第69話 凱歌を揚げろ!! 東京奪還作戦の祝い
【ゴウザンバーのうた】
作詞作曲クレアーツィ・プリーマの楽曲。
そう言った才能があるのか、それともどこかで学んだのかはさておき、ゴウザンバーを称える歌。
当人曰く、「こういった歌がある方が子ども受けがいい!」という理由で制作したとのこと。
東京奪還、レジスタンスの面々にとって叶うはずのないと、どこか諦めてしまっていた悲願。
それが今達成された。
しかも住んでいた住民たちも、無事解放することに成功、これによって一気に千万人規模での拡大が成功した。
「……いや、これは一気に増えすぎじゃないか?」
「この国は元々一億人規模の国民がいる国だ、まだまだ始まったばかりだぞ」
「そんなに!?」
世界が違う故に、人口の多さに驚きを隠せないクレアーツィ。
ネルトゥアーレ大陸での感覚で言えば、千万人というのはそれなりに大きな国の人口。
億とまで来ると、最大規模の国家である、ネルトゥアーレ皇国でギリギリそのレベルといったほどである。
そしてそのレベルの国家が複数あるというのだから、彼にとっての常識からみると理解を超えていた。
「国によっては十億を超えている国もあったんだぜ」
その反応を楽しむように、鎧塚はクレアーツィに告げていく。
無論のこと、クレアーツィの常識からかけ離れた言葉には、驚きというよりもむしろ嘘をついているのではないかと疑いの視線が向けられる。
そんな彼の様子を見ていたのか、想定外の方向から言葉がかけられた。
「あー、世界は違いますけど地球なら十億規模の国は、私の世界でもありましたね」
財前寺竜希、こことは異なる地球出身の転生者。
彼女の言葉を聞いてしまえば、鎧塚の言葉も嘘ではないのだと納得せざるをえない。
クレアーツィにとって、それほどまでに仲間との信頼は大事なもの。だからこそ、容易く納得することができた。
「それにしても、それだけデカい国になると、いろいろと面倒ごとも多いんじゃないか?」
「ま、じっさいどこの国もいろいろと面倒なことはあった。今よりは絶対にマシだけどな」
軽い雑談を交わしながら、彼らは自分たちの拠点へと戻る。
自分たちが、どれほどに歓迎されるかも想像できていない様子で。
「初勝利おめでとー!!」
クレアーツィ達が拠点に戻れば、無数のクラッカーが鳴り響くと共に、歓迎の声がかけられていく。
クレアーツィ達は、良くも悪くも大陸で似たような経験をしてきたがゆえに驚きも少ない。だが、レジスタンスの面々は変わってくる。
こんな扱いは初めてなのだ。異なる世界であっても、既に英雄であった者たちと、初めて英雄になった者たち。
感じるものが違っても至極当然であった
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
だからいい歳したおっさんが号泣していても、それはそれとして受け入れられた。
「……うわっ」
筈もなく、軽く引く者たちの方が多かった。
さすがに、喜ぶのは分かるが限度がある、そんな反応が多くを占めてしまっていた。
おっさん達は泣いた、会場の隅の方で声を殺して泣いた。
クレアーツィは心の中で一つ決心した。
(ああいう扱いされるおっさんにはならない様にしよう)
そんなバカバカしい思考などさておき、面々は飲めや騒げやとと大騒ぎ。誰しもが歓喜に震えていた。
「……それで、あれだけデカい領域を取り返したんだし、あっちを拠点にするのかしら?」
祭りも始まって一時間が経過したであろうか、それだけ時間が経っても人々の熱狂は止まらない。
それでもなお、次の戦いへと備える動きは必要である。
だからこそ、代表であった鎧塚に対しエストは問いかけた。
「……とりあえず、俺はそのつもりだ……住環境で見てもこっちよりあっちの方がいいだろ」
レジスタンスの全てが兵士ではない、子供がいることからもわかる通り、どうにか逃れた人々をビートゥの魔の手から守ることの方が基本であった。
これからのレジスタンスは前線で戦うものたちとなる……そんな最前線に子どもがいるのはよくないという判断も含まれている。
「……あヒゃひャひゃッ……まじメなはナしひテるのキゃぁ?」
そんな二人のモノに、赤い髪にも負けないぐらい真っ赤になった顔の男、クレアーツィが声をかけてきた。
「うっ、さけくさっ……って、まさかこいつに酒飲ませたの!?」
「ん? 年齢的にも問題ないと思ったんだが……リューションの民ってのに酒はまずかったか?」
「リューションの民に酒は全然問題ないわ、問題があるのは――」
エストは苦笑いしながらピンと指をさす、呂律も回っていないままに、ビール瓶片手に虚空を見つめている男を。
「この頭がいいバカだけよ、こいつ……めちゃくちゃ酒に弱いのよ! それも、ありえないぐらい弱いくせして、意識が飛んでるから覚えてないのよ!!」
「……あー」
より正確に言えば、酒に弱いが強い。いくらでも酒が飲めるくせに一瞬で酔うのだ、それもあり得ないレベルで。
「リューションの第三王子の誕生日の式典、あいつも呼ばれたけど大変なことになったのよね……」
どこか遠い目で、現実逃避をしようとするエストの姿。それを見てしまえば鎧塚もどこか顔色を青くする。
王族の式典でやらかした男だ、たかだかレジスタンスの宴で、やらかさないと考えられるはずがない。
「ヨーひっ……ウラウロー!!」
クレアーツィの呂律の回っていない宣言と共に、何処からともなくちょっとしたステージが出現する。
「……あいつ、いつの間にこんなもん用意したのよ!?」
当たり前だが、クレアーツィが戦場から戻ってきて作る時間的余裕は存在しない。
さらに言えば残っていた面々も作っていない。
明らかに無から出現している事実に、エストは再び頭を抱える。
見てみればアーロと未来は、子供たちと触れ合っているのが確認できた。
本物のお姫さまだからか、子供たちも二人を慕っている様子が見える。
「イッチュ! ヒョーライム!!」
それと共にどこからか、軽快な音楽が流れ始める。
エストはもう考えるのをやめた。
第三王子誕生日事件の再来かと思えたのもある。だが、一応この祝いの席の主役の一人なのだ、好きにさせてやろうと決めた。
「タヘー! ハカレロユウヒー!!」
……呂律が回っていないままに、恐らくはオリジナルのゴウザンバーのテーマ曲を歌う姿。その姿が、エストにはどこか懐かしく思えてきた。
戦争なんかではなく、夢を追い続ける少年だった彼の姿を。
エストの初恋の人は、と言われれば彼女は迷うことなく、クレアーツィであったと告げる。
たとえバカバカしい夢であっても、愚直なまでに挑戦し、確かに結果を出し続けた彼の姿は、彼女にとってヒーローであった。自分も夢を追い続けよう、そう思わせるだけの力があった。
結局のところ、彼の隣に自分は相応しくない。自分でそう決めつけてしまっていた。
挫折し、現実によって夢を諦めてしまった。だからこそ、現実を蹴り飛ばし、自分で新しい現実を突き付け、どこまでも突き進み続ける彼の姿は、眩しすぎて直視できない太陽であった。
「……それでも、あいつはずーっと傍にいてくれたのよねぇ」
気が付けば、子どもたちも彼の下に集まって、一緒に歌を歌っていた。いや、子どもたちだけではない。
エスト以外の仲間たちも集まって、共に歌い踊っている。ここまでお膳立てされたのだ、混ざりに行くのも当然の流れであり――。
「ラーンドアーップ!!」
クレアーツィがゴウザンバーに乗り込んだ姿を見て、頭を抱えさせられた。
酔っ払いが操るゴウザンバーは、確かにリズミカルに舞い踊って見せた。
そして、揺れに揺れたのだ。
「オロロロロロロロロロロっ」
クレアーツィはそのまま、ゴウザンバーのコックピットで全てを吐き出していた。
四つん這いになっているゴウザンバーの姿を見て、誰しもが理解していた。
「第三王子誕生日事件と同じじゃないっ!!」
エストは、あの日の事件を思い出しながら涙目で叫んだ。
(そうよ、こいつのこういう所でヒーローじゃなくて、ポンコツだって学んだんじゃない)
【第三王子誕生日事件】
リューションの第三王子の誕生日で、クレアーツィがやらかした事件。
かなり度数の低い酒を飲んで、酔っぱらったクレアーツィが、王子の誕生日を祝うオーケストラに乗り込んで、一緒に演奏。そのまま演奏途中で吐いた事件。
本来ならばそれ相応の対応がとられるところであったが、クレアーツィのこれまでの功績と、当時騎士団の団長であったエストの父が頭を下げたことにより、どうにかおとがめなしということとなった。




