第6話 異世界からの来訪者!? 謎の少女現る
【ゴウザンバー】
全長30mの人型搭乗魔導具、開発者はクレアーツィ・プリーマ。
一般的に流通されている魔導石のすべての種類を搭載することにより、ほぼ全ての事象に対してその出力のロスをほぼなく使うことができるという特性を持つ。これは搭乗者であるクレアーツィが搭載しているすべての魔導石に適性を持つからこそできる荒業であり、これによりゴウザンバーの性能を発揮するにはクレアーツィの様な大量の魔導石各種への適性を持たねばならない。実はこの各種適性を持つというのは非常に稀な素質であり、大陸全土で見て100人ほど。大体20,000,000人に1人の確率というもの、兵器として欠陥品というのはそういう点もあったりする。
「だめねぇ何人か来てくれる人もいたけど――」
「マルチドラゴネットを動かすには魔導力が全然足りない、だよなぁ」
命を賭けて戦場に向かう、などと言われて素直に行くことができる人間などそうはいない。
戦士になり戦うという訳ではなくとも恐ろしく感じるのは当然である、それでもなおと参加する意思を示した者たちがいるだけでもありがたい話であった。
「とは言え時間がかかるなぁ、これは」
「そっちの調子はどう?」
クレアーツィは端的に説明する、新型ザンバーの設計図はすでに完成済み、後は実際に作るだけだと。
一日も経たない間にここまで進んだのはもともと設計のパターンはいろいろと用意していたから。後は要望通りに修正すれば問題なく作れるのだと簡単に説明して見せる。
それよりもマルチドラゴネットを起動できるようにする方が先に解決しなければならない話だとクレアーツィは告げる。
「ま、それなら気分転換に森でも行く? 最近は見に行ってないから変なのいるかもしれないし」
「変なのって、あの規模の森だぞ……なんかいても大したものはいないだろ」
近くの森の規模を考えてそう口にする。ドラゴンなんかはもっとデカい森か、もしくは山の方にいる生き物だし、あの辺にいるのはせいぜい小動物レベルの生き物だ、と口にして思い出す。先日何があったのかを。
「変な生き物はいないかもだけど、変な奴はいるかもでしょ?」
「……嫌だねぇ、人間同士ってのは」
そう口にしては二人はその例の森に向かっていき――。
「ここどこぉ、転生者ってもっとまともな場所に出るモノじゃないのぉ……」
その森には半泣きの少女がさまよっていた。
「うぅ……なんか見たことあるような果物があったからそれ食べて生きてるけどぉ……これ死ぬ奴じゃん、転生したけど何もできずに死にましたって?」
ぶつぶつと口にしながら少女はただただ出口を求めて、同じ場所をぐるぐると回っている。シンプルに道に迷ってしまったのだ。
「誰が読むんだよ、そんなタイトルでー! 転生して活躍できなくてもいいから何かさせろよー!!」
そのこれまでで一番大きな叫び声が森に響き。
「うわ、確かに変な奴いた」
赤い髪の男が苦笑いを浮かべていた。そう、クレアーツィ・プリーマその人であった。
「え、だれこのイケメン」
「それは俺が聞きたいんだけど?」
その反応を見てクレアーツィは思考する。
まずこのあたりに住んでいる人である可能性は限りなく低い。
祭りがあれば必ず参加し盛り上げ、顔の知られた人物であるのだから「当然誰?」などという可能性はほぼ皆無だ。仮に目が見えないという理由で顔を知らないのであれば、自分の顔を見てイケメンなどという、視覚的に顔を評価する反応も出るはずがない。
では皇国の人間か、これもまぁほぼないとみていい。
あまりにも素の反応すぎるし、皇国の人間でここまで来るのならばこちらを殺すなり拉致るなりするのが目的だと考えられる。
ターゲットの顔を知らないとかありえないし、知っててこの反応ができるのならよっぽどの演技力の持ち主だ。そんな奴がそう簡単に現れてたまるかという訳である。
「ま、いいや、俺はクレアーツィ・プリーマ……騎士にして大陸一の機械技師、君は?」
「あ、わ、私は――」
自分が何者なのかを伝えようとして――。
(……この場合何と名乗ればいいのよ、転生前の名前そのまま使って大丈夫?)
そう彼女は思考を始める、実は知らない間に戸籍的なものが存在するかもしれない、実は転生したのはずっと前で、ついさっき前世の記憶を取り戻したという面倒くさいパターンかもしれない。などといろいろと考えに考え抜いて。
「私は財前寺竜希、遭難してるの」
もう面倒くさいから全部さらけ出そうと考えた。
適当にごまかしたところで嘘つきとして見られたらいろいろと面倒だから。
などというそれらしい理由を頭の中では述べているものの、結局はそれらしい嘘が思いつかなかったのである。
「財前寺竜希……珍しい名前だな、っておいおい、遭難ってマジ――」
と最初は遭難しているという発言に呆れ果てた様子を見せていたクレアーツィであったが。
「いや、マジかおい!!!」
とあることに気が付いた様子で、反応が別のモノに変わる。
「なんだその魔導力量、俺もまだ若いけどそれでも今まで見たことのない量だぞ」
クレアーツィは竜希の持つ魔導力量に軽く引いていた。魔導力量というのは一種の才能である。たとえどれほどの天才が数百年鍛えたとして一切増えないのが魔導力の量である。そして竜希の持つソレは常識の範疇から逸脱するソレで在った。
(……これだけの量の持ち主が、俺の耳に一切入ることがなかった?)
思考する、クレアーツィの名は大陸でも屈指の有名人であり、またその名声もあってか技術面の話という条件の身ではあるがいろんな情報が入りやすい。
そして魔導力の量というのは極論一人の人間が扱える道具の性能や数に影響するモノ。そしてクレアーツィが少々、いやかなり自重ということをしない機械技師であるということは有名である。
マギアウストの性能も彼の設計段階では人間一人一人が持つ平均魔導力量の限界ぎりぎりまで使える分を想定したものである。
(……こいつ、何処から来た!?)
呼吸が荒くなる、口が勝手に笑みを浮かべる、瞳が彼女を逃さない。結論だけ述べるとすればクレアーツィは――。
(こいつがいればマルチドラゴネットは起動どころか強化までできるぞ!!)
すこぶる興奮していた。ちょっと初対面の相手にしていい表情をしていなかった。当然のことではあるが――。
(この人怖い!?)
竜希はドン引きしていた。それはもう初対面の助けてくれるかもしれない相手にしていけないレベルで引いていた。
だが誰が彼女を非難できようか。見る限り体格のいい男が、明らかにこちらに興奮した視線を向けている。
竜希は膨大な魔導力を持っているが、持っているだけである。その使い方を知らない以上、それはもう持ってないのと同じである。
ついでに言えば別に竜希は格闘技なんかを習っていたわけでもなければケンカ慣れしているわけでもない。
前世は結構なお金持ちで裕福な暮らしをしていたという点を除けば一般的な女子である。どう考えても怖いのは当然であった。
「……っと、すまないあまりにも珍しい物を見てしまった……とりあえず近くの町まで送ろうか?」
「け、結構です」
あまりにも怖くて伸ばされた救いの手を跳ねのけてしまうのも、まぁ仕方ないことであった。
実に当たり前の話だが、屈強な男が興奮した様子でじーっと見つめてくる。
……明らかに助けてくれる相手とは思えないだろう。
「クレアーツィ、何か大きな声が聞こえたんだけどどうしたの?」
そして、その状態を知ってエストがやってくる。そしてこの状況を見て察する。
「クレアーツィ、あんたその子の事怖がらせたのね?」
まるでいつものことといった様子でそう告げる。いや、実際よくあることなのだ。クレアーツィは決して悪人ではないものの、常識や相手の事よりも自分のしたいことを優先してしまう所がある。それも無意識でという問題児であった。
「ごわ゛がっだぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」
「おー、よしよし」
竜希はまるで怯えきった幼子の様に、エストに抱き着き涙と鼻水を垂れ流す。そして当然この惨状を生み出した元凶に向けて――。
「クレアーツィ、この子に謝って」
「すんませんしたーっ!!」
謝罪を要請、クレアーツィは即座にその場に五体投地しては謝罪の言葉を述べるのであった。
【転生者】
文字通り転生した者のこと、それ以上でもそれ以下でもない。訳ではなくそれを自覚している者のみを指す言葉。
というのも転生の捉え方にもよるが輪廻という捉え方で見た場合生きとし生ける者すべてが転生し続けているからである。結局自覚しているかどうかが一番重要な点であるのではないか、とは竜希の意見である。