが起きた」
「過ち? それもそんな規模のか」
そんな彼らの中から一人の声が代表、というよりも事態を把握している数少ない存在として声をかけてきた。
「自らの望む世界を生み出したいと、そう望んだ管理者がいた」
言うなれば、自分の理想を追い求める創造者の誕生。
それだけならばたいした問題はない、というよりも問題になる要素は欠片も存在しない。
世界の誕生などというのは、それこそ赤子の手をひねるよりも容易な話であり、珍しくもないごくありふれた現象。
認識さえしてしまえば、新しい世界が生まれたことについて何かを思うことなど、何処の誰も思うことはしないだろう。
一回一回の呼吸に感謝する人間などそうはいないのと同じことだ。
「その世界を作るために、異なる世界の因子を持ち込もうとした」
「異なる世界の因子……それを持ち込むために、まさか――!?」
若い男の声が告げた内容も途中で、クレアーツィは理解できた。
できてしまった。
「因子を得るために、異なる世界は滅びていった」
「……滅びた、か」
世界から因子を取り出すために、世界を壊したのだ。
それは取り出す方法がない貯金箱を中のお金が欲しいから破壊する行為。
壊れた貯金箱はもう二度と戻らない。
「そしてその創造主は――」
決して満足できない。
理想を追い求めるがあまり、理想ではない全てを犠牲にして、自分の理想を作り上げようとする。
だが、理想のモノではないモノから、理想そのものが生まれることなどありはしない。
そして性質が悪いことに、その相手は妥協をすることはない。
いや、ただ一人で行動すると決めた以上、妥協というものを知らないのだ。
「奴の野望が達成されることはなく、残るのは無ただ一つ」
故にこそその野望を止めなければならない。
命に代えても阻止しなければ、全ての命が奪われる。
「そのためにも、力を――」
「貸してほしい」
語られる声を遮るように、クレアーツィは手を伸ばす。
頼まれなくてもやるのは当たり前だ、むしろこちらから手を貸してほしいと頼むべきだと。
彼の言葉に、無数の声は笑い始める。
「やはり、君もそうだったか」
クレアーツィが告げた言葉に、彼はどこか満足そうな声色で告げる。
この心意気がなければ、スーパーロボットのパイロットは務まらないとでも言うかのように。
彼の言葉と共に、クレアーツィは意識を現実に引き戻す。
彼の視界が鮮明になると共に、レジスタンスの拠点。自身が与えられた寝室の中、それもベッドの上だと思い出す。
意識が鮮明になると共に、逆に夢の中で何があったのかを思い出せなくなる。
ある意味ではよくあること、それでもただ一つ、夢を見る前と変わったことがあることを自覚していた。
「俺たちは孤独じゃない、あいつと色んな世界の人たちが戦っているんだ」
故にこそ彼は、もう何があっても倒れない。
見えない誰かが支えてくれていることを自覚したのだから、立ち向かうことを恐れはしないのだ。




