第65話 軍器尖兵エクスターム
【ザンバーの改修】
クレアーツィの手によって、レジスタンスの拠点で各ザンバーはある程度の強化改造が施された。
従来以上の力を発揮してくれることだろう。
「っ、くそっ、やっぱ待ち伏せはされてるよなぁ」
東京エリア上空、マルチドラゴネットに向けて無数の砲火が放たれて行く。
彼らの真下にあるのは無数の人型戦車、その数なんと――。
「レーダー反応、少なくとも五十!!」
竜希の声にクレアーツィは頭を抱える。
「ええいっ、敵が多いっ!」
そう口にしながらも、クレアーツィはゴウザンバーのコックピットへと乗り込んでいく。
たとえ数が多くても、戦わねばならない以上、気にする必要はない。
なにせ、戦うという意思決定にその情報は何ら意味をなさないのだから。
それから少しした頃マルチドラゴネットのカタパルトから、三機のザンバーが飛び立った。
四方八方から放たれる攻撃の嵐をかき分けるように、鋼の勇者たちは地上へと降りて行くのだ。
「……財前寺さん、君は前に出なくてもいいのかい?」
三人の出撃を見送った後、レジスタンスの兵士の一人がそう問いかける。
クレアーツィから各ザンバーの特色というものは、レジスタンスの面々に告げられている。
だからこそ、気になったのだろう。
最大戦力であるドラゴニックザンバーを前線に出さない理由を。
「あー、エストさんに言われてるんですよ、今回の作戦の優先事項」
軽く笑みを浮かべながら、竜希は兵士に告げていく。
「離脱のためにもマルチドラゴネットの損傷はできるだけ避けないといけないんだって」
故に、移動拠点でもあるドラゴニックザンバーは前に出られない。
仮に前に出るとすれば、それはそうしなければならないほどの危機であるということ。即ちあってはならない事なのだ。
とは言え――。
「それに、ドラゴニックザンバーは大きすぎて町への被害が大きくなりそうでさ……」
本来の意味合いとしてはこちらがメイン、どうしようもないとき以外は使えない超兵器。
そもそも前線に飛び出したゴウザンバーですら、全長三十メートルという巨体。
それを格納するマルチドラゴネットが変形する、という言葉だけでその巨大さは想像するまでもなく異様に大きいのだ。
「全長二百メートルは、さすがに大きすぎるよねぇ」
苦笑いを浮かべ続ける彼女の姿を見て、兵士たちは理解する。
(彼らの面々で一番強大な力を振るう彼女が、一番我々にとって理解しやすい存在でよかった)
「まぁ、そう言っても私が前に出なければいけないってなると……ちょっと急に規模が大きくなりすぎてる状態かな、人型戦車の強さがあのレベルならドラゴニックを出せば絶対に負けませんから」
たとえ囲まれて四方八方から攻め込まれてもどうにかなる、それほど自分の愛機を信用しているのだ。
そんな風に彼らは考えつつ、マルチドラゴネットが地上に降り立つまで待機する。
「……俺たちの仕事は俺たちの仕事だからな」
自らが為すべきことを為すために。
「そらそらそらそらそらっ! まずは一気に切り刻むっ! ザンバァァァ! ブゥゥゥゥゥストっ!!」
人々が暮らしていた大都会を占拠する鋼の悪意、人型戦車の軍団に向かい吹雪が吹き荒れる。
元よりスピードの速いブレイドザンバーをさらに加速させる、ザンバーブーストによりもはや目にもとまらぬ速さで駆け回り続ける。
ブレイドザンバーの振るう剣の一太刀が、一刀両断に切り裂けば残るは残骸ただ一つ。
「ファネッリ流剣術! ララメンテッバァァァァラァァァァ!!」
数で押しつぶそうと集まってくれば、それに対して無双の一振りを連続で叩きこむ。
雑兵がいくら来ても、彼女の剣の前ではもはやいないのと同じ。
「っ!」
されど、敵は人型をすれど戦車。
離れた位置から砲塔を向け、一撃を放たんと狙いを定め。
「遅いっ!」
放たれた砲撃に対して、無駄だとばかりにザンバーソードを一振り。
その一撃により砲弾は空中で、ブレイドザンバーに届くことなく無力化される。
天下一の剣士としての側面を持つ彼女にとって、戦車の砲撃など止まって見えるのは至極当然のこと。
砲撃を受け止められる剣があれば、もはや彼女には砲撃が届くことなどありはしない。
そう突き付けるように、放たれる砲撃全てを切り払いながら、撃たれた方向に駆け出しては断ち切る。
神速の領域で、彼女の戦場から悪意の先兵は打ち払われて行く。
「……これ、ちょっと遅すぎません?」
ところ変わって戦場では苛烈なまでに嵐が巻き起こり続ける。
その中心地にはブラストザンバー。フォスト国次代王位継承者が、高層ビルの屋上から敵目掛けて暴風を叩きこみ続ける。
「……数は想定していたよりも多いですが、それだけですわね」
放たれる敵の砲撃には、こちらもザンバーバリスタを構え撃ち落とす。
その間も人型戦車目掛けてキャノンを打ち込み、ただ一つ一つの敵を吹き飛ばし続ける。
「……これなら、エストさんならば下手すれば被弾ゼロあり得ますわね」
相手の戦力を把握しつつ、軽口をたたく余裕まで見せる。
優雅で華麗に、されど厳格でそして勇ましく。
邪悪の野望を吹き飛ばす嵐が、確かに今ここに顕現していた。
「まぁ、あちらはあちら、こちらはこちら……あまりにも人間味が無いせいであれこれ語るのも意味があるのかは知りませんが――」
スカート状のアーマーを摘み、軽く会釈をしてから武装の全てで敵をロックし――。
「遺言書はお書きになりました? リサイクル工場の予約はお済みになって? それではこれよりこの世からさよならですわっ!!」
ザンバーキャノンが人型戦車をぶち抜き、ザンバーバリスタから放たれた一射が、無数に分裂し破壊の旋風を巻き起こす。
もはや敵はないと判断すれば、別の高所にむかって跳び立ち狙撃へと行動を切り替える。
彼女の視界に入る範囲では、完全に戦場を支配する存在、それこそがブラストザンバーとその搭乗者、アーロ・フォストの戦いであった。
「ふー、やってるやってる」
軽口をたたきながら、赤き勇者は敵陣のど真ん中で拳を叩きこみ、背後からの砲撃をすんでのところでいなす。
ゴウザンバーにとって、数の多い敵との戦いはそれほど得意としてはいない。
ブレイドザンバーほどの機動力も、ブラストザンバーほどの制圧力も存在しない。
それはそうだ、ゴウザンバーは戦闘向けの機体としては設計されていなかった、クレアーツィは本来兵器を作る人間ではないのだから。
それでもなお、何が起きても対応ができるようにと力を注いだ結果がゴウザンバー。
「ザンバーフィストォォオっ!!!」
咄嗟の機転と、搭乗者であるクレアーツィが誰よりもザンバーについての知識を持っていること、それだけが他の面々よりも優れているところ、だった。
そう、かつてはそうだった。
だが今は違うのだ。
解き放たれた魔導力の全てを籠めて拳が飛ぶ。人型戦車の装甲をまるで紙か何かと同じだとばかりに貫いてゆくのだ。
それも十機の敵を一度に。
魔導具であるゴウザンバーは、当然籠められる魔導力の量が増えれば増えるほどに力を発揮しやすくなる。
そしてクレアーツィは転生者となることで、もともとの魔導力自体を格段に増加させることで、常に最大出力での攻撃を可能とした。
燃え盛る豪炎が如く、ゴウザンバーの攻撃の全てが致命傷へと変わっていく。
火力という一点において、ドラゴニックザンバーという規格外を除けば頂点へと至っていた。
「――が、そろそろレベルを上げるとしようか」
東京の全域に響き渡る男の声、その声を聞けばこの地球の人間も、そしてクレアーツィ達も誰なのか一瞬で理解する。
「ビートゥ・ネルトゥアーレ!」
クレアーツィの言葉が虚空に届くはずもなく、ただ一方的にビートゥは言葉を紡ぐ。
「クレアーツィ、貴様らの流儀に倣ってこちらも名付けてみた」
その言葉とともに猛スピードでレーダーへと無数の反応がやってくる。
「……新型かっ!」
人型戦闘機、人型ヘリコプター、兵器を無理矢理人型にしたであろう代物が無数に東京の街に向かってくる。
「軍器尖兵エクスターム、実に面白いだろう?」
ビートゥの言葉が東京の街に響く、終わらない悪意だけが世界を支配しているのだと告げるように。
【ザンバーブースト】
ブレイドザンバーに搭載された、機動力を強化するための装備。
これによって、従来の数倍の速度での戦闘を可能としている。無論速度が向上する以上、破壊力もまた強化されている。




