第78話 罪火の日
【人が乗っていることの意味】
エクスタームと違い、ラビッシャーは有人である。
これによって、エクスタームは同じ状況の場合、まったく同じ回答を出すが、ラビッシャーはそれぞれ異なる対応をする。
機体性能の差もあるが、この多様な対処の可能性こそが、ラビッシャーがエクスタームよりも脅威である理由である。
たった戦場に立つ者が変わった、無限に対して人数で見たとしても六人。
そうたった六人の参戦によって、戦場から地獄へと変貌した。
コキュートス、クレアーツィにその自覚があるのかはともかくとして、地獄の最下層を意味する言葉。
その名を冠する魔鎧の力は、一挙手一投足が必殺の一撃と化していた。
ラビッシャーの機体は掠ることすら許されない、圧倒的暴力の渦にいたことを理解する。
その上でなお、つねに大地から吹き上がる地獄の炎が、放たれる多種多様な射撃の全てをシャットアウトし、接近しようとすれば炎そのものに焼かれる。
絶対的な強者の姿か?
否、それだけであれば英雄に打倒される怪物となり得る。
大切なのは魂の在り方、たとえどれだけ劣勢であろうとも、どれだけ困難な道であるとしても前に進もうという意思、成し遂げると決める魂の存在。
言うなれば、英雄として立ち向かう志。
ゴールへと向かうための意思の力。
故にこそ、今の彼らを示す言葉はただ一つ。
「……これがヒーローの姿か」
「彼が言っていた通り、この姿は危険ね」
地獄から、塵芥を処理しに来た、清掃人。
そしてその根源の罪人を、地獄へと連れていくための英雄。
「……これでもまだ足りないんだろうなぁ」
たった一瞬で敵の半分が消滅した。
それらしい技ではなく、ただ腕を振るったというその行動だけでこれだけの成果を出しながら、クレアーツィは呟いた。
ゴウザンバーコキュートスの力は、まさに史上最強と言っても過言ではない。
最大出力で力を振るえば、世界というものを世界たらしめる壁を破壊し、さらには修復して見せた。
壁が壊れてしまえば、放っておくと世界そのものが壊れてしまう。
理屈の上ではシンプルな話だ、ガラス玉の中に水が入っている。ガラス玉が割れれば水はこぼれてしまう。
ガラス玉とは世界の壁であり、水こそが世界の中身。
ゴウザンバーコキュートスは、中身があふれ出さないようにガラス玉を破壊し、自身が入り込むと同時にガラス玉を修復した。
言葉にすれば簡単に聞こえるが、破壊した対象は人の認識できる領域にはない。
それだけの力を振るう存在からすれば、世界が破壊できない段階で戦うためのスタートラインには立てていない。
文字通りの塵芥同然に、ラビッシャーの機体は吹き飛び、捻じれ、捻り潰される。
されどそれほどの力を有したとしても、クレアーツィにはまだビートゥを仕留めることはできないと感じていた。
何を為せばアレを打ち破れるのか、と思考を働かせようとして――。
「クレアーツィ!! 今は戦闘に集中っ!」
「ッ!」
エストからの叱責が飛ぶ、今は目の前の敵へと意識を集中しろと。
「っ、悪い悪いっ!」
ゴウザンバーコキュートスの力は、目の前の敵を脅威とは認識しなくなっても仕方ないほどに強大だ。
だからこそ油断をしてはいけない、かつて自分たちが相手の立場だった経験があるのだから。
相手が何をしてくるのか完全に把握していない以上、どれだけ絶対的に優位な立場であっても万が一があり得る。
なればこそ、敵がこちらに来るための何かを破壊しなければならない。
「民間人も友軍もないんですわよね! でしたら竜希さんっ!」
「分かりましたっ、出力最大!」
しかしながら、エクスタームの時とは違い、敵一つ一つに共通点を探す方が難しい、故に観測を誰かが担当したとしても、探し出すのに時間がかかりすぎる。
ならばどうすればいいか、答えは実に単純な話である。
広範囲を一気に、それこそ隙間なく同時に攻撃すればいい。
広域殲滅、それも味方のことをまるで考えなくてもいい最大出力で。
単独だからこそできる、無茶苦茶な方法でなければ勝利は掴めない。
「……力があっても劣勢ってのはこういうことか」
「私たちが絶対に負けないとしても、それは負けないだけということですわね」
「……それこそ、こいつらを無限回倒しても、まったく勝利には近づかないってことよね」
力を得たとしても、それでも勝てないことを理解するように口にしながら、意識を集中させる。
攻撃範囲は視界に入る全て、攻撃威力は世界の壁が壊れないギリギリ。
本来ならば、たった一撃で戦争の土台をひっくり返す戦略兵器、それを一戦闘に勝つためだけに振るわねばならないという、ふざけた戦い。
「ザンバァァァァァァッ!!」
それを理解しながらも、為さねばならないことに怒りを込めながら、六つの叫びが世界に響き渡る。
振るわれるのは世界を壊しかねない、怒りの叫び。
「シャァァァァウトッ!!」
ゴウザンバーコキュートスの頭部、より正確に言えば人間の顔で言う所の口が大きく開く。
人間が口を開くときは大きく二つ。
一つはものを食べる時だが、魔鎧、すなわちロボットであるゴウザンバーコキュートスがものを食べるはずもない。
ではもう一つは何か、声を出す時だ。
ゴウザンバーコキュートスの放つ声、いや叫びであるザンバーシャウト。
声でワイングラスを割るなどという話があるが、ザンバーシャウトはそれを限界まで高めたといっても過言ではない、超音波の類。
特定の振動をぶつけることで、対応した物体を破壊するという攻撃手段なのだが、理論上破壊できないものはない。
無論その特定の振動を特定する必要があるのだが――。
「なっ、なにが――」
此度放たれる音という振動の対象は空間そのもの。
たとえどれほどに強固な防御能力を有していたとしても、存在している空間そのものを対象とした攻撃は防げない。
対象が何であったとしても、特定する必要は欠片も存在しない。
なにせ、そもそも相手が何であっても、攻撃しているメインの対象は空間そのもの。
一度空間を破壊する振動を特定していれば、どのような相手を攻撃する時であっても、同じ振動を使うのみ。
防御手段無し、攻撃力は実質無限にも等しい、超広範囲殲滅兵装。
耐える手段などありはしないそれによって、ラビッシャーの機体軍は例外なく消滅。
彼らのど真ん中にあった、空間移動のためのゲートすらも、文字通り消え去った。
「……こんな勝ち方しかできない、か」
自身の扱った兵器の恐るべき破壊力、空間自体は即座に修復したとはいえ、巻き込むものがないからこそできた戦法。
もしも、巻き込む誰かがいた場合これは使えない。
故に、これ以外の解決法を用意しなければならない。
勝てたが勝てていない、クレアーツィはこの事実をしかと胸に刻み付けた。
「ふむ、彼らしくないね」
空中に一人浮かび、離れた場所からゴウザンバーコキュートスを眺める胡散臭い男が一人。
クレアーツィたちの勝利を祝いながらも、どこか難しい表情でそう語る。
今の戦い方は肯定できるものではない、しかしそれでなければ勝つことはできなかった。
良くも悪くも最悪の状況。
「逆転の楔は既に、三百を超える……が、まだ足りない……なんとも最高にして最善、最強の一手……アレが認識していたとして、それでもなお対応しきれない手段を取らねばならない」
彼の視線の先にはなにもない。
されど、彼の心の目の先には無数の光が見えていた。
「人の持つ可能性、世界すら作り上げる想いの力」
一つ一つの光の中には、無限の力と可能性が籠められている。
そしてその一つ一つに鋼の勇者たちの姿があった。
「だけど、今ではその力も失われようとしている、かつてはもっと多くの光があったはずだ……だが、それも今では――」
彼の言葉と連動するかのように、無数の光が一つ、また一つと消えていく。
「……多様性の結果、いや逆だな……一つの流れに飲まれるかのように、可能性が失われていった」
その光は全てが、一つの世界。
その光が消えるとはすなわち、世界そのものが消滅することを意味する。
「……それでも、まだ人は想像にして創造の力を失ってはいないはずだ」
ぼそりと呟いた言葉と共に、男の姿はもともと存在などしていなかったかのように消え去っていた。
【ザンバーシャウト】
ゴウザンバーコキュートスの持つ、超音波砲。
対象が壊れてしまう振動を特定し、その振動となる音を放つことで対象を破壊することができる。
そしてクレアーツィは、世界の壁や空間そのものの振動を把握しているため、理論上は防禦不可で、攻撃力は実質的に無限とでも言うべき攻撃を可能としている。




