第7話 迫る魔の手、二大マギアウスト出現!
【リューション】
クレアーツィたちが住んでいる小国。ネルトゥアーレ皇国からは最も遠いどちらかというと田舎の国。
エストの家系であるファネッリ家が立ち上げた騎士団は大陸でもそれなりに有名な精鋭ぞろいの国であった。しかし皇国軍と連合軍との戦争が勃発した際先代騎士団長が戦死、エストが騎士団長の座に就く。
プリーマ邸には三人の人影があった。
「ほえー、転生者ねぇ」
一人はこの豪邸の持ち主クレアーツィ・プリーマ。
「いやいや、本当本当……って証明できるもんでもないしなぁ」
もう一人は財前寺竜希、遭難状態であった彼女は自らが転生者というものであることなどを説明していた。
「ま、どっちにしろこの大陸の外から来たって言うのは間違いないんでしょ?」
そして最後にこの国の騎士団長であるエスト・ファネッリ。彼女の問いかけに対して竜希は間違ってはいないと告げ。
「ま、運が悪かったな、この大陸は今は戦乱の最中だ」
話の流れでネルトゥアーレ大陸で起きている現状や魔導力の使い方についてを簡単に伝えていくと竜希は頭を抱えた。
「魔導力量がどれだけあっても威力とかには関係ないの!?」
「あー、子供のころは勘違いする子も多いんだよねぇ」
「魔導力だけじゃなにもできないからな、それを魔導石を使って事象を発生させるんだが、いくら量が多くても魔導石が受け止められない量を注ぎ込めば道具が壊れるだけ」
別の場所から来たという竜希に向けて行われる魔導石についての説明、石の許容量をオーバーしてしまえば魔導力が無駄になってしまうという話をすれば、竜希は頭を抱える。
「え、じゃあもしかして無駄なのこれ」
「とも限らない、例えば魔導具の中には大量の魔導力が必要となるものもある、大体は複数人で使うんだが、まぁ竜希なら一人でも動かせるってわけだ」
「魔導具の出力って問題なら使われてる魔導石と使用者の適性が合致するかー、とか使用目的と魔導石が合致してるかの方が重要ってだけよ」
なんて簡単な魔導力についてを説明しつつ、急にクレアーツィは真面目な顔で問いかける。
「それで竜希、お前はどうするんだ?」
彼女の発言を真に受けるのであれば、この世界に彼女を知る者はいない。
人間は他者との関り、つまりは社会の中で生きる生き物だ、大なり小なり何らかの形で他者とのかかわりがなければ生きていくことは難しい。
そんな中で竜希はその社会的立場というものが存在しない。誰かとの繋がりも存在しない。
彼女はこの世界で生きて行くのは非常に困難なのである。
「あ、あぁ……冒険者とか――」
「そんな職業聞いたこともないな」
「むしろその手の事ってお金持ちの道楽か、そんな立場の奴が信頼できる騎士とかが業務の一環でやることよね?」
現実というものは厳しいものである。竜希はこの世界の常識を知らない、この世界で助けてくれる人間がいない。なぜならこの世界で生きてきた時間がないから。
知りもしない人間のことを助けてくれるほど、お人好しな人間はそうはいない。
それを補えるのは相応の報酬が出る場合が大半だ、でも何も持っていない彼女が出せる報酬など真面な方法ではありはしない。
「……うぅ」
突き付けられる現実が竜希の肩にズンと重くのしかかる。
せっかくの第二の生、それなりに幸せに生きるつもりだったが、そもそも普通に生きることすら難しいと理解させられる。
都合がいい展開などというものはそうありはしないのだ、理解させられれば至極当然のモノ。
物語の主人公が如く、都合がいい展開などそうありはしないのだと絶望に打ちひしがれる。
「はぁ、それでお前の言う前世ってところでどれだけ学を持ってた、どれだけいろんなことを知っていた」
そんな彼女にクレアーツィは問いかける。お前の前世の知識はどれだけあるのかと。
「あの、いきなりどうしたんですか?」
「単純に生きるために必要な力を持っているかって話だよ」
知識は持っているだけで武器になる、それが役に立つ立たないは置いておいて。
「お前の前世の話とやらを聞く限り、少なくとも数字の数え方は同じだしありがたいことに加減乗除、つまりは四則演算は俺たちの世界もそっちの世界も違いはない」
「あ、そっかそれだけで―」
「数に関する仕事をすることは大なり小なりできる」
希望の光がそこにはあった、生きるための力が確かにそこにはあったのだ。
「少なくともお前の前世とやらの世界でこっちよりも明確に優れている点の一つ、学校に通う子供が大半ってのは武器になってるようだな」
クレアーツィは絶望の闇の中に手を差し伸べる、騙すようなやり口ではあるがそれでもまだマシな扱いであろう。
皇国に放り込めばろくでもない兵器の発想が渡る可能性もあるのだ。そしてそのろくでもない兵器のために利用される可能性もわざわざ考えなくても想像できる。
それほどに彼女の存在は大きなものになる、クレアーツィの考えていることをエストも理解していた。
「ちょいとひと暴れするんだが、魔導力量が多い奴が必要だ」
「よかったらだけどさ、大陸の皆を助けるの……手伝ってくれない?」
まぁ、そもそもの話で言えば例え彼女がそう言った力や知恵を持っていなかったとしても。
少なくとも、彼女を助けた二人は世間一般的には善人の類だったのだから。困っている彼女に手を差し伸べるのは自然な事だったのかもしれない。
「じょ、常識もない私でよかったらよろしくお願いします!」
「はい、という訳でマルチドラゴネット発進!」
「なにがはい、という訳でよ!? 無理よ!?」
当然の話ではあるが魔導力の問題が解決しても即座に行動に移せるわけではない。むしろもっと時間がかかると思っていたからこその問題が発生した。
「まぁ、食料とかいろいろと買いこまないとなぁ」
そう積み荷である。
「しかも乗り込むの俺とエスト含めて何人だっけ」
さて、改めてではあるが、魔導万能輸送要塞艦マルチドラゴネットは全長五百メートル、全高四百メートル、全幅四百二十メートルという巨大艦である。
居住区や格納庫などいろいろあるのだが、内容はともかくとしてそれだけの大きさだと掃除が間に合わない。掃除が間に合わないと生活環境が悪化するわけであり、生活環境が悪化すれば病気などが発生する。
さらに言えば一度出発すれば目的地に到着するまで食料の補給などは困難である可能性が高い、
などと手放しに問題なく動かせる状態では断じてなかった。
それではマルチドラゴネットに乗り込む人数はと言えば――。
「6人だよ」
むろん、この6人の内に医者はいない。
「となると、人手をもっと集めないとだ――」
そうクレアーツィが口にしたその時であった、少し離れた場所ではあるがとてつもない爆発音が鳴り響く。
「エスト! 竜希連れてマルチドラゴネットに避難!」
「ブリッジにいけって言うんでしょ?」
即座に二人は行動を開始、クレアーツィはゴウザンバーに乗り込み発進する。敵が来た、どうやらより早く移動を開始しなければならないようだ。
ゴウザンバーが発進し駆けつけた場所、そこプリーマ邸から少し離れたところにある町であった。
さしあたって何か特色があるわけではない、ごくごく一般的な、それでも人々が平和に暮らす活気にあふれた小さな町。
その町が――。
「燃えてやがる」
一面火の海と人々の泣き叫ぶ声が街を支配していた。目を背けたくなるほどの地獄絵図、だれもが絶望に染め上げられる世界、そしてその元凶は――。
「待っていたぞゴウザンバー」
一つは鋼の怪鳥、天高く全てのモノを見下すようにゴウザンバーを睨みつける。
「ここがお前の死に場所だ!」
さらにもう一つ、人型のソレは巨大な剣を肩に担ぎながら一気にゴウザンバーに向かって突撃する。
二機のマギアウストにより人々の希望は打ち砕かれた、されど悲劇を否定する者がここにいる。
このままでは終わらせないと叫ぶものがここにいるのだ。
「死ぬのはテメェらだ外道ども!!」
その惨状を見て、クレアーツィは猛る心の儘に構えを取るのであった。
【ザンバー】
クレアーツィの開発していた巨大魔導具の総称。
ネルトゥアーレ大陸の言葉で参る者を意味する言葉で人々のピンチに参る者として名付けた。
しかしながらその大半は皇国に設計図が盗まれており、マギアウストとして人々を苦しめるモノとして世に出てしまった。
そういう意味ではマギアウストはもはやザンバーではないと言えるだろう。