幕間 夢の玩具箱
これは魔鎧戦記が始まる前の話。
人の心は無限の可能性を作り続ける。
あの時ああしていればよかった、あの時ああだったら。
それこそが可能性、誰かが望めばたったそれだけで世界は分岐していく。
そして心が世界の可能性を広げるのならば、誰かが思い描いた空想すらも世界を生み出してゆく。
そんな空想で生まれた世界を楽しむ者がいる。
世界と同じように人々の願望が生み出した力や道具。
無限の可能性から、無限の世界が生まれ続ける。
そして世界を管理するモノたちは、世界を娯楽として見守ることとした。
ただ管理するだけ、そんな彼らも娯楽としてではあるが、世界を楽しむことで、世界を愛するようになっていた。
可能性が更なる可能性を生み出した。
その多くの世界はハッピーエンドを迎えた、それはそうだ人々は頑張った者たちが報われることを望んでいた。
だから彼らも頑張った。
管理するモノたちも、英雄たちの活躍に手に汗握り応援した、彼らは管理するモノであって、干渉するモノではない、たとえ始まりが誰かの空想であっても、それぞれの世界は確かに本物で、それぞれの世界の彼らの活躍も本物であった。
けれど、あるモノはそんな人々の理想に飽き飽きしていた。
想像の力は時には、無秩序に使われることもあった。
あまりにもその世界から見れば現実離れした空想、それが無制限に使われている中で、ソレはこう語った。
「これ以上増えてしまえば管理するのに疲れてしまう、だから面白い世界だけを残そう」
だが当然のこととして、面白いと感じるポイントは人それぞれ、管理する彼らもまた同様の話であった。
故にこそ、決着など付くはずはない。
そもそもその世界に生きている命は確かに本物である、管理するとは言え好き勝手に奪うことも許されない。
だから彼の言葉は、言うなれば無視されてしかるべき言葉である。
ただただ全ての世界を補完することだけが役割なのだから。
「だが無意味で無価値な世界が増えれば、我々はいずれ膨大な管理を続けるだけとなるぞ」
くだらない話が過ぎた中で、ある管理するモノはこう語った。
自分たちが世界を作り出すことはできないか。
「それはできない、私たちにはそれをするための想像力がない」
だからこそ、想像力が生む世界の数々を素晴らしいと認識するのだ、自分たちにはできない事だからと付け加えた。
外部からの干渉は好ましくない、そしてそもそも干渉すること自体しようとするモノもいなかった。
ただ一つ除いては。
「自滅した世界ならば、それはそれとして流されるだろう。そして滅んでしまえば――」
管理の必要はないとスルーされるだろう。
であるのならば、その世界の住人として世界を滅ぼす存在が必要になる。
故にソレは管理するモノの立場で、世界を滅ぼす者となった。
皆で決めるから、不要な世界を決めることはできなくなってしまう。
であれば、一つの意思で決めればいい。
管理するという上位概念が定めた者が滅ぼすと決める、ならば下級概念の世界の住人がどうなったとしてもかまわないのだと。
「そして、想像力が不足していたとしても、素晴らしい世界は生み出せる……既に素晴らしい世界をモデルに、より優れた役者を用意すればいいのだから」
だからこそ、彼は無数の世界の中から無価値だと認識した世界を対象とした。
その対象とは――。
「ヒーローなどという、子供騙しのくだらない幻想、そしてその上で巨大なる玩具で戦う……薄っぺらい幼稚なモノではないか。それで戦争をしている? さらにバカバカしい」
鋼の巨人が、何らかの敵と戦う世界群。
最初そのような世界が誕生した時は、管理するモノたちが喜んで楽しんでいた、しかしそのモノたちが他の世界を見るようになり、今では見られることが少なくなった世界。
ならばそれらから消してしまえば問題ないだろうと。
「なに、使える役者は新しい世界に配置してやるさ」
故にこそ、その使える役者を見極めねばならない、その世界に生きる一つの命として。
だから彼は自分の分身を一人、ある世界に放り込んだ。
一人増える程度であれば、他の管理するモノたちもそう気が付かない。
なにせ、人間の人数など気が付けば増える数字にすぎないのだから。
「神が如き力を振るい、誰しもに崇められる存在だ、誰しもがそれを当然と認識する力だ」
そんな存在を、非道なる心と共に世界を破滅へと導く存在として送り込んだ。
「その間も私は世界の管理をし続けよう、より素晴らしい世界を構築する参考のために」
送り込んだソレが、世界を滅ぼした数を数えるのも、バカバカしくなるほどの数になって少し経った頃だ。
【てめぇが何をたくらんでいるのか分からねぇが! この俺と――】
上位概念が丹精を込めて生み出した、世界を滅ぼす力の持ち主が、スーパーロボットを操るヒーローに負けたのだ。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざっ――」
彼にとって想定外の出来事であった。
神をも超える力を持つ、などとその世界で呼ばれていた……、管理するモノたちは世界の中の人間にとって神にも等しい、であるのならば――。
「既にそこまでの力を生み出す可能性を想像していると!?」
バカバカしい妄想だとは言えない、神のごとき力を持つソレだと、そう認識していた中で、管理する者はある世界を見た。
死者に、もう一度の生のチャンスを与えた世界を、それも非常に強力な力を与えるという手法で。
「……死ねば次の世界に転生させ、さらに強くしてやればいい、いずれはアレも滅ぼせるか」
あの日からさらにバカバカしくなるほどの数の世界が滅んだ、そして嫌になるほどに非道なる者は死んだ。
管理する者は、他の管理者にバレることもなく、世界を滅ぼし続け、最初のターゲットととも異なる世界にも送り込むようになった。
これは魔鎧戦記が始まる前から、今も続く悪夢。
人々にとって終わらない悪夢によって、玩具箱の中の者たちが忘れ去られようとしていた。
その悪夢が終わる日を信じて、玩具箱の中から、機械の人形たちはじっと空を見つめていた。




