第73話 残骸の正義
【レジスタンスの技術者】
運がいいのか、それとも何かしらの意図があるのかは分からないが、クレアーツィの技術について行くことができるだけの、柔軟かつ力を持っているものが多い。
だからこそ、ツギハギノヤマトの建造において、クレアーツィの予定以上の速さで進めることができた。
クレアーツィ達の、ツギハギノヤマト計画は順調に進行していた。
端的に言えば利用するパーツに当たる、エクスタームの残骸がそれはもう大量に存在したことが原因である。
「……それはそれとして、どれだけ相手が用意してるんだって話なんだけどさ」
苦笑いを浮かべながら、それはもう呆れるほどに積み上げられたそれを見る。
片手で足りる回数の戦いだけで幾千の敵を、ちぎっては投げちぎっては投げ。
エポンとアーロの二人は疲れ果てていた。
「これだけの数を倒しても、減った気がしないとなると……本当に無限なのでしょうね」
無限の敵をどうにか打倒したとしても、戦いは終わらない。地球に平和も自由も返っては来ない。
何故か? 簡単な話だ。
無限からどれだけマイナスしたとしても、無限から減ることはないからだ。
だからこそ、大本であるビートゥを倒さねばならない……のだが、彼がどこにいるのかを誰も知りはしない。
そもそもの話として、相手を倒す前に守るべき人々がいなくなってしまったのであれば、例えビートゥを倒したとしても負けなのだ。
今開発されようとしている、新たなる戦力とは、その防衛のための力なのだ。
「とは言え、戦車より堅牢で、戦闘機よりも速く、攻撃ヘリと同様の動きすらもできる……操縦の問題さえ解決すれば、既存兵器のほぼ全てが無価値になるな」
「既存の兵器が勝っているのだと、小さいことか……と言っても、逆になぁ――」
「合体した、コキュートスだっけか? あれほどのサイズ差になると大人と子供……って言うか、大人とおもちゃのサイズ感になるだろ、そこまで来たら本当に遊ぶようにぶっ壊れるだけだからな」
「車とミニカーの差だもんなぁ、敵陣のど真ん中に真っ向から突っ込んで損害ほぼ無しで大暴れする相手と比較すれば、どんな兵器も玩具だな」
「根本的な戦い方が完成していないってのもあるだろうしな」
エクスタームの存在、そして新たな兵器体系が成立しようとしていることを受けて、レジスタンスの面々は、これまでとは違う戦い方をしなければならないのだと強く意識していた。
最終的には、今までの常識は全て捨て去らねばならない、という何度も確認してきた結論にたどり着いていた。そんな話をしている中で――。
「へー、そんな風に自分たちのやり方を捨てられるんだ」
「なっ、どうしてこんな所にガキがいるんだ!?」
彼らの視線の先には、厳重に隔離されているこのエリアにはいるはずのない子どもがいたのだ。
パッと見た印象としては十代前半、とは言えその相手が本当にその年齢かどうかというのを彼らは信用していない。
というのも星川未来、いやこの場合は魔法の国のお姫様と言った方が正確か。彼女は自身の年齢は外見とはまるで一致しないと告げた、端的に言えば魔法の国の人間は寿命がとても長く、それに比例するように老いも遅い。
地球人星川未来としては外見相応の年齢で問題ないのだが、魔法の国のピュアグリッターとしてみた場合、彼女は一気に年齢が上昇するのだ。
そんな事例を聞いていた彼らは、目の前の相手を外見で判断しない。
外見で判断することの無意味さを理解しているからだ。
そもそも既に一度、常識という眼鏡越しに、相手の外見を見て侮った結果が今なのだ。
「……ふーん、まぁなかなかに楽しめたよ」
「がっ……き、きさまぁっ……」
「安心してよ、殺したりしないさ……たとえ相手が敵でも、殺さないで済むなら殺さないのがベストでしょ?」
倒れ伏すレジスタンスの人々を、文字通り尻に敷きながら少年はそう語る。
「それにさぁ……俺がしたいのは楽しいバトルなんだ、自分たちの中に絶対に折れない芯を持った奴のね」
にやにやと馬鹿にしたような笑みを浮かべた少年は、ひょいと飛び上がっては凡そ十メートルほど離れた場所に――。
「き、きさまァッ!!」
建造途中のツギハギノヤマト、この世界の希望の傍に着地する。
笑みはそのままに、何をするでもなくじろじろと見ているだけの少年。
彼が近づこうとした――。
「でやぁぁぁぁぁッ!!」
次の瞬間の事であった。
人間一人分ほどの鉄塊が……剣が目の前に振り下ろされたのだ。
「はーっ……はーっ……、侵入者が……来たって、未来が……占いに出たっていうから……来てみたら、ビンゴだったわけね」
駆けつけたのは一人の少女、いや剣神の刃。
緊急事態を察知したが故か、息も絶え絶えになっているほどに焦って来たことが見て取れた。
「あー、お姉さんが……ネルトゥアーレ大陸の剣聖、リューションの騎士団長、エスト・ファネッリ……」
「……あら、この世界で私を正確に知っているだなんて、何者なのかしら?」
少年の言葉に、明らかにこの世界の人間が持っているはずのない情報が含まれていた、故にこそエストの剣には、敵意ではなく殺意が宿る。
戦争をしていた者として、相手への油断は捨てる、慢心は捨てる、少なくとも鍛えられている面々が一方的に叩きのめされていたのだ。
(少なくともまともな子供じゃないし、この世界の人間でもない――)
即座に思考を切り上げる、相手が何であろうとも、何かをさせなければ問題はない。
「僕? 僕は――」
少年が口を開くとともに、消えたのだ。
(っ、視線はそらしてない、瞬きもしてないッ)
されど、確かに前兆すら発生せずに少年は消えたのだ。
「主人公になれなかった、負け犬の一人さ」
だがしかし、即座に少年の言葉は傍に聞こえた、傍にいたのだと――。
「そこぉぉぉッ!!」
理解出来れば、それだけでエストには問題はなかった。
剣に力を込めて振るえば、少年が軽く跳ぶことで距離を取った姿が現れた。
このまま進めば確かに真っ二つにされていたであろう軌道を描いていた。
「ひゅー……僕が見えてたの?」
「全然見えなかったに、決まってるじゃない」
まるで当たり前のことを語るように、エストは再び現れた少年に語る。
自らを負け犬と称した男が、不可思議な何かをしている。
(……目で追えないほどにバカみたいな速さ、いや違うわね。これなら物凄い風が発生する……マギサザンバーがそうだもの)
何が起きていたのかを、エストは頭の中で整理する。
超スピードだというのであれば、明らかにおかしな点が多すぎる。
(ただ見えなくなるだけ……とするには、気配迄消えたことに納得がいかない)
まるで本当にそこにいなかったような、そんな錯覚を抱きながらも、確かにここにいたことを頭の中に刻み付ける。
いなくなったが、そこにいた。
矛盾しているように聞こえるが、確かに矛盾していないのだと刻み付ける。
「どんな訳の分からない手品使ってるのか知らないけど、そんなインチキ使わないと私の相手ができないって?」
「あぁ、そうだよ、こんなインチキみたいなことをしないと、君たちの舞台には立てないんだ、ツギハギだけどさっ!」
少年の言葉と共に、再び姿が消える。
足音もしない、気配も感じない、風すらも起きない。
そんな相手が、何をしでかすのかも、想像すらできない。
(……本当に想像できないの?)
いや違う、想像できないはずがない。
何故奴がここに来た、何をするためにここに来た?
少し考えればわかること――。
「それかぁっ!!」
ツギハギノヤマトと仮称された、新たなる鋼の勇者のコックピットに向かって、エストはすさまじい速さで飛び込む。
「いっ!?」
次の瞬間、彼女の軌道の先にあの少年が現れた。
【ツギハギの負け犬】
突如現れた少年が、自らを示した言葉。
何者なのかを理解するために必要なヒントのようなものと考えられる。




