第71話 雷槍戦線異状アリ
【カバリオザンバーの弱点】
他のザンバーと比べて(四足故に)奥行きがあるのだが、それによって重量が増加してしまう。
しかしながら、この機体に求められたのは絶対的な機動力。可能な限り軽量であることが望ましかった。
故にクレアーツィはできる限りの軽量化を行ったのだが、その結果として装甲が他のザンバーと比べて格段に薄いものとなっている。
他のザンバーでは耐えられても、カバリオザンバーが耐えられるとは限らないのだ。
「スーパーロボット相手に持久戦? とんだバカか、もしくはリアリティとリアルを混同した間抜けの言葉だ」
レジスタンスのある兵士はそう語る。
結論から言えば彼の言葉は概ね正論と言えるだろう。
持久戦というのは、別の作戦を支援する、味方の増援が来るまで耐えるなどの時間を稼ぐことが目的で行われるものである。
では何故彼の語るスーパーロボット、即ちザンバー相手のソレはそこまで言われるのか。
シンプルな話である、耐えられないのだ。
城や要塞などの防御施設を攻略するのは困難だからこそ、持久戦というのは優位に働くのだ。
そんなものを意図も容易く消し飛ばすような相手に、持久戦は有効ではない。
時間を稼ぐことができないからだ。
「やはり限度は無しっ!!?」
では、ザンバー相手の持久戦とは行ってはならない愚策か? 答えは否。
魔導力という、人間の体力と同様の代物で動くザンバーは、継続して戦える時間が決して長くはない。
無論転生者という、異常なほどの魔導力量を持つ者であれば、その時間は非常に長くはなるものの、それでも一応限界はある。
問題としては、も生半可な数では、その時間を稼ぐということが成立しないことである。
では、その数が無限であったならばどうであろうか。
(……疲労による敗北、か……何千、何万、いや何億とぶつけられればそうもなるっ)
戦闘中は極限の緊張状態が維持され続けている、そう言っても過言ではない。
そんな状態で、しかもミスが許されない、どれだけの時間堪えられるであろうか。
そんな状態をどれだけ続けていられるだろうか。
(おかしい、あまりにも――)
遅すぎる。
戦闘が始まって既に一時間が経過した。レジスタンスの拠点から、距離にしてもそう遠く離れているわけではない。
もっとも速いマギサザンバーの移動ルートも、カバリオザンバーのそれとそうは変わらない。
少なくとも、戦闘が始まっているのに気が付かないほどに距離が離れているなどありえないのだ。
「……無限の数で、各場所で持久戦をしてるっ!?」
だからこそ、理解した。行ったり来たりするだけで、気が付かなくなるほどに集中するなどありえない。
(少なくともこっちに来るクレアーツィ達と、マギサザンバーの足止めはしている……っていうのは間違いないか)
である以上、結論としては絶対的劣勢。
東京奪還で言えば、合体形態という方法で観測だけをする要因が生まれたが故の勝利。
ここにはエポンしかいないのだ。
「それがどうしたっ!!」
だとしても、エクスタームの砲撃の全てをすり抜け駆け続ける。
嵐の前に、どれだけ高い壁を立てたとしても、嵐を食い止めることはできない。
彼女は尚も走り続け、貫き続ける。
「私は、走り続けないといけないんだっ!!」
誰も彼女を止めることはできない、止まる時は彼女自身が自らの罪を許した時か、さもなくば彼女自身が死んだ時のみ。
立ちはだかる鋼の玩具は、心を持たない。
だからこそ、彼女のその振る舞いに怯むことなく、ただひたすらに砲撃を放ち続ける。
機械的な殺意の雨の中、ただただ鋼の戦馬はすり抜けるように走り続け――。
「があ゛っ!?」
その足は無理矢理へし折られ、砕かれた。
彼女の精神力がついに限界を迎えたのか、それとも彼女の走り方を解析されつくしたのか、いずれにせよ、もう彼女は死んだも同じであった。
走れない戦馬は、無数の砲口を突き付けられる。
「……裏切り者の末路って考えたら、こんなものなのかもね」
どこか呆れたような、自分を自嘲するように彼女はそう語る。
裏切り者の卑怯者、どっちつかずの彼女は、レジスタンスの語るこの世界のおとぎ話を思い出させた。
卑怯な蝙蝠という、鳥と獣の間で、裏切り続けた蝙蝠は、最終的にどちらからも拒まれた。
だからこそ、人に背く裏切り者はどちらからも追いやられる。
「……私もそう言う末路だったというだけかな」
だから、蝙蝠が困っていても、誰も助けてはくれない。
同じようなことをしていた、エポンが困っていても誰も助けてはくれない。
「ザンバァァァァっ! ブレェェェェス!!」
筈はなかった。
例えどのような相手でも、困っている相手がいるのであれば――。
「ヒーローは助けに来るっ!!」
巨竜の咆哮と共に、無数の雑兵が消し飛ばされて行く。
当たり前だ、カバリオザンバ―にすら翻弄されていたエクスタームで、ザンバーでも最も巨大かつ、強大な力を持つ、ドラゴニックザンバーの相手になるはずがない。
一挙手一投足がエクスタームを粉砕してゆく。
「竜希ちゃん、ど、どうして――」
駆けつけた相手に対して、まるで理解ができないとばかりに問いかけるエポン。
どうしてここに来られたのか。
どうしてここに駆け付けてくれたのか。
どうして、マギサザンバーではなくこちらに来たのか。
何もかもがエポンには理解できないでいた。
「そんなの簡単、仲間を見捨てる奴がヒーローであるもんか」
竜希は語る、ヒーローとは何たるかを。
「一度裏切られた? その程度で見捨てる奴は格好悪くてダサい奴っ!」
ヒーローとは格好いいモノだろうと。
「エポンは自分の強さをしっかりと、私たちに見せつけてくれた!!」
「っ!」
それに、あんな風にちゃんと自分の力を発揮してくれていた、理解させてくれたのだ。
「そんな格好いい人を見捨てるなんてありえないよね!」
彼女の言葉とともに、カバリオザンバーを格納する。
「さぁ、ドラゴニックザンバーの……仲間という逆鱗に触れたんだ!」
竜希の表情が、怒りと憎悪に染まってゆく。それほどのことをしたのだと、見る者がいない操縦席で態度に示す。
「お前たちなんてっ! 粉々にして! 混ぜ合わせて! 伸ばして! コネコネしたら、そのまま焼いてやる!!」
(……あー、そう言うセリフ言い慣れてないんだなぁ)
竜希のなんとも見当違いな言い方を見て、もともと戦う人間ではなかった彼女を、エポンはどこかほほえましく思っていた。
「こんな人ですら、戦わないといけない悪……か」
そしてその上で、彼女のような人間ですら立ち上がる、それほどの悪に手を貸していた自分の存在を恥じるように、ただ身を任せていた。
ドラゴニックザンバーという、最後の切り札の力は強大であった。
どうしても倒しても倒しても、増援の数が増殖し続けるという事態が、カバリオザンバーの苦戦を招いていたのだが。
「無限に増援が現れるのなら、それ以上の速さで敵を倒し続ければ、いずれは何処を叩けばいいのかは分かる!」
有言実行とばかりに、広範囲のエクスタームをまとめて薙ぎ払い、焼き払う。
仮に一秒につき、一機のエクスタームが現れるのだとした場合、彼女はその倍以上の速さで撃破し続ける。
そうすれば最終的には出てくる場所も見えてくるという訳である。
「そこっ! ザンバァァァァ!! クラァァァァァッシュ!!」
見えた歪みに向かって、鋼の巨竜は大きく口を開ける。
そして次の瞬間――。
「いっけぇぇぇぇぇっ!!」
空間事、その歪みを喰らいつくした。
現れるその場所ごと、粉砕されてしまえば、出てくることはできしない。
そして出てくることができないのであれば、無限の軍団と言えども何もできはしない。
後は残っている敵を殲滅するだけの話、その巨体を生かして軽くひと暴れするだけでエクスタームの軍勢は破壊され続けていく。
後に残るのは破壊の爪痕と、巨竜の勝利の雄たけびただそれだけ。
残骸を回収しては、拠点へと向かうソレ。
「……あーらら、あんなのがいるのか」
ドラゴニックザンバーの背中を見て、どこかから現れた人影がぽつりと呟いた。
【ザンバークラッシュ】
ドラゴニックザンバーの頭部に搭載されている武装。
噛みつきとでも言うべきその攻撃だが、口の中でザンバーブレスを当て続けることによる空間消滅という荒業。
理論上は耐えることはできない……のだが、噛みつきの段階を堪えることができれば、意外とどうにかなる攻撃ではある。とはクレアーツィの発言である。




